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患者さん、利用者さん、職員の「食べる」を支え続ける調理師/泉佐野優人会病院/柑本 光彦さん

栄養部2018.07.13
栄養部

患者さん、利用者さん、職員の「食べる」を支え続ける調理師

病院の食を支える調理師として働く、泉佐野優人会病院の柑本光彦さん。患者さんや職員の食事作りから厨房の取りまとめ役。担当する料理のレパートリーにも注目です!

憧れていなかった職業が 好きになっていった

ご出身はどちらですか。

和歌山です。今も和歌山県に住んでいて、気軽に山に登れてしまうぐらい、山に囲まれた自然豊かな場所です。

山へはよく行かれるんですか。

昔よりも機会は減りましたが、山へサイクリングに行くことはありますね。昔はトライアスロンをしていましたし、運動するのが好きなんですよ。

調理師になろうと思ったのはいつ頃ですか。

高校生の時に、漠然と。すごくなりたくて目指した職業というよりも、消去法みたいにして決めました。料理が好きな自覚もなく、本当に軽い気持ちでしたね。

ほかの職業に魅力を感じることもありませんでしたか。

なかったんですよ。そんなに好きだと思わなかったんですけど、ほかの仕事にもあまり興味が湧かなくて。ただ、この仕事を続けていくうちに好きになってきて、今はこれしかできないと思っているぐらいです。

よかったです、今は料理がお好きなんですね(笑)。

昔よりはかなり(笑)。ここで、患者さんと職員の食事を作っていても、休みの日に自分が食べる分ぐらいのものは作りますし、飽きないというか苦に思わなくなりました。昔よりも料理に工夫できることや簡単に活かせる術を覚えてきたから、ということもありますが。

畑違いで得た技術こそ、今の強み

ずっと調理師をされてきたんですか。

そうですね。何回か転職してますけど、調理師ばかりです。ここの勤務年数は10年を過ぎました。

前職ではどんなジャンルの料理をされていましたか。

調理師になった時は、洋食が作りたくて勉強してました。その後は洋菓子製造でパティシエの技術を培って、さらにパン屋さんでも働いていたので、パン作りの基礎はそこで身につきました。

病院での食事提供に、経験は役立っていますか。

そうですね、活かせていると思います。

例えばどんなものを作られていますか。

ちょうど今日はデイケアでお誕生日会があるので、ケーキを作りました。

ぜひ、見せてほしいです!

今、冷蔵庫で冷やしているので、取ってきますね。

チョコレートのバラがすごいですね! これはどこに登場するんですか。

バラは、ちょっと特別な感じで作ってみました。月に2回、デイケアと小規模施設で開いている誕生日会で食べるケーキです。タイミングよく、今日がその日だったんですよ。今日は、利用者さんが30人ほどいるので、全員で食べ切れるサイズを作りました。毎月あるので、ケーキの種類とか盛り付けのフルーツを変えながら作っています。

ひとりで30人分のケーキ作り! 大変そうな作業ですね。

そうでもないですよ。当日に全てを作る時間はないので、スポンジだけ前日に焼いてれば、仕上げは当日でも十分間に合います。最近は、そろそろ下のスタッフに任せてみようかな、と思うようになりました。

職員さんもびっくりされませんか。

毎月作っているので、そんなに驚かれることはないですね。せっかくなので、あとでちょっと行ってみましょうか。

「できる範囲で手作りする」という方針が魅力

ほかにもオリジナルの手作りメニューはありますか。

デイケアと小規模施設ではデザートバイキングがあるので、バイキング用のデザートを作ります。パフェみたいに1人ずつ盛り付けされているかわいいサイズのものも作りますし、要望にはできる範囲で答えています。

料理は全部、その日に作っているんですか。

そうですね、基本的には当日に調理をしています。ただ、提供する時間が決まっているので、時間がかかるものは事前に準備してることもあります。

週に1度、郷土料理メニューを提供されていますよね。

そうですね、食事に関しては、グループ共通なので、この病院だけが全部作っているわけではなく、どの病院も同じように作っています。日本だけじゃなくて、海外の郷土料理も提供しています。

印象に残っている出来事などはありますか。

インドネシア料理を提供したときに、EPAの職員(※)の分だけ、少し辛く味付けしてあげたことがあって。ちょっとでも現地っぽい味にしたかったんですが、調味料がやっぱり違うのでなかなかうまく仕上がらなくて、それでも「おいしかった」って言ってもらえたのは印象に残ってますね。

原動力は、「この仕事しかない」という気持ち

毎日料理をする中で、食べ残しについてはどのように感じていますか。

うーん、難しいですね。病気で入院されていて、食欲や味覚が変わったり体調もあるので、仕方ないかなと思っていますが、完食していただけるように栄養士がミールラウンドを行い、その内容を共有してもらって調理師と食事内容を考える、という取り組みを栄養部全体で行なっているんです。職員の場合は、自分たちで取る分量を調整できるので、売り切れるほうが早いんですよね。特に肉類だったりすると(笑)。

わかりやすいですね(笑)。料理を作るうえで、原動力になっていることはありますか。

やっぱり料理が好きなことですね。というよりも、料理しかできないんですよね。もうほかの職業なんて今からは無理だと思ってます。自分にはこれしかない、って思えているから続けていけるんですね。

調理コンクールで優勝、考案したメニューを提供する喜び

平成医療福祉グループ内で行われる調理コンクールで、優勝の経験があるそうですね。

2014年のときなので、4年前ですが。その前年度まで2年連続で2位だったんですよ。だから、周りからのプレッシャーが大きくて「やっと取れた」って感じでした。

優勝したときのメニューは、患者さんや職員に提供されたそうですね。

そうですね、昼食メニューとして提供しました。一品だけが並ぶんじゃなくて、全メニューをそのまま提供したので感慨深かったです。

当時の印象的な出来事はありますか。

加藤院長が、2回連続で2位だったことをけっこう気にかけてくれていて、1位を取れたときに「おめでとう!」って直接声をかけていただいて嬉しかったです。1位になって良かったなと思いましたね。

素敵ですね。普段から加藤院長と会う機会があるんですか。

会う機会は少ないんです。加藤院長は毎日食堂を利用しているのですが、僕が調理場にいるので話せる機会がなくて。でも、気にかけてくれているのが伝わってくるので、支えてもらっているなと思います。

審査員として 後輩育成にも携わるように

コンクール以外に、オリジナルライセンス制度もあると聞きましたが。

調理師の技術向上と食事の質の向上を目的として、2017年から始まったのがオリジナルライセンス制度になります。半年に1回試験があって、先日、第2回が開催されました。

その制度の試験は栄養科の職員全員が受けるものですか。

いえ、希望制です。練習も必要なので各自で受けてもらっています。合格率が10〜20%ぐらいなんです。

狭き門なんですね。

そうですね。ライセンスを取ると、給与もアップしますし、一定のレベルに達したという判断基準になるので、どうしてもそうなりますね。

どんな試験なんですか。

試験は5科目あって、魚の下処理、タイムトライアル、寿司、卵料理、デザートの分野で実施しています。科目ごとに受ける順番は自由で、日を分けてもいいですし、同日に全科目を受けることもできます。自分の得意分野から受験できるので、まずは長所をスキルアップさせることも可能なんですが、その分、技術が求められるので、この合格率になってしまいます。

仲間と一緒に試行錯誤しながら取り組む業務支援

ほかにも何か調理業務以外を担当されることはありますか。

基本は調理業務がメインです。ただ、昔と比べると調理師の採用に関わる機会や、会議に出ることも増えました。でも、あまり人前で話すことが得意ではないので、調理している時間の方が好きですね。

泉佐野優人会病院の栄養科は全員で何名の部署ですか。

調理は5人ですが、栄養科全体になると52人になります。

けっこう多いですね。

そうですね。管理栄養士さんたちは病棟の患者さん対応のほかに、委員会などの対応も多いですからね。

調理業務支援課の取り組みも新たに始められたと聞きました。

2017年の10月ぐらいから担当しています。調理業務支援課は、グループ全体の食事の質向上と、日々の業務改善や献立の立案、労働環境改善を目的に活動しています。そういったことについて調理師の意見を反映させるために発足したものですね。支援課の中に、以前から仲良くしていた別の施設にいる調理師がいるので一緒に試行錯誤して業務に取り組んでいます。先日も、ライセンスの審査で山口県と徳島県に出張してきたところです。

その方とはどんなきっかけで知り合ったんですか。

グループの緑成会病院の立ち上げ業務があったときに、僕とその人が応援で対応したんです。その後にも、その当時栄養部が担当していたグループ施設の竣工式の料理担当も一緒でした。そこから、求められる部分が同じということもあり、仕事の相談をするようになりました。今回の支援課の業務でも、心強いなと思っています。

刺激し合える仲間がいるのは魅力的ですね。

そうですね。日々の仕事も充実してますけど、また少し違った視点が求められるときには、別の仲間がいると発想も広がるし、襟を正されるようなところがあるかもしれません。

ほかの職員の方とも交流する機会はありますか。

職場の人たちとスノーボードに行ったこともありますし、栄養科でバーベキューなどをすることもありますね。

どんな料理でも手を抜かないと決めている

仕事において大切にしていることはありますか。

「どんな料理でも手を抜かない」「誠実に行う」この2つですね。どうすれば、いい状態で料理を提供できるか、というのはいつも考えてます。

具体的にどんなことに取り組まれていますか。

盛り付けはとても気にかけています。少し調子が良くないときでも、目の前においしそうなものが運ばれて来たら、「食べようかな」っていう気持ちになるかもしれないじゃないですか。逆に、食べようと思っていたのに盛り付けが雑だったら、食欲が減ってしまう可能性もありますし。単純に嫌じゃないですか、見た目がおいしくなさそうって。

確かにそうですね。印象は大切ですよね。

どうしても使用できる食器や手を加えられる範囲には制約がありますが、その中では最大限に見た目を良いものにしたいと思っています。患者さんと直接会う機会はないんですが、栄養士さんたちから患者さんのことをヒアリングしても、見た目でみなさんからの反応も違うそうなので、やっぱり重要だなと認識しています。これからも盛り付けは大切にしたいです。

盛り付けにこだわりを持ったのは、いつ頃からですか。

調理師になったばかりの頃の上司が、いわゆる昔っぽい教育をする人だったので、その影響が大きいですね。最初だったこともあって色々と教わったと思います。

その教えを大切にする理由は何ですか。

教わった通りにやってきたことで手に技術が身についたからですね。「考えてやれ、丁寧に仕事を覚えろ」と、仕事の技術よりも精神面が大切だと教わりました。

ほかに大切にしていることはありますか。

常に料理や製菓、製パンの技術を学ぶことを怠らないようにしています。病院だから一般的な調理とは異なる制約があって再現が難しいものもありますけど、丁寧な料理が毎回提供できるように努力していきたいなと思いますね。

プロフィール

柑本 光彦

こうじもと みつひこ

【出身】和歌山県
【趣味】山登り、トライアスロン、体を動かすこと
【好きな食べ物】カレー