ひとプロジェクト 第42回【後編】緑成会整育園 事務長/野澤 大輔さん
緑成会整育園
事務長
野澤 大輔 さん
Nozawa Daisuke
福祉を志した時からの変わらぬ想い
利用者さんのため、緑成会整育園をもっとより良く!
地域の障害を持つ方を支える施設である緑成会整育園の事務長、野澤大輔さんの後編です。今回は、野澤さんのお仕事や、緑成会整育園の今後にスポットを当てます。医療の発達や、社会状況の変化のなか、受け皿として問われる、園としてのあり方についてお話をお聞きしました。また、野澤さんが関わり、2020年11月に開設予定の障害者支援施設「ココロネ板橋」についても、ひと足早く情報を伺っています。ぜひご覧ください!
発達障害の方の
相談窓口に大きな需要
緑成会整育園の地域での役割についてはどうお考えですか。
基本的にここの入所については、東京都で約600人いらっしゃる入所待機者の方から、在宅生活が難しい方が優先的に入られて、生活をしていただく場所となります。3歳から入る方もいれば、20代、30代になってから入る方もいて、いわばここが長く過ごしていく自宅になるわけです。ですので、そのなかでの暮らしをどう豊かにしていけるか、ということが大きな命題となります。
生活の場として充実させていくことを目指すわけですね。入所以外のサービスについてはいかがですか。
入所は東京都全エリアが対象ですが、短期の入所や通所、小児科の外来については、より身近な地域の方が利用されるので、近隣のニーズに応えられることを目指したいですね。
今後はどのような役割があるとお考えですか。
今までは、外来について、重症心身障害の方をメインでやってたんですが、現在は、発達障害のお子さんを対象としたニーズが非常に高くなっています。
そこにはどのような背景があるのでしょうか。
僕が塾講師をやっていた時の経験もお話しましたけど(※)、当時はそこまで一般的ではなかったアスペルガー症候群などが、今ではよく知られるようになってきました。以前は「変わった子」とだけ認識されていたものが、社会的な認知度が上がってきたわけです。
社会的に認知されたことで、相談を求める方も増えてきて。
ただ、社会的認知度は上がってきていても、実際にどこが相談窓口で、どこにかかればいいのか、ということについては、認知が追いついていない、と言えると思います。
特に医療に頼らず、そのまま生活されていく方もいらっしゃいますか。
多いと思いますね。その状況で、今は本当に少しずつ、緑成会整育園への問い合わせや相談が増えてきています。そういった方のためにも、医療機関としてどうあるべきか、ということも重要です。
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医療の発展に伴って
新たな課題に直面今後はどのような課題があるとお考えでしょうか。
医療が発展したことで、重症心身障害の方を取り巻く状況が変わってきています。例えば、以前までは医療ケアが必要なお子さんというと本当に重度の方だったのですが、最近は技術が進んで、例えば気管切開をしているお子さんも、今は普通に動けるようにもなっていて、小学校にも通っている子もいるくらいなんです。いざという時の吸引も自分ですることができますし。
以前と違って、学校生活が成立するようになったケースも増えたのですね。
特別支援学校に通うお子さんだと、吸引については学校の看護師さんがやってくれますし、通えるようになったケースも多いです。それ自体はとても良いことなんですが、問題は、制度側が追いついていないことにあります。
どういうことですか。
通所に関して、こちらの受け入れに関するグレーゾーンが広いというか、実際そういうお子さんが、一般的な放課後等デイサービスに通えるかというと、看護師さんがいないといけませんし、そうなると学童保育や児童クラブも難しいと。では重症心身障害者向けの放課後等デイサービスでお預かりするとしても、そちらは寝たきりのお子さんがメインですから、一緒に活動することが難しいんです。
そういった問題がまた新たに出てきていると。
こういった狭間でさまざまな課題があるんですが、自分たちはそこでどう受け皿となっていくべきか、というのは常に考えるところです。
医療が進むのは喜ばしいことですが、そのことでこぼれるものがあってはいけないですものね。
重症心身障害の方についても、医療の発達によって以前より平均寿命が長くなったことで、全国の施設で高齢の入所者さんが増えているんです。そのため、これまでは寿命を迎えてお亡くなりになる、ということが施設内では一般的だったのが、最近は悪性腫瘍や成人病への対応を迫られるケースも出てきています。
高齢化が進んだことで、そういった病気のリスクも増えてきたわけですね。
その治療が必要になった時、今はそこまでの医療を行う機能がここにはないので、急性期病院に移ってもらうんですが、その治療が終わったとしても、回復期リハビリテーション病棟や医療療養病棟に移って訓練ができるとは限らないんです。そのため、治療後すぐにこちらに戻られて、リハビリテーションに取り組むと。
通常行っているのとはまた違うリハビリテーションも行う必要がありますね。
問題はいろいろとあるので、今までの重症心身障害児施設や外来、通所のあり方でい続けることが、どんどん難しくなってきています。特に通所は受け皿が少ないですし、今は自分たちがやれる限りでやらせてもらっていますけど、困りごとも多様化していますね。今まで見たことのなかった問題が出てくることに関して、緑成会整育園としてのあり方が問われているところです。
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障害をお持ちの方をサポートする
複合的な多機能施設「ココロネ板橋」
グループのケアホーム板橋に隣接して2020年11月に開設予定の「ココロネ板橋」についても伺います。こちらに野澤さんも関わっているとお聞きしました。
この話自体は、まだ僕が事務長補佐だった頃に初めて聞きました。その時はどうやって関わるかということは決まっていなかったんですが、今は運営について、緑成会整育園のスタッフが中心で動いているので、主にその補佐的な形で関わっています。
どういった施設となるのでしょうか。
多機能的な障害者の方のための施設になる予定で、就労継続支援B型事業所(※)や児童発達支援など、通所の機能がいくつか入ります。入所はショートステイのみですね。あとは、施設内に板橋区からの委託事業として『板橋区発達障がい者支援センター』が入って、そちらは先行して4月から開設となりました。
※就労支援B型事業所:障害により企業などに就職することが困難な方に対し、負担の少ない短時間で働ける場所を提供する事業所。非雇用型の支援なので、本人の体調に合わせ無理なく仕事に慣れていくことが可能です。『板橋区発達障がい者支援センター』とは、どのようなものですか。
これは板橋区独自の事業です。発達障害がある、または疑いがある方でおおむね16歳以上の方に向けた相談窓口となります。介護サービスで言うところの地域包括支援センターみたいなもので、ここを入り口に、困りごとのある発達障害者の方と、法制度や行政サービス、社会資源をつないでいくものです。
発達障害の方に向けた相談窓口が求められているという話は、先ほどありましたね。
この準備にあたっては、区の担当者と発達障害者の家族団体のみなさん、発達障害に関わる区内区外の有識者・関係者のみなさんと毎月話し合いをして、どういうことをやるべきか、ということを詰めていきました。
通所の方はいかがですか。
生活介護事業と呼ばれる、いわゆる障害通所サービスを開設予定です。そちらは重症心身障害者の方向けクラスと、知的障害を含めたさまざまな障害の方向けのクラス分けになります。それと、児童発達支援という、未就学の障害児のための保育園のようなサービスも行います。
さらに、就労継続支援B型事業所の機能も入るわけですね。
グループのOUCHI(※)のように、ここでもカフェや工房を開く予定です。支援センターにいらっしゃるような、板橋区にお住まいの方の利用がメインになると思うのですが、発達障害で困ってらっしゃる成人の方の就労支援を、カフェや工房とリンクして行っていく事業です。どんな内容にしていくか、徐々に詰めていっています。
※OUCHI:東京都足立区、大内病院近隣に立つ、精神障害を持つ人たちが地域に戻るためのサポートをする施設。カフェとしても営業中です。くわしくはOUCHIのサイトをご覧ください。OUCHIやココロネ淡路(※)のように、利用者さんが作ったものを販売していくというような形でしょうか。
それとともに、発達障害の方向けの作業として、パソコンを使った就労支援も進められたらと考えています。
※ココロネ淡路:「つながる」をコンセプトとした、兵庫県淡路市にある就労継続支援B型事業所。クラフト素材やコーヒーバッグを商品として作っています。くわしくはこちらのインタビューをご覧ください。作業もさまざまに行えると。カフェなどは一般のお客さんも立ち寄れるものですか。
作業もさまざまに行えると。カフェなどは一般のお客さんも立ち寄れるものですか。
作業もさまざまに行えると。カフェなどは一般のお客さんも立ち寄れるものですか。
その予定です。もちろんココロネ板橋でも、緑成会整育園でのノウハウを活かせるように積極的にサポートできたらと思っています。緑成会整育園を良くしていくためには、ココロネ板橋のことも知らないといけないですし、OUCHIもそうですが、リンクするところはいっぱいあるので、お互いに良くなっていけるように学んでいきたいです。
※ココロネ板橋では求人募集を行っています! くわしくはココロネ板橋採用特設サイトをご覧ください。 -
緑成会整育園をより良い施設に
することがモチベーション
個人的に、お仕事で今後の目標はありますか。
僕の目標はもうずっと前から変わらないです。この緑成会整育園を、利用者さん・患者さんにとって良い施設にしていく、ということだけですね。
引き続きそこに取り組んでいく。
それが最初に福祉を志した学生の時からの夢ですね。もちろん大変なことも多いんですけど、それを今やれていることについては楽しさがあると言うか、僕の仕事のモチベーションになっていると言えます。
楽しさというのはどういった時に感じられますか。
ここまでを振り返った時に、現場スタッフとしてモヤモヤしながら仕事を続けていた時期と比べると、今は前向きに取り組めているんです。当時は、良い施設にしたいと思っても、僕はそれを叶えるための調整や課題解決ができませんでした。今はそこに携われる立場になったことで、より面白みを感じられるようになったと思います。
このポジションだからこそできることというのがわかって。
全体を見る立場に就いたことで、問題解決のためにはたくさんの経験や勉強を積み重ねることが必要だと、身をもって感じました。上手くできずにただモヤモヤしていた自分はまだ青かったのかもしれないなと、今は思います。課題は山のようにあるんですけど、あの頃と一緒で1人じゃできないので、みんなと一緒に取り組むということを、今は事務長としてやっている感じですね。
その時からの気持ちが引き続いて、モチベーションになっているのですね。
僕の人生観としても、仕事が上手くいくことがプライベートにも良い影響があると思っていますし、自分の子どもたちにも「お父さんは仕事をがんばっている」っていうところを見せられたらいいなと思っています。
がんばっている背中を見せられるといいですね。お子さんは今おいくつですか。
今は10歳、8歳、4歳、0歳です。
4人も! お父さんのお仕事については何か言っていますか。
いや〜、まだ理解はしてないですね。事務長の仕事って子どもには説明が難しいです(笑)。
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楽しみは4人の子どもの成長
お休みの日はどう過ごしていますか。
まあ〜4人もいるので、やっぱり子どものことが多いですね。
ちなみに、4人の構成はどんな感じでしょうか。
上の2人が男の子、下2人が女の子です。みんな性格が違って面白いですよ。
お子さんとはどう過ごすことが多いですか。
上の2人とはゲームばっかりやっていて、僕もこの歳になって『スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)』とか『フォートナイト』をやり始めています。
お子さんの方が上達が早そうですね。
それはもう上手ですよ。あとはリビングにホワイトボードを置いてあるんですけど、そこで勉強を教えてあげることもあります。
お〜、そこはさすが元塾講師ですね。
やっぱり教師を志していましたので。それはとても面白いですね。
趣味はありますか。
今は本当に子どもと過ごすことが多いので、個人的な趣味をやっている時間っていうのがあまりないです。あ、でもたまに家族みんなでキャンプに行きますよ。
ご家族大勢で行くのは楽しそうでいいですね。
ご家族大勢で行くのは楽しそうでいいですね。
(笑)。今後、個人的にやりたいことありますか。
強いて言えばハワイは行きたいですね。僕は3人兄弟の長男なんですが、3番目の弟が結婚式を挙げる時はハワイだと聞いているので、早く結婚してほしいなって(笑)。
これからのお話なのですか(笑)。楽しみですね〜。
でも一番の楽しみは、何より子どもたちの成長です!
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前編を読む

緑成会整育園 事務長 野澤 大輔(のざわ だいすけ)
【出身】富山県小矢部市
【資格】社会福祉士
【趣味】家族とキャンプ
【休日の過ごし方】とにかく子どもと遊ぶ
病院情報

東京都小平市小川町1丁目741-34
緑成会整育園
小児科(小児神経科)、歯科、リハビリテーション科肢体不自由児施設として開園し、重症心身障害児(者)施設を経て、今年で65年以上の歴史を持つ、医療型障害児入所施設です。2016年10月に新築移転。より多くの方がご利用いただけるよう入所病床は倍増、通所サービス内容もリニューアルいたしました。これまでに得た経験や知識を活かし、肢体不自由障害のみならず発達障害など障害を持つより多くの方をサポートします。また、見てわかる身体の障害だけでなく、周りの環境にも注目し、多様化する家族形態から生まれる孤立した育児環境や、なぜその障害を持ったのかという障害背景など、見て捉えにくい悩みにも対応・支援できるよう体制を整えていきます。