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特集記事|とどまらない総合診療 vol.2

がん診療、集中治療、厚労省。三者三様のキャリアをもつ指導医が語る「HMW総診のここがすごい」前編

とどまらない総合診療2025.06.06

平成医療福祉グループ(以下、HMW)は、2026年4月から総合診療専門研修プログラム「HMW総診」の1期生を迎える準備を進めています(※)。今回は、HMW総診の中核を担う指導医に座談会形式でインタビュー。他にはないHMW総診のプログラム内容とその強み、連携医療機関の紹介、キャリアのつくり方などを伺いました。

※ 同グループの堺平成病院(大阪府堺市)、世田谷記念病院(東京都世田谷区)、多摩川病院(東京都調布市)にて研修受け入れを実施

まずは、3人の指導医のご紹介を兼ねて、HMWに入職したいきさつと、総合診療という領域にかける期待についてお話しいただきましょう。

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<プロフィール>
佐方信夫(さかた・のぶお)
総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医・指導医。2004年、神戸大学医学部卒業。手稲渓仁会病を経て、2006年に厚生労働省入省。医系技官として診療報酬改定などに携わる。2010年から四年間、松波総合病院 総合内科に勤務したのち、ハーバード公衆衛生大学院への留学、医療経済研究機構で研究に従事しつつ、2019年から平成医療福祉グループの経営企画医師として、世田谷記念病院の在宅医療部部長に就任。筑波大学の客員准教授を兼任する。

安田 考志(やすだ・たかし)
透析内科、腎臓内科、足病診療科、総合診療科専門医。2000年、高知大学医学部医学科卒業。2003年松下記念病院腎不全科に勤務したのち、京都府立医科大学大学院泌尿器外科学専攻修了。2017年松下記念病院腎不全科部長、2018年同病院足病診療科部長を兼任。2022年神戸百年記念病院救急総合診療科部長。松下記念病院、神戸百年記念病院にて、総合診療専門研修プログラムの立ち上げに携わる。2025年1月、経営企画医師として平成医療福祉グループに入職。堺平成病院副院長に就任。

八戸 敏史(やえ・としふみ)
呼吸器科指導医、内科指導医、病院総合診療認定医。2002年、横浜市立大学医学部卒業。東京医療センターにて初期研修後、東京病院にて呼吸器診療に従事。順天堂大学・慶應義塾大学でがんの基礎研究に取り組み、医学博士を取得。ハーバード大学への留学を経て、順天堂大学医学部准教授として診療・教育・研究に携わる。「人を診る医療」の実践を基軸に、全人的な視点での臨床と後進育成に注力。2024年より平成医療福祉グループに経営企画医師として参画し、多摩川病院副院長に就任。順天堂大学非常勤講師。

3人の指導医がHMWを選んだ理由

まずは、指導医のみなさんがHMWに入職されるまでの経緯を伺いたいです。

八戸:研修医時代は、患者さんに最も近いところで医療をしたいと思い、大学病院ではなく市中病院を選びました。その後、主に呼吸器領域のがん患者さんの診療に携わっていたのですが、一度じっくり研究をしてみたいと思い、順天堂大学に所属して研究と臨床、学生・研修医の教育に携わってきました。僕はもうすぐ50歳。研修医だった頃から20年が経ち、僕も世の中もそれだけ歳をとっていて。昔は「高齢者医療センター」「長寿医療センター」のように、高齢者医療に携わる病院には、それに特化した名前がつけられていましたが、今は医療が対象とする患者さんのほとんどが高齢者で、特殊な病院で診ることではなくなっていますよね。

患者さんの平均年齢が上がってくるにつれて、今までのように検査の数値を良くしたり、臓器障害を治したりすることが、患者さんの社会復帰や健康の回復につながらなくなってきたのを肌で感じていました。つまり、これまでの急性期医療のツールだけでは、今の世の中全体が必要とする医療福祉としてそぐわなくなっているのかな、高齢社会における複雑なニーズに応えきれなくなっているのではないかな、と思うんですね。そんなことを考えあぐねていたとき、ご縁があってHMWの代表・副代表にお会いしました。グループが手がけていた多彩な事業は、まさにこれから飛び込みたいと思っていた領域であり、グループが目指す方向性にも共感したので仲間に入れていただきました。

安田考志先生(中央)

安田:僕は大学病院の泌尿器科からスタートしたのですが、大学の人事で松下記念病院の腎不全科で人工透析の患者さんを診るようになりました。今もそうですが、透析医は患者さんの外来から透析、合併症の治療や看取りまで、ほぼすべてを管轄するんですね。それが、僕のなかで総合診療のはじまりになりました。

松下記念病院は320床ほどの超急性期病院。透析は集中治療にも絡むので、集中治療医プラス総合診療医というキャリアが10年ほど続きました。やがて「自分は何科の医者なんだろう?」と思いはじめた頃に、総合診療という領域ができてきて。僕も同病院の総合診療科の立ち上げに携わりました。そのとき知り合った総合診療の黎明期を担った先生方が、多疾患併存や在宅への復帰、回復期・慢性期から介護・福祉まで、幅広く目を向けていることにカルチャーショックを受けました。総合診療と集中治療に加えて病院経営にも携わるようになったタイミングで、HMWの代表・副代表とお話しさせていただく機会がありました。僕のなかには、患者さんのことも含めて、地域づくりや病診連携、病院経営など大きなことに取り組んでみたい気持ちがあったので、今回の入職に至ったという流れになります。

佐方先生は、もともと厚労省にいらっしゃったそうですね。

佐方:僕は臨床研修のマッチング元年に当たるのですが、大学病院での研修はまったく考えていなくて。最初から民間病院で現場に放り込まれるようなところに行きたくて、北海道の手稲渓仁会病院で研修医を務めました。非常に忙しい病院で、次々に患者さんが来ては治すを繰り返すうちに、もっと大きなスケールで医療を良くしたいと考えて厚労省の医系技官になったんです。「自分が日本の医療を変えてやる!」くらいの勢いで乗り込んで、中央省庁だからこそできる仕事を4年間経験できました。でも、医療者として医療政策に取り組むつもりだったのに、気がつけば官僚的な考え方にすっかり染まっているな、と思って。

「臨床で患者さんと向き合っていないのに、自分は医者と言えるのか?」と悩むことが続いたので、厚労省を辞めて松波総合病院という急性期病院に勤めました。すごく忙しかったけど、総合内科で内科医としてひととおりのことをやらせてもらいました。在職中にはハーバード公衆衛生大学院に留学して公衆衛生学修士(MPH, Master of Public Health)を修めました。その後、厚労省で医療政策に関わっていた経験を活かした研究をしたくて、東京医科歯科大学の社会人大学院に通いながら在宅医療の仕事をはじめたんですね。

すると、外来で出した薬を飲んでいなかったり、お金がない、家族が付き添えないという理由で受診をあきらめていたりと、それまでとは違う患者さんたちの姿が見えてきて。急性期医療の病気や怪我を治す力はすごいけど、世の中の人たちの病気の多くは慢性期疾患だし、患者さんは大半の時間を自宅で過ごしています。患者さんの生活、社会的な背景までを考えられる在宅医療の重要性と面白さに気付かされて。研究と在宅医療の二足のわらじを履いている状態が続いていたとき、厚労省時代の後輩だった坂上さん(グループ副代表)に「佐方さん、HMWに来たら全部解決できます!」って言われて。筑波大学で週2日准教授として勤務して、あとは病院に勤めるクロスアポイント契約を結んで、世田谷記念病院で在宅医療部を立ち上げました。

佐方信夫先生

平成医療福祉グループ総合研究所(HMW総研)の所長も務められていますね。

佐方:はい。HMWは医療・介護8000床という規模があります。「グループのデータを集めればすごくいいデータベースになるし、職員の研究活動も盛んなので、研究所をつくりませんか」と代表に提案したら、「いいですね。じゃあ佐方先生が所長になってください」と言われました。在宅医療部は世田谷記念病院で立ち上げたときのスキームで他病院に展開していますし、研究所も大きくなって企業や大学との共同研究なども増えてきています。僕は“キャリア迷子”で転職しがちだったのですが、HMWはもう6年。まだまだやれることがあって、本当にハッピーな状況です。

回復期・慢性期こそ、総合診療の力を活かせる

指導医のみなさんは、医師としてまったく異なるキャリアを歩んでこられたのですね。回復期・慢性期のフィールドで、総合診療専門プログラムをつくる意義をどう捉えておられますか。

佐方:僕は大学の医局に一度も属していないのですが、最近は医局の良さを感じるんですね。技術はちゃんと教えてもらわないと身につかないし、正しいことを教える指導者は必要です。また、学んだ知識をもって、後進を育てる仕組みがコンスタントに機能してきました。今回、HMW総診を立ち上げる意義もそこにあると思っています。臨床現場や大学で学び、経験を積んできた指導医たちが若いドクターを育てる教育システムを構築し、コンスタントに良い医師を輩出するしくみをつくることができますから。

安田:まさにそうですね。総合診療はまだ新しくて、大学に講座はあっても研修プログラムがないこともあります。何より、総合診療が最も有効活用されるのは、急性期、回復期・慢性期、在宅医療や介護福祉です。これらすべてを網羅しているHMWグループが、良い意味での大学医局のような役割を担い、総合診療医を育成することには大きな意義がありますね。

また、総合診療医を目指す先生方や学生たちと話していると、急性期病院で総合診療科の診断学や全身管理を覚えた後に、「このスキルをどこに活かせばいいんだろう?」と“キャリア迷子”になる人も見受けられます。大学と同じくらい多様な可能性が広がる、HMW総診の研修プログラムは総合診療医を目指す人にしっかり響くはず。どんどん情報公開していこうと思っています。

八戸敏史先生

八戸:昨年9月に入職して多摩川病院に入ったのですが、慢性期医療を担っている先生方がご高齢になっていて、医師のなかでは僕が一番若手だったんですね。というのも、これまでは学生時代に慢性期医療をガツッと学ぶ機会もなく、研修を終えてそのまま慢性期医療に進む医師がいなかったからです。このままでは、10年後には今いらっしゃる経験豊富な先生たちが引退され、慢性期医療を支える医師がいなくなるだろうと危惧しました。ちょうどその頃、グループ内でHMW総診を立ち上げる話が持ち上がり、これはぜひやるべきだと思いました。

HMW総診のいいところは、何よりも若いうちに慢性期医療の現場で総合診療に触れられることだと思っています。一度でも触れていれば、佐方先生のようにいろんな経歴を辿ってから、つばめのように帰ってくる可能性もありますが、それまで触れたことがなければ選択肢にも挙がらない。まずは、触れてもらう機会をみんなでつくって、10年後の慢性期医療の核となる人材を育てたいです。

安田:今年1月に入職してまもなく、HMW総診の立ち上げの話が出ていました。たしかに、松下記念病院、神戸百年記念病院と2カ所で総合診療専門研修プログラムを立ち上げたことはお伝えしていましたし、「ぜひHMWでも」とお声がけもいただいていました。でも、まさかここまでのスピード感で立ち上げに進むとは思っていなかったので、びっくりしましたね。

佐方:プログラムの立ち上げは短期間で進めましたが、もともとHMWには総合診療専門研修プログラムがフィットしやすい環境があります。代表・副代表は、この環境に安田先生のノウハウをポンとはめれば、パッといいものができると確信していたんだと思います。しかも、急性期医療の経験が長く、回復期・慢性期、在宅医療の重要性を深く理解し、臨床で学生を指導した経験もある八戸先生も入職してくださっていました。すごくいい形でスタートを切れそうです。

HMW総診の指導医が考える、総合診療医の役割

医学の知識・技術が発展するとともに、臓器や病態に特化した専門的な医師が求められるようになり、高度な医療によって多くの患者さんの命が救われました。そのおかげで日本は世界一の平均寿命を誇る長寿大国になりましたが、今度は高齢になって多疾患併存を抱える患者さんが増えて、地域や家族なども含めて全人的に診る総合診療医が求められています。指導医のみなさんが考える、総合診療医の役割について伺いたいです。

八戸:高齢の患者さんたちの健康寿命を考えるとき、健康維持のための投薬・治療の先にあるのは高度な専門医療よりも、患者さんが望む「じぶんを生きる」に医療の立場からアプローチすること。総合診療医には、診療科の枠だけでなく病院と地域の境界さえも超えて、患者さんの価値観や生活までを含めた視点で解決の道を探す役割が期待されていると思います。それこそ、来院できる人は、ある意味では恵まれた人だと思うんです。孤独や貧困、虐待などさまざまな課題を抱えている人たちは、医療が必要な状態になっても病院に来られないかもしれません。

こうした問題は医師の力だけでは解決できないため、多摩川病院では「患者支援地域協働支援センター”つどい”」を立ち上げて、地域でフィールドワークするソーシャルワーカーを雇用しはじめたところです。社会福祉協議会や行政・教育機関、地域コミュニティなどの社会資源と患者さんをマッチングするしくみをつくろうとしています。総合診療医には、医療と社会資源の連携のなかで患者さんの課題を解決する役割もあります。HMW総診は、それを実践のなかで体験してもらえる。すごく自慢のプログラムなんです。

座談会は世田谷記念病院のコミュニティスペース「2Co HOUSE」にて行いました。

佐方:超高度なロボット技術で病気を治すような”スペシャリスト”は絶対に必要です。一方で、完全には治せなくてもいいから患者さんの暮らしを支える医療もまた存在します。総合診療医はそこを担うんだと思います。大きな急性期病院の総合診療専門研修プログラムでは、各診療科に横串を刺すことで高度医療を支える、総合内科に近い総合診療を経験できます。HMW総診はもっともっと地域に近い、総合診療になりますね。

安田:総合内科と総合診療科は、いずれもジェネラリストを標榜していますが、背景はまったく異なっています。これまでの専門特化型の医療は、日本の医療の発展を支え、世界最先端のレベルにまで達しました。ところが、たとえば救急医療の現場では、除外診断による患者さんのたらい回しが横行していました。この問題に対して声を上げたのが総合内科の先生たち。縦割りの診療科に横串を刺すために、診断が難しい患者さんは輪番制で内科が受け持つしくみになりました。

今もそうですが、急性期医療ではどうしても専門ありきでものごとが進むんですね。Common Diseaseと呼ばれるような尿路感染や肺炎であっても「振り分けをどうするか」「分担して診よう」と話し合います。しかし、本当に必要なのは「なぜ、この患者さんは肺炎を繰り返すのか?」を明らかにすること。それが総合診療医の大事な役割のひとつだと思います。HMWの病棟では、病棟スタッフと会話をしながら、嚥下障害、栄養、フレイル、運動機能などを評価し、ソーシャルワーカーさんを通じて患者さんを支える家族や社会資源を把握する、チーム医療が浸透しています。総合診療医の意義と必要性を強く感じられることも、HMW総診の特長のひとつだと思います。

ありがとうございました。後編では、連携医療機関やプログラム内容について具体的に伺いたいと思います。

オンライン説明会の開催および合同説明会「レジナビ」出展のお知らせ

6月14日(土)にオンライン説明会を開催

募集受付の開始に先立ちまして、オンラインによる説明会を開催します。
実際のプログラム内容やグループやキャリアのこと、指導医についてなどお話しいたします。ぜひお気軽にご参加ください。

【HMW総診 オンライン説明会】
日程:2025年6月14日(土)
時間:18:00〜19:00
内容:プログラム説明、グループ紹介、指導医紹介、質疑応答など(予定)
配信形式:Zoom
参加:無料
応募締め切り:6月13日(金)17時
対象:医学生/初期研修医/専攻医・後期研修医/リカレント希望の医師

※後日アーカイブ配信を予定

オンライン説明会申し込み

不明点やご相談などのお問い合わせについては、お問い合わせページよりご連絡ください。
※「採用について」を選択してください

レジナビフェア2025 東京・大阪に出展

いろいろな病院の情報が一度にチェックできる、日本最大規模の研修病院合同説明会「レジナビフェア」に出展いたします。
プログラムの詳細や、グループの取り組みについて、代表・副代表をはじめ、指導医がお話ししますので、ぜひご参加ください。
※参加には、レジナビへの登録と参加申し込みが必要です。

【民間医局レジナビフェア2025 東京】
日程:2025年6月29日(日)11:00~17:00
会場:東京ビッグサイト南1~4ホール
出展病院:世田谷記念病院
詳細:民間医局レジナビフェア2025 東京

【民間医局レジナビフェア2025 大阪】
日程:2025年7月6日(日)11:00~17:00
会場:インテックス大阪 1・2号館
出展病院:堺平成病院
詳細:民間医局レジナビフェア2025 大阪

プロフィール

フリーライター

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杉本恭子

すぎもと・きょうこ

京都在住のフリーライター。さまざまな媒体でインタビュー記事を執筆する。著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)。

フォトグラファー

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生津勝隆

なまづ・まさたか

東京都出身。2015年より徳島県神山町在住。ミズーリ州立大学コロンビア校にてジャーナリズムを修める。以後住んだ先々で、その場所の文化と伝統に興味を持ちながら制作を行っている。