全国どの病院や施設であっても同じように患者さん一人ひとりに向き合い、質の高いリハビリテーション(以下、リハビリ)を提供する。そのために、平成医療福祉グループのリハビリテーション部では、10年以上にわたり教育研修制度の充実や研究活動に力を入れてきました。
今回お話を伺ったのは、教育研修制度のなかで育ってきた3名の若手スタッフ。すでに、リーダーとして活躍するみなさんですが、3名ともが「同グループでなければ、ここまで勉強や研究に熱心に取り組むことはなかった」と話します。
なぜ、同グループのリハビリテーション部では、若いスタッフが仕事や研究に向上心をもって取り組むようになるのでしょうか。今では育てる側に回りつつある彼らに、入職してからの変化や仕事に対する眼差し、リハビリに対する考え方などを伺いました。
<プロフィール>
辻中 椋(つじなか・りょう)
泉佐野優人会病院 リハビリテーション部 係長。保健学修士。理学療法士・脳卒中認定理学療法士・3学会合同呼吸療法認定士・回復期セラピストマネージャー・介護予防推進リーダー・協会指定管理者(上級)。2016年に入職。同院で臨床、教育、管理業務に従事する一方、大学2校、専門学校1校で計4科目の非常勤講師として教育活動にも取り組んでいる。
齋藤 大希(さいとう・たいき)
世田谷記念病院 リハビリテーション科 主任。理学療法士・登録理学療法士・サルコペニア・フレイル指導士・3学会合同呼吸療法認定士。2018年に入職。現在は、回復期リハビリテーション病棟のほか、週に1度、訪問リハビリも担当。PTチームやフレイル・サルコペニアチームなど、チーム活動にも積極的に参加している。
福原 康治(ふくはら・こうじ)
博愛記念病院 リハビリテーション部 係長。理学療法士・脊髄障害認定理学療法士・心不全療養指導士・急性期ケア専門士・終末期ケア専門士・家族ケア専門士。2018年に入職。2020年に徳島赤十字病院に出向。2023年に主任となり、2025年より係長に。回復期リハビリテーション病棟でリハビリの質の向上、運用システムの改善、スタッフの育成などを担っている。
臨床実習に来て「この病院で働きたい」と思った

最初に、それぞれが入職したきっかけと現在取り組んでいることを教えてください。
辻中:学生時代の実習先が泉佐野優人会病院だったんです。先輩と後輩が仲が良く、役職者も話しやすい人が多くて、雰囲気がすごく良かったのでここで働きたいと思いました。最近になって、他の病院や施設のみなさんとの関わりが増えてきたのですが、グループ全体がそういう雰囲気なんだなと感じています。
現在は、大学院にも行かれているんですよね。
辻中:大阪公立大学大学院で、リハビリテーション学研究科の博士後期課程に通っています。グループの大学院進学支援制度に申し込んで選んでいただいたので、しっかりがんばらないといけないなと思っているところです。あとは非常勤講師として、大学2校と専門学校1校で教えています。
もともと研究や教育に携わりたいと思っていたのでしょうか。
辻中:興味をもったのは入職してからですね。1年目から先輩の研究のサポートに入ることになって、研究ってすごく面白いなと。それがなかったらやってなかったと思います。

齋藤:入職の決め手は、僕も実習です。世田谷記念病院は自主性を重んじていて、グループ全体でも病院でも患者さんのためになる提案であれば、自由に挑戦させてくれるところがあって。脳血管や運動器など分野ごとのチーム活動もありますし、セラピストとして高め合える環境も整っていると思います。
齋藤さんは、グループのフレイル・サルコペニアチームに参加されているそうですね。
齋藤:入職したとき、地域包括ケア病棟に配属されて、地域にはいろいろな方が生活しているのだと知り、入院を繰り返さないために、僕にできることはないかなと考えるようになりました。実は僕、当時は体重が109キロあったんです。そこから30キロ以上減らしたんですけど、そのときに食事と運動はすごく大事だと痛感しました。食事が進まない、運動ができないというところから元気がなくなっていくのがフレイル・サルコペニアなので、自身の経験も活かして何かやりたいと思い、いろいろな資格を取ったりチーム活動に参加したりしているところです。

福原:私は徳島のかなり田舎の出身で、その地域の方々にかわいがられて、ぬくぬくと育てられました。お世話になった人たちがそのまちでずっと幸せに暮らしていくために何かしたいと思うようになり、理学療法士を目指しました。私もみなさんと同じで、実習に来たのが入職のきっかけです。博愛記念病院は、慢性期や回復期が主なんですけど、急性期病院への出向制度があり、かつ訪問事業もやっていると聞いて。博愛記念病院に就職すれば、急性期から患者さんの最期のお看取りのところまでを経験できる。そういった場に身を置いて、勉強していきたいと思いました。
脊髄損傷の認定理学療法士は、徳島県では福原さん一人しかいないそうですが、やはり自分の専門性をもちたいと考えたんですか。
福原:3年目に、徳島赤十字病院という急性期の病院に1年間出向しました。そのときに脊髄損傷の患者さんを担当したんですね。寝たきりの方だったんですけど、ドクターとも話し合いながらリハビリを行った結果、歩行が可能となる可能性が低いと言われていた方が、回復期を介さずに2カ月で退院して、今では自動車の運転もしているんです。脊髄損傷は未知の疾患で、まだまだ可能性があると強く感じたので、専門性を深めようと思い資格を取得しました。
視野を広げられる環境が学びへの意欲を高めてくれる
みなさんは入職後には、臨床以外のことにも興味をもつようになったと伺っています。日々の業務もある中で、勉強して研究して学会発表もして、資格を取り、後輩の指導もする。たくさんのことに、なぜ前向きに取り組むことができているのでしょうか。
辻中:患者さんに関わっていくと、このままじゃダメだなと思うときが絶対にやってくるんです。医療の知識もどんどんアップデートされていくので、最新の情報を取り入れる必要もあります。だからみんな、自然と勉強しはじめるんだと思います。
福原:最初に齋藤さんが言っていたように、グループでは提案が通りやすくて、何でも自由にさせてもらえるところがあります。だから、同年代の人と比べてすごくいろいろな経験ができるんですね。その経験値の高さによって、自然と視野が広がるんじゃないかと思います。もしグループで働いてなかったら、こんなに学ぼうとはしていなかったかもしれません。
齋藤:確かに、気づいたらいろいろやっていますね(笑)。ついつい「治療しなきゃ」「ちゃんと保険点数を取らなきゃ」と目の前のことに追われがちになりますが、グループではそれ以上に、人をしっかり見ることを第一に考えているので、どうしても勉強が必要になってくるんです。

リハビリテーション部の教育研修体制についても教えてください。
辻中:今はeラーニングがメインですね。
福原:疾患別から、社会人としての基礎から、保険点数の話まで、リハビリに必要な知識がQRコードを読むだけでひととおり学べるしくみがあります。私はグループの教育研修委員会に所属しているんですが、委員会のメンバーで動画コンテンツをつくっています。フレイル・サルコペニアや排泄など、専門的な内容のコンテンツをつくる場合は各チームに相談して、協力してもらうこともありますね。全部で30〜40コンテンツぐらいはあると思います。
自分たちで動画をつくってるんですか?
福原:そうですね。ただ、私が入職したときにはすでに主要なコンテンツはあったので、それをアップデートしている感じです。
ひととおり学べるだけのコンテンツを自分たちで用意するというのは本当にすごいですね。

辻中:僕たちが新人だったときは「勉強会に行ってね」とよく言われていました。でも、その時間をつくるのが大変なんですよね。今は、現場で後輩に教えた後「ここにもくわしく載ってるよ」とポータルサイトのコンテンツを案内できるので、教育はしやすくなったなと感じています。通勤中に電車で動画を見て勉強している子もいるみたいです。ちなみに、新人だけではなく、僕たちも年数や興味関心に応じて学べるコンテンツが用意されています。
齋藤:コロナ禍のときに、医療業界でもオンライン研修が増えました。グループ内だけでもZoomやLINEを通して実施する研修や勉強会が増えていますし、情報も集めやすくなった。誰もが気軽に勉強しやすい環境になってきていると感じます。
後輩も先輩も、刺激を与え合える関係がある
だんだんと教育する側に回りはじめている時期かと思いますが、後輩の指導をする上で大切にしていることはありますか。
齋藤:その人がどう生きてきて、なぜ理学療法士になりたいと思って、この仕事を通して何がしたいのか。そこはしっかり聞くようにしています。後輩と接するのも、患者さんと接するのも結局同じなんですよね。「その人を見る」のが大事ではないかと思います。
福原:視野を広げられるように、地域に出ていくきっかけをつくってあげることが大事かなと思います。僕は、個人的にトレーナーとしても活動する機会があり、先日もパラスポーツの国体に帯同してきました。トレーナー活動に限らず、県士会の活動などは興味のある後輩を連れて行くこともありますね。
辻中:僕が大事にしていることは伝えつつ、それぞれが大事にしていることも尊重していきたいと思っています。個々の強みは持ったまま、ジェネラリストとしてのベースを一緒に上げていきたい。最近は先輩だけじゃなくて、後輩からも刺激を受けるようになってきました。

後輩からどんな刺激を受けるんですか?
辻中:僕の専門とは違う分野を勉強している後輩もたくさんいるので、よく教えてもらっています。もっと教えて、もっと教えてと迫ってうざがられるときもあるんですけど(笑)。
泉佐野優人会病院は、学会発表なども積極的にやっていますよね。
辻中:毎年、20演題ぐらいは出すようになっています。でも、もともとは年に3、4演題しか出していない病院だったんです。今はみんながやりたいって言ってくれるようになって、多すぎて困っているぐらいです。
なぜ変わっていったのですか。
辻中:学会に1回行くと、意外と面白いなってみんな気づくんですよね。
齋藤:僕も学会好きです。
福原:わかります。面白いですよね。
辻中:それこそ、何もしなければ勤めている病院という箱の中でしか意見をもらえません。でも学会に行くと、その専門分野の方々が集まっていて、たくさんの意見をもらえる。日々の勉強会に出ているだけでは、そんな機会はなかなかないので本当に勉強になります。しかもグループの場合は、学会参加は仕事という扱いで、出張として行かせてもらえるんです。研究して、いろいろな意見が聞けて、研究テーマを深めることができる。しかも他の人の演題も見れるから勉強になって、後輩を連れていけば教育にもつながる。学会は一石何鳥なのかっていうぐらい意味があると思っています。
みんなでご飯食べたりもするんですか。
辻中:先日もリハビリテーション医学会で北海道に行ったんですけど、夜はグループから参加した他院のリハビリテーション部メンバーと一緒に食事に行きました。そこでまたいろいろな話ができたりもして。学会にはふだんは会えない他の病院の療法士と交流する楽しみもありますね。
研究や学びを、地域や患者さんに還元する
最後に、これからやりたいことを伺いたいです。
福原:病院は地域のみなさんが元気に暮らしていくためにあるものなので、しっかり病院と地域をつなげていきたいというのが自分の目標です。
齋藤:リハビリテーション部のチーム活動には、離床やホームワーク、フレイルに排泄と、生活に根ざしたリハビリを考えられるチームが揃っています。ただ、まだ横の連携が取れていなかったり、チーム活動で得たことを地域で暮らしている方や入院している患者さんに還元するところまではできていない気がしていて。もっと広い視点に立って連携して、活動の幅を広げていきたいです。あと個人的には研究にも興味が湧いてきて。辻中さんと同じPTチームの多施設共同研究班に入って、めちゃくちゃ刺激を受けているところです。
辻中:私は大学院に行っているので、研究を「研究のための研究」で終わらせないということを考えています。研究自体が社会貢献につながることもありますが、その先には患者さんや地域に住まわれてる方々がいる。だから社会実装を進めてちゃんと還元していきたいです。あと、研究ってチームでやるからマネジメント能力もすごく大切で。そういう意味で、チームマネジメントについてもみんなで学んでいけたらなと思います。

多くの資格をもち、たくさんのことに取り組まれている印象があったみなさん。しかしそれは、患者さんと接する中で「もっと学びたい」という思いがふくらんでいった結果、自然とそうなっていったものでした。自発的にアクションを起こしているからこそ、やりがいを感じているし、日々も充実している。さらに言えば、スタッフの「やりたい」気持ちを育てる土壌が整っていることが、リハビリテーション部のなによりの強さなのだと思いました。
リハビリには、患者さんの「どう暮らしたいか」を後押しし、患者さんを医療から地域(暮らし)へとつなげていく大切な役割があります。患者さんのためを思い、まっすぐにその人を見て、質の高いリハビリを提供するスタッフが増え続けた先に、どれだけの「じぶんを生きる を みんなのものに」が体現されるのか。今後が楽しみでなりません。
次の記事では、全国各地の病院や施設で働くさまざまな分野のセラピストのみなさんの様子をレポートします。
プロフィール

ライター
平川友紀
ひらかわ・ゆき
フリーランスのライター。神奈川県の里山のまち、旧藤野町で暮らす。まちづくり、暮らし、生き方などを主なテーマに執筆中。

フォトグラファー
生津勝隆
なまづ・まさたか
東京都出身。2015年より徳島県神山町在住。ミズーリ州立大学コロンビア校にてジャーナリズムを修める。以後住んだ先々で、その場所の文化と伝統に興味を持ちながら制作を行っている。




