dummy

EN

特集記事|リハビリテーション vol.2

質の高いリハビリテーションを育む組織の風土。
療法士一人ひとりの意識を変えるのは、教育と研究体制の充実

リハビリテーション2025.12.23

リハビリテーション(以下、リハビリ)とは、心身の機能を回復させ、再び自分らしい社会生活を送るためのさまざまな訓練や活動のこと。ときに患者さんや利用者さんが自分らしい生活を送る手助けとなる一方、場合によっては人生を左右する大きな責任を伴うものでもあります。


こうした強い自覚と覚悟のもと、平成医療福祉グループのリハビリテーション部が長年取り組んできたのが、教育研修制度の充実や研究体制の強化です。在籍する約2000名もの療法士(セラピスト)が、同グループのミッション「自分を生きる を みんなのものに」をベースに横串でつながりあい、安定して質の高いリハビリを提供することを目指しています。


いったいなぜ教育や研究に取り組むことが、リハビリの質の向上につながるのでしょうか。その未来志向の取り組みについて、教育研修制度を担うエリア部長の4名にお話を聞きました。

関連記事

<プロフィール>
西村 卓也(にしむら・たくや)
泉佐野優人会病院 リハビリテーション部 部長。平成医療福祉グループ リハビリテーション部 エリア部長。理学療法士・認定理学療法士(運動器・臨床教育)・呼吸療法認定士。2008年に泉佐野優人会病院に入職し、勤続17年。回復期病棟の管理者業務を長く担当。教育研修委員会 委員長を経験。堺平成病院の立ち上げ業務にも関わる。

横川 武(よこがわ・たけし)
堺平成病院 リハビリテーション部 部長。平成医療福祉グループ リハビリテーション部 エリア部長。理学療法士・認定理学療法士(学校教育)。複数の他法人の病院での勤務を経て、2009年、浜寺中央病院(現 堺平成病院)に入職。2015年より、平成リハビリテーション専門学校に異動。2017年3月~2020年3月まで、理学療法学科長を務める。2023年4月より堺平成病院へ異動し、現職。

長谷川 奨斗(はせがわ・まさと)
世田谷記念病院 リハビリテーション部 部長。平成医療福祉グループ リハビリテーション部 エリア部長。理学療法士・認定理学療法士(脳卒中)、回復期セラピストマネジャー。専門学校卒業後、急性期の総合病院に5年間務め、2015年に世田谷記念病院に入職。2025年10月まで学術委員会 委員長を務めた。

平田 哲也(ひらた・てつや)
平成医療福祉グループ リハビリテーション部 エリア部長。作業療法士。2011年に博愛記念病院に入職し、2016年より平成病院に赴任。2018年よりグループの就労継続支援B型事業所、ココロネ淡路の施設長となる。現在は淡路島にある「島の合宿所」の管理を中心とした業務とあわせ、島内3病院のリハビリテーション科のサポートを行いながら、医療と介護、福祉の協業について模索している。

患者さんの回復とQOL向上にとことん向き合う

まず、平成医療福祉グループのリハビリの特徴を教えてください。

長谷川:必要なことは全部やっているというイメージですね。排泄や離床など、困っている人はいても関わりにくかったり、前例がないからと見過ごされがちなところを全部やってきた。退院後の患者さんの生活に必要なことを考えて、それにとことん向き合っているのが、当グループのリハビリテーション部のいいところです。そのためなら予算は出るし、一定の裁量権もある。現場が自由にやらせてもらえるのが、職員としてはすごく魅力的だと思っています。

平田:地域ごとに特徴や課題が違っていても、そこに柔軟に対応できる点が魅力だと思います。あとは長谷川さんも言ったとおり、やりたいことにチャレンジさせてもらえるし、キャリアチェンジも応援してもらえる。私の活動の場が医療から福祉へと移ったときも、リハビリテーション部に協力いただき大きな支えになりました。個人を尊重してくれる環境が整っていると言えますね。

横川武さん

横川:もともと「絶対に見捨てない。」という、グループが以前掲げていた理念に共感して入職した人が多いんですね。だからそもそも、どんな患者さんであっても諦めずに良質なリハビリを提供しよう、患者さんの生活や残された余生を支援しようという思いがある。たとえば、肩が上がらない方であれば、ただ肩を上げるトレーニングをするだけでなく、肩が上がらない状態で生活すると何に困るのかを考えたり、仕事復帰のことも考えます。つまりケアの質を大切にしているんですね。そこが当グループが特に注視しているところだし、我々もより力を入れていかないといけないところだと感じています。

長谷川:僕が入職したきっかけは、みなさんとちょっと違っていて。当時、世田谷記念病院に有名な脳神経外科の先生が在籍していたので、「ここで働けば最先端の脳卒中のリハビリが学べる」と思ったんです。でも、今ではすっかりグループの色に染まりました(笑)。

最初は最先端のリハビリをしたくて入職したけれども、今は総合診療的な立場でのリハビリに取り組んでいるということですよね。染まったと言われましたが、どういう変化があったんでしょうか。

長谷川:僕は脳卒中の認定療法士でもありますし、専門はそこだと今でも思っています。でも例えば、脳卒中の患者さんは多くが栄養状態が悪かったり、心臓が悪かったり、骨折した既往があったりと、何かしらの病気を合併している人がほとんどなんです。つまり、脳卒中のリハビリだけに特化しても、それだけで患者さんは良くならない。結果として、僕は専門性も、患者さんに必要なことなら何でもするというグループのあり方もどちらも大事にするようになりました。患者さん一人ひとりが回復するための土台づくりができているので、ある意味で安心して専門性に入っていけます。

キャリアに合わせた教育研修で組織力を高める

部長の池村さんへのインタビューで、「リハビリテーション部では専門性の研鑽を根幹に置きながら、包括的に人を診るジェネラリストとして質の高いリハビリを提供することを目指している」と聞きました。部内には教育研修委員会が設けられているそうですが、そのような療法士を育てるためにどんな教育プログラムを提供しているのでしょうか。

西村卓也さん

西村:リハビリテーション部では「臨床力」「学術力」「組織力」「発信力」という四つの力を総合的に高い水準にしていくことを掲げています。そこでまず取り組んだのがリハビリテーション部としての新人研修です。グループ内にはいろいろな分野の病院や施設がありますが、業務内容に関係なく、最初に新人が学ぶべき心がけの部分や幅広い知識を、質の高いリハビリを提供するための基盤づくりとして実施しています。先輩療法士がプリセプター(指導者)となり、1対1で1年間業務を教えるプリセプターシップ制度も整えました。不定期ながら、中堅層がリーダーになったときのリーダーシップ研修や主任研修もあります。今後はもう少し上位層の係長、課長、部長の研修も整えていこうと考えているところです。

新人研修だけでなく、その後もキャリアに合わせた研修が用意されているんですね。

横川:そうなんです。リーダーシップ研修や主任研修は、やらなくても仕事自体はできると思います。ただ、それぞれの役職にどんなマインドが必要なのか、グループが大事にしていることは何なのかをしっかり伝えていくことで、専門性だけでなく、マネジメント能力やコミュニケーション能力に磨きがかかります。そういった組織づくりが、最終的にはリハビリの質の向上にもつながっていくと思います。

リーダー向けの研修をはじめてから、感じている変化はありますか。

平田:みんながつながって、一緒に成長できている感じはしますよね。

長谷川:僕は、ここまで組織の基盤がしっかりしてきた背景のひとつは、役職者間の関係性にあるのではないかと思っています。リハビリテーション部の役職者は集まって話をする機会が頻繁にあるんですね。合宿も開催していますし、オンラインミーティングや研修もあるし、どこかの学会で会ったら飲みに行ったりもする。学会発表の中でそれぞれがどんな取り組みをしているかを知って、ライバル意識をもつこともありますね。そういうふうに仲良く切磋琢磨して次のステップを目指す文化が、徐々に現場にも落とし込まれてきているように思います。もし、それぞれが自分の病院のことだけをしていたら、離床や排泄などグループとしての取り組みはここまで浸透しなかったかもしれません。

発信することが、グループの信頼と一人ひとりの自信につながっている

長谷川奨斗さん

長谷川さんは最近まで学術委員会の委員長を務められていましたね。リハビリテーション部では年間どのぐらいの数の学会発表をしているんですか。

長谷川:去年の学会発表の数は279演題でした。

すごい数ですね。日々の業務もある中で、研究も行い、発表することには、どういうメリット、またはフィードバックがあるのでしょうか。

長谷川:メリットのひとつは、平成医療福祉グループという名前と各病院の取り組みを広く周知できること。有名な学会で、当グループのセラピストがたくさん発表していたら、「あのグループの病院や施設に就職してみようかな」と思う人がいるかもしれません。別の病院や施設のセラピストが、「リハビリをがんばっている病院だから」と患者さんを紹介してくれたこともあります。

西村:先日、大阪府の理学療法学術大会に当院から8演題を発表したのですが、大会中1、2を争う発表数だったんです。療法士養成校の先生たちも、「泉佐野優人会病院はこんなに研究に力を入れているのか」と驚いて、就職活動中の学生に紹介してくれました。こうした反響もとても大切ですが、それ以上に学会発表のメリットは、自分自身の成果をかたちにして評価してもらえることです。すごくいい経験になりますし自信もつく。それが結果的に組織の風土づくりにもつながっていくと感じます。

横川:学会では、病院単位の発表が多いんです。でも当グループは、全国の病院や施設をつなぐいろいろな委員会がありますし、多施設共同研究のように高度な研究発表や論文にする「平成医療福祉グループ総合研究所(HMW総研)」もあります。グループがもつ大きなデータを使って学会発表ができるというのは強みのひとつだと思います。

平田哲也さん

平田:今は、診療報酬改定の関係もあってリハビリの量が削られる時代。でも、現場からすると、患者さんに関わる時間や量は絶対的に必要です。データを蓄積し、自分たちがやってきたことをエビデンスとして発信して、より良い制度改革につなげていくことも大切なんです。

なるほど。自分自身も、組織も、社会もより良くしていくことにつながるんですね。学会発表には本人が立候補して参加するんですか。それとも「やってみない?」と役職者から声かけするんですか。

長谷川:上からやれと言われても、なぜそれが自分のためになるのかがわからないと思うんですね。だからまずは自分たち役職者が率先して学会発表するようにしていました。学会には後輩を数人連れて行くこともあって、そうするとイメージが湧いて、次の年にはその人たちが僕らもやってみたいと言ってくれる。そういう循環ができつつあります。

横川:自ら手を挙げる人も本当に増えてきていますよね。現場の臨床だけではなく、学術的なところにも力を入れてリハビリの質を高めていこうというコンセプトに、みんなが賛同してくれている気がします。

西村:だからやっぱり、風土づくりが大切だと思っていて。先輩のプレ発表(学会発表前に部内のスタッフ向けに発表し、フィードバックをもらうこと)を見たり、研究計画を立てて、周りからフィードバックされている姿を見てもらう。すると、こういう題材だったら発表できるんだとか、先輩は普段こういうことをしてるんだとわかって、自分も数年後には何かやろうと思うようになる。学会発表を増やしていきたいという部としての強い意気込みがないとそういう風土はつくり出せません。だからリハビリテーション部のアクションには「実践した取り組みを見える形にして発信します」という言葉があるんです。

一人ひとりの強みを引き出していく環境をつくる

勤務する病院も住んでいる地域もバラバラだと思えないほど仲の良いみなさん。笑いの絶えない座談会となりました

取材前にみなさんにお聞きしたアンケートでは「若い世代が頭角を現している」との声がありました。実際に、どういったところでそれを感じていますか。

横川:専門性だけではなく、いろいろな知識、技術、考え方を持っている有能なスタッフが出てきているということは、先日のグループ学会ですごく感じました。一般演題発表の優秀賞には多くのリハビリスタッフが選出されましたし、シンポジストとしても堂々と役割を務めていました。さらにはシンポジウムの企画から準備、当日のファシリテートまで首尾よく行ってくれた人など、すごくがんばっていましたよね。

長谷川:そういう状況を待ち望んできたというか。最近は、自発的に勉強会を企画して、僕らに講師を依頼するようになってきました。これも、みんなが高い水準でリハビリに取り組めるようになってきた証拠だと思います。ジェネラリストという意味では、すごく良い人材が育ってきているので、この先は尖った人がもっと出てきてほしいです。「この病院には脳卒中にくわしい療法士がいる」「あの病院には膝関節のリハビリですごい人がいる」というように、専門性に特化した人が目立ってくると、リハビリテーション部としても大きく飛躍できるのかなと。

平田:池村さんが部長になってから、横のつながりをしっかりつくってくれて、教育研修委員会や学術委員会がつくられ、発信することが増えていきました。その中で若い世代が出てきて、やっと次のことを考えられるフェーズに入ったという思いがあります。僕は障がい者施設に長くいたので、医療だけではなく、地域や福祉の分野にも力を入れていくべきかなと思っています。医療としての専門性だけでなく、地域と結びついていく活動や障がい者福祉などの分野にも興味をもつ若い世代が増え、各自が得意分野で力を発揮しあうことで、より良い形でつながっていけたらいいなと考えています。

さらに多様性を高めていくということですね。どのような広がりが出てくるのか楽しみです。

西村:各病院のリハビリテーション部をつなぐ委員会やチームができて、ちょうど10年になります。蒔いた種はしっかり芽を出したので、次のステージでは、その中身を整えて、もっと伸ばしていきたい。そのためにも、一人ひとりの強みを引き出していく環境をつくることも必要です。そこは自分たち役職者の役目だと思うので、今後も引き続きがんばっていきたいと思います。

「どうすれば理想のリハビリが実現できるのか」。その問いに向き合い、たくさんのセラピストを育ててきたエリア部長のみなさん。後進が育ってきたことで、彼らの視線はより高みへと向けられています。

次の記事では、次世代を担うことを期待されているリハビリテーション部の若手療法士による座談会をお届けします。

プロフィール

ライター

ライター

平川友紀

ひらかわ・ゆき

フリーランスのライター。神奈川県の里山のまち、旧藤野町で暮らす。まちづくり、暮らし、生き方などを主なテーマに執筆中。

フォトグラファー

フォトグラファー

生津勝隆

なまづ・まさたか

東京都出身。2015年より徳島県神山町在住。ミズーリ州立大学コロンビア校にてジャーナリズムを修める。以後住んだ先々で、その場所の文化と伝統に興味を持ちながら制作を行っている。