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特集記事|Diversity & Inclusion vol.3

すべての人はダイバーシティの当事者だと伝えたい。
多様性を認め合うグループを目指して。D&I推進室座談会

Diversity & Inclusion2026.03.10

平成医療福祉グループのビジョン「じぶんを生きる を みんなのものに」は、患者さんもご家族も職員も、グループに関わる一人ひとりが、自分らしく生きられることを目指すもの。そこには当然、さまざまなマイノリティも含まれます。そもそも「自分らしさ」とは、一人ひとりまったく異なり、その一人ひとりが「じぶんを生きる」ためには、多様性を包摂することは前提条件と言っていいほど大切です。


だからこそグループでは「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」を積極的に推し進めてきました。その先頭に立ってきたのが「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進室」。それぞれ本職の業務があるなかで、D&Iの重要性を痛感して集まったメンバーで構成されています。今回は、中心となっている4人にお集まりいただき、活動に込めた思いと具体的な取り組みについて伺いました。

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<プロフィール>
松本 武士(まつもと・たけし)
大内病院 リハビリテーション部 課長。D&I推進室メンバー。2015年4月に大内病院に入職。2020年にはACTの立ち上げに関わり、ACTチームリーダーに。2023年4月から2025年3月まで人事部に異動し、大学院で精神科リハビリテーションについて学ぶ。4月より現場復帰し、現在は精神障がいの回復期にいる患者さんが多く入院している病棟を担当している。2026年1月より現職

稲垣 光義(いながき・みつよし)
平成医療福祉グループ 法務部 部長代理。D&I推進室メンバー。バーコードや非接触タグの読取モジュールの研究開発、高専の就職支援事業の助手、省庁の事務補佐員や任期付職員、左官業の番頭など、さまざまな職種を経験したのち、2016年に世田谷記念病院総務部に入職。その後、人事部へ異動し、法務的な仕事を担当するように。2021年より法務部へ。

鈴木 礼子(すずき・れいこ)
平成医療福祉グループ 法務部 主任。D&I推進室メンバー。2010年に緑成会病院リハビリテーション部に理学療法士として入職。2015年に人事部へ異動したのち、2021年に法務部に配属され、現職。

黒澤紗季(くろさわ・さき)
平成医療福祉グループ チームデザイン部 合宿コーディネーター。D&I推進室メンバー。2019年、理学療法士として平成横浜病院に入職し、2022年より多摩川病院にて勤務。2023年度「つなぎてプロジェクト」につなぎてとして参加したのち、2024年より人事部に配属。2025年よりチームデザイン部に異動し、現職。

多くの人は、課題があることにも気づいていない

鈴木礼子さん

D&I推進室が正式に設立されたのは2023年4月ということですが、実際にはその1年半ほど前から準備を進めていたそうですね。まずはみなさんが、どのようにD&Iに興味をもって、D&I推進室のメンバーになったのか、理由を教えてください。

鈴木:私は、D&I推進室が設立されるきっかけとなった「またあしたプロジェクト」で、障がい部門の就労支援に取り組んでいました。ただ、LGBTQ+については知識がなく、問題意識もありませんでした。今思えば、何もわかっていない一職員だったんじゃないかと思います。だから正直、最初は松本さんがやるならお手伝いしたいという気持ちだけではじめたところがあります。でも、いろいろ教えていただいたり、勉強会を続けるなかで、あとから課題に気づいていきました。

これは取り組まないといけないと思ったきっかけは何でしたか。

鈴木:それ以前に、私は本当に現実がわかっていなくて。LGBTQ+の当事者は10人に1人もいるとされています。日本によくある名字の「山田」や「鈴木」と同じぐらいの割合だと聞いてはじめて、遠い世界にあると思っていたことが、こんなにも身近なことだったんだと気がつきました。と同時に、グループ内にも患者さんにもLGBTQ+の人たちが間違いなくたくさんいるはずなのに、まったく声を上げられていないということに衝撃を受けました。

現場には、常にさまざまな課題があります。でもそれらをちゃんと顕在化させて、すぐに解決はできなくてもみんなで取り組んでいこうという意識は共有されています。でもLGBTQ+に関しては困っている人がいるということ自体に、私たちがまったく気づいていない。私は、そこが一番の課題ではないかと感じています。まずは、正しいことを知ってもらうところからはじめたいと思いました。

稲垣光義さん

稲垣:私も、最初は松本さんがきっかけだったというのは間違いないですね。今の熱量から考えると、当時はお手伝いしているという意識が強かったと思います。能動的になったきっかけは「またあしたプロジェクト」で、2021年に「マジョリティ特権」を研究している出口真紀子先生の話を聞いたことでした。その話がすごく自分のなかでフィットしたんですね。

マジョリティ特権とは、マジョリティ側の社会集団に属することで、苦労せずとも得られる優位性や権力のこと。僕はもともと、マジョリティ100%の人間なんてこの世にいない気がしています。みんな何かしらのコンプレックスがあったり、マイノリティ性をもっているはずなのに、なぜかそのことは意識していない。これはダイバーシティやLGBTQ+の話にもつながると思ったときにすごく納得して。それがすごく大きかったですね。

黒澤紗季さん

黒澤さんは立ち上げ時にはいなかったんですよね。

黒澤:そうですね。私はもともとリハビリテーション部にいて、2023年9月に人事部に異動しました。そのときに人事部として何がしたいのかを探す時間をいただいたんです。

ちょうどそのタイミングで、知り合いからカミングアウトを受けたんですね。当時の自分はまったく知識がなく、カミングアウトしてくれた人に対して、正しい反応ができませんでした。そのせいで、悲しい思いをさせてしまったんじゃないかという後悔がずっとあったんです。だからちゃんとD&Iについて学びたいと思ってそのことを話したら、みなさんが「ぜひ一緒にやりましょう!」と言ってくれました。

みなさんそれぞれ、どこかのタイミングで自分ごととして考える意識が芽生えたんですね。D&I推進室のメンバーは何人いるのですか。

鈴木:コアメンバーはこの4人と、あと3人います。今は3チーム体制になっていて、今日集まっているのは「SOGI*/LGBTQ+」チームの4人です。最近1人増えて5人になりました。ほかに、私と稲垣さんは「障がい」チーム、松本さんと黒澤さんは「人種・国籍・言語」チームも兼任しています。「障がい」チームにはほかに2名いて、「人種・国籍・言語」チームには人事部の外国人採用チームに入ってもらっていますね。
**SOGI (ソジ、ソギ)「性的指向(Sexual Orientation)」と「性自認(Gender Identity)」の頭文字を取った言葉。性的マイノリティ(LGBTQ+)だけでなく、多数派も含めたそれぞれの性のあり方を捉えるための概念。

当事者の視点で困りごとにアプローチする

鈴木さんと稲垣さんは、なぜ「障がい」を担当することになったのですか。

鈴木:私と稲垣さんは法務部として日々多くの相談を受けていますが、そのなかには職員の特性に関する悩みも含まれます。

現場の「対応に苦慮している」という声についてくわしく状況を紐解いていくと、「本人の課題」とされていることのなかには、周囲の理解やほんの少しの環境調整(コミュニケーションの工夫など)で解消できるのではないかと感じられるものもありました。

誰か一人が無理をするのではなく、個々の特性を正しく理解し、仕組みを整えることで、誰もが本来もっている力を発揮できる。そんな「お互いにとって最適な働き方」を形にしていきたいと考え、障がい者チームの推進に携わるようになりました。

稲垣:診断がついていない、障がい者手帳も持っていないけど、明らかに働きにくそうにしている職員の方と自分との違いは、多様性のグラデーションの差でしかないと思っています。事務長・施設長からのシビアな相談もあるなかで、法務部として、はたして法律や就業規則といった視点でどう判断をするのがよいのかを日々悩んでいます。この活動を通して、法務的な視点とダイバーシティの視点の両方を持ち合わせて判断できるようになったら、すごくいい形で対応できるのではないかと思いました。

松本武士さん

「人種・国籍・言語」チームはどんなことに取り組んでいるんですか。

松本:「人種・国籍・言語」は、まだまだこれからですね。まずはやりやすいところからということで「やさしい日本語 就業規則」をつくったのが最初のプロジェクトでした。

「やさしい日本語」は、文法や言葉のレベル、文章の長さなどに配慮して、わかりやすくした日本語のことですね。

黒澤:グループでは少なくとも数百人の外国籍の職員が働いています。彼らにとっては、漢字がたくさん並んでいる就業規則は、読んでもよくわからないんです。でも就業規則を理解するのは、働いてもらううえで大切なことですよね。

そこで、外国籍のメンバーにもチームに入ってもらい、わかりづらい箇所を確認しながら一緒につくっていきました。日本語話者である私たちが読んでも「やさしい日本語 就業規則」のほうが断然わかりやすいんですよ(笑)。完成した就業規則は、グループ全部の病院・施設に配布しましたが、現場の職員から、ここを変えてほしいとか注釈を入れてほしいといった要望がくるので、すでに1度改訂しました。

「多様性といっても、いろいろな多様性があります。D&I宣言では、人種、国籍、言語、性的指向、性自認、障がい、疾病、性別など、自分が選んだわけではないことで不利益を被ることがないように、という思いを込めました」と松本さん

少しずつはじまっているということですね。「SOGI/LGBTQ+」チームで取り組んできたことも教えてください。

松本:研修は以前から、形は違っていましたが毎年やっていました。D&I推進室としては、ダイバーシティ&インクルージョン宣言をつくったのが最初ですね。

稲垣:それとほぼ同時進行で、同性パートナーシップ制度の制定とハラスメントの禁止を就業規則に盛り込みました。法律上の婚姻でないと、社会保険への加入は難しいのですが、就業規則の範囲で運用できるものを考えて、結婚休暇や病気休暇の取得を、結婚している人たちと同じく利用できるようにしました。

同性パートナーシップ制度を利用している方はどのぐらいいらっしゃるんですか?

稲垣:現時点で4組ですね。利用するか悩まれたうえで、今のところは情報だけ聞いて考えますという方もいるし、おそらく利用しない人もいるはずなので、実際には制度の対象者はもっといるはずだと思います。

松本さんは同性パートナーシップ制度の認定第1号ですね。

松本:そうですね。写真を撮って、認定証をもらって、あとお祝いに1万円もらいました(笑)。自分自身、そういう制度があるといいなと思って検討はしていたんですね。でも、検討しながらも、国が同性同士の婚姻を法制化してくれたら、こんな制度いらないのにな、とも思っていました。ただ、現状はそうではないので。

異性カップルであっても、別にみんなが結婚するわけではないですよね。するしないは本人たちの自由で、これは同性カップルも同じです。でも選択肢がないのは明らかに格差だから、最大限同じ権利を保障したいと思いました。選択肢がない人に選択肢を届けるっていう気持ちが自分としてはいちばん強かったですね。

同グループ代表・武久敬洋さんから、同性パートナーシップ認定証を受け取る松本さん

知るきっかけをつくり、ALLY(アライ)を増やす

D&I推進室のみなさんは、グループ内でマイノリティとされる方たちの「じぶんを生きる」を「みんなのものに」しようとしているのだなと感じました。一つのチームとして3年近く活動してきて手応えを感じていること、逆に課題だと感じていることはありますか。

松本:特にLGBTQ+の活動は、当事者主導の活動になりやすいところがあります。でも、当事者の声だけだと、どうしても届かないものがあるんですね。今、当事者性を開示して活動しているのは自分だけですが、D&I推進室にはALLY(アライ:LGBTQ+を理解し、当事者を支援する人)のメンバーがたくさんいて、一緒になって考え、取り組んでくれています。そのバランスが個人的には本当にありがたいです。みなさんが、こういうスタンスでD&Iに向き合えばいいんだっていうことを体現してくれている。そこにはすごく意味があると僕は思っています。

鈴木:ALLYの認定制度をつくったのですが、最近ALLYが60人を超えたことで、はじめて手応えを感じました。それまでは、研修をやっても片手で数えるぐらいの人が参加してくれるだけで、ALLYも増えなかったんです。でもやり方を変えて、私たち自身が全国の病院や施設を回り、いろいろな人に研修を受けてもらえるようにしたんですね。当事者の方にも来ていただいて、直接話を聞けるようにするなど工夫をしたら、1回の研修で10人近くALLYになってくれたこともありました。

だから、とにかく知るきっかけをつくるのが大事なのだなと。グループの職員は、知りさえすれば何とかしたいと思って動いてくれるということを、今すごく実感しています。

松本:社会心理学では、少数派の意見でも全体の3割を越えると無視できなくなると言われています。クォーター制を導入するときに3割が基準になることが多いのも、それが理由です。今、推進室では、ALLYの職員が3割いることを目標として掲げています。すると、ほかの7割の人はあまり関心がなかったとしても「ちゃんとやらないといけないらしい」となって、ある程度影響力が出てくると思います。

それと、まだ全然取り組めていないのがジェンダーの問題です。ジェンダーはLGBTQ+の問題以上に難しいですね。LGBTQ+は90%の人が非当事者だから、勉強する対象になる。でもジェンダーの話になると、その瞬間にみんなが当事者になって、それぞれに言い分や守りたいものが出てきます。たとえば、平成医療福祉グループはD&Iを積極的に推進していますが、女性の管理職の割合はいまだに低いんです。

そう言われると確かに。でも、今指摘されるまで、気づいていませんでした…。

松本:そうなんですよ。それこそアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)で、悪気はないし、無意識にそうなっているだけなんです。今は、上位の役職者になればなるほど、男性の比率が高くなっているような印象があります。私も当グループでD&I推進室の立ち上げに関われたり、取材を受けさせていただいたり、すごく良くしてもらっています。でもそれも、自分が男性だから評価されやすかったり、同じだけ努力をしても、男性のほうが「努力している」と認められやすい側面があると思っているんです。

だから、同じようにがんばっている女性がきちんと評価されるようにしていきたい。実は1月から課長になったのですが、一定期間務めたら男性ではない人が昇進する機会をつくるためにポジションを空けることも必要なんじゃないかと考えています。ポジションの数は限られていますからね。

Tokyo Pride 2025 Paradeにて、ALLYとして行進するD&I推進室のメンバー、同グループ副代表の天辰優太さん

全員がダイバーシティの当事者である

まだまだできていないことも多いというお話もありましたが、みなさんそれぞれ5年後、10年後を見据えた目標があれば教えてください。

鈴木:それぞれの多様性を認めあえるグループになりたいと思っています。お互いに足りないところを補い合えるようにして、職員全員がお互いさまと自然に思えるようになりたいです。

稲垣:私はこれからますます個別主義が進んでいくのではないかと危惧しています。そこに対して、多様性は真逆の位置にあると考えていて。性自認も発達障がいも国籍も人種も、多様性のグラデーションでしかない。マジョリティとマイノリティの区別はあっても、全員がダイバーシティの当事者です。個別主義が進んでいくなかで、特にそこは伝えていきたいと思っています。

黒澤:医療者は患者さんと向き合うことが当たり前にできる人たちだし、患者さんの背景を知るためなら情報を積極的に取りにいく人たちばかりです。だから私は、早いうちにALLYを3割にするという目標は達成できると思っています。職員のみなさんを信じています。

松本:まだあまりできていない「人種・国籍・言語」に関する当事者の困難にも、きちんと耳を傾けていきたいです。当事者にとってどこにハードルがあるかということは、当事者でないとわかりません。困りごとにもいろいろな要素があるので、ひたすら試行錯誤し続けたいと思います。あとはとにかくこのチームが長く続いて、医療・福祉業界のグッドプラクティスの一つになれるよう、いろいろなことを着実に整えていきたいです。

とっても仲良しのみなさん。 笑いの絶えない座談会になりました

聞けば聞くほど、D&Iで取り組む範囲がいかに広いかということに気づかされます。そしてみなさん「D&Iを推進する立場の私たちであってもわかっていないことがたくさんある」と正直にお話してくださいました。大切なのは、自分たちにもわかっていないことがあると自覚し「わかりたい」という思いをもって学んだり、ともに行動に移すことなのかもしれません。

確かに感じたのは、D&Iが本当に大切で必要なものだと思い、みなさんが熱意をもって取り組んでいること。その一人ひとりの熱が伝播してグループ全体を温かく包み込む日まで、D&I推進室の活動は続きます。

プロフィール

ライター

ライター

平川友紀

ひらかわ・ゆき

フリーランスのライター。神奈川県の里山のまち、旧藤野町で暮らす。まちづくり、暮らし、生き方などを主なテーマに執筆中。

フォトグラファー

フォトグラファー

生津勝隆

なまづ・まさたか

東京都出身。2015年より徳島県神山町在住。ミズーリ州立大学コロンビア校にてジャーナリズムを修める。以後住んだ先々で、その場所の文化と伝統に興味を持ちながら制作を行っている。