ひとプロジェクト【第71回・後編】ドッグトレーナー 座談会

ドッグトレーナー
座談会

介護施設に犬がいる日常をもっと当たり前に
利用者さんに喜んでもらえることがやりがいになっています

グループの介護施設で働くドッグトレーナー3名へのインタビュー後編です。ドッグトレーナーの採用は、グループ施設では初となる試み。実際に入職してからどのように施設での仕事を展開し、利用者さんと触れ合うようになったのか、また、その反応や、利用者さんに与える影響について、お話を伺いました。3人がそれぞれ工夫しながら利用者さんと向き合う真剣な様子と、和気あいあいとした仲の良さがうかがえる後編、ぜひご覧ください!

  • 〈ケアホーム千鳥〉米川 千晴

  • 〈ケアホーム板橋〉黒﨑 千裕

  • 〈ケアホーム葛飾〉安西 二葉

  • 〈ケアホーム千鳥〉はる

  • 〈ケアホーム板橋〉ロイ

  • 〈ケアホーム葛飾〉いなり

現場に戸惑うも
まずはオープンマインドで

実際にグループに入ることになってから、担当する犬はどのように決まっていったんですか。

米川

内定をいただいてから入職する前に、一度集まる機会があって、その時にそれぞれ犬種の希望を伝えました。

黒﨑

みんないくつか案を出して。それも込みで、配属施設が決まったんだと思います。

施設によって、このサイズの犬種なら飼える・飼えない、がありますしね。

黒﨑

ケアホーム葛飾やケアホーム板橋は、スペース的に大型でも大丈夫だし、ケアホーム千鳥は大きい施設ではないので、小型がいいんじゃないかって。ちょうど米川さんも小型を希望していましたし。

そこから犬種と配属施設が決まり、入職のタイミングで犬と一緒に入られたんですか。

安西

犬はみんなが入職してから探し始めましたね。

ではまずみなさんそれぞれが施設へ単体で入られたと。当初の仕事はどのようにスタートしたのですか。

安西

3人ともまずはそれぞれの施設のリハビリテーション科に配属されたんですけど、私はまず、リハビリのスタッフとしてリハビリの体操やレクリエーションに関わったり、利用者さんのところに行ってお話をしたり、犬の準備をしたりしていました。

米川

私も犬の準備をしながら、リハビリの体操について行かせてもらって、利用者さんの名前を覚えていっていましたね。利用者さんやリハビリ以外のスタッフさんからは、リハビリ助手さんだと認識されていたと思います。

黒﨑

私も近い感じではありましたね。ただ、特に最初は犬がまだいなかったので、施設の方も戸惑ってはいたと思います(笑)。

そうなりそうではありますよね(笑)。

安西

犬が施設に来てからは、利用者さんのいるユニットに入りやすくなりましたけど、それまでは、やっぱりどうやって関わっていったらいいか悩みましたね。

犬がいない状態でドッグトレーナーとして接するのは難しさがありそうです。

安西

利用者さんも、私のことを「誰だろう?」って思ってしまうのではないかなと思って。でもそれを、施設のリハビリスタッフさんに相談したら「オープンマインドだよ」って言ってくれて、それでがんばれました。

広い心でまずは行ってみようと。実際に犬が施設に来たのはどのくらいだったのでしょう。

米川

私がいるケアホーム千鳥と、安西さんのいるケアホーム葛飾は5月下旬くらいでしたね。

黒﨑

私のところはなかなか見つからなかったので、7月くらいでした。

やはりしっかり探すとなると、それなりに時間がかかるものなんですね。

多くの利用者さんが犬を楽しみに
時間をかけるからこそ見られる効果

それぞれの犬が施設に来て、まずはどういうことをされたのですか。

黒﨑

まず犬のトレーニングからですね。そこから様子を見て、行けそうだなと思った頃から、利用者さんのいるユニットに行って、動物介在活動(※)(以下、介在活動)を始めました。

※動物介在活動:動物との触れ合いを通し、リラックスやQOL(生活の質)向上を目的とした活動。医療者による目的設定を伴うものは、動物介在療法と呼ばれる。

まず利用者さんのところに問題なく行ける状態にトレーニングしていかないといけないわけですね。あらためて、犬と一緒に利用者さんの元を訪れてみていかがでしたか。

黒﨑

最初は、利用者さんもスタッフさんのどちらにも、戸惑われる方はいらっしゃいました。でも、もともとご自宅で犬を飼っていたという利用者さんは喜んでくださいましたし、ロイを連れて毎日のように通ううちに、最初は戸惑っていた方もだんだん慣れてきて、声をかけてくれるようになったり、触ってくれるようになったり。

良い反応は実感できるものですか。

黒﨑

自分で直接、そういった利用者さんの変化を感じ取れる時もありますし、その場ではわからなくても、介在活動をした後で、そのユニットの介護士さんから「あの利用者さんは、犬が来た時だけ動くんだよ」とか「いつも座っているのに、席から立って歩くんだよ」という声を聞くと、とても嬉しいですし、やりがいを感じます。

実際に、犬をきっかけとして、普段動きの少ない方へ影響が出ることもあるわけですね。

黒﨑

それと、ロイの名前は覚えてなくても「黒い犬がいる」っていうことは覚えて楽しみにしてくれている利用者さんもいて、「今日も黒いワンちゃん来てくれたの〜」って声をかけてくれるんですね。こうやって回ることで、いい効果があるんだなと感じています。

米川

例えば、一回だけ施設にパッと訪問するだけでは、犬が苦手な人は苦手なままかもしれないですけど、こうやってずっと施設にいるからこそ、長い時間をかけて接することができるのは大きいですね。みなさん、施設に来たばかりの小さい頃からはるを見ていますし、苦手な人も楽しみにしてくれるようになりました。

安西

いつでも会いやすいのは大きいですね。特にうちは大型犬ですし、利用者さんもスタッフさんも、いなりが小さい時から接することができたので、成長してからも「大きくなったね〜」と、親しみを持ってもらえました。

長い時間をかけられるからこその部分が大きそうですね。犬が苦手な人でも、やはり長期で接することで、変化があるものなんですね。

安西

いなりがいない状態で、私が「ドッグトレーナーです」って話しかけただけでも、「こっち来ないで!」と怖がられるくらい、犬が苦手な利用者さんがいたんですね。もともと少し不安がある方ではあったんですけど、そんな方でも、毎日のようにいなりを連れて会いに行っていると、かなり慣れてくれるようになるんです。今では、いなりをチョンチョンって触ってくれたり、ユニットから離れる時には「もう帰っちゃうの?」と言って、途中までついてきてくれたり。そういう様子が見られるようになると、やってて良かったなと思います。

介在活動を充実させるために
他職種のスタッフと接点を増やす

ドッグトレーナーは、今までグループではどの施設にもいなかった職種ですし、いざ働き始めてからいろいろと大変なこともあったのではないかと思うのですが、どのようにアプローチしてこられましたか。

安西

ラウンドし始めるようになってからは、まずユニットのスタッフさんに、私といなりの存在を知ってもらうために、スタッフさんに多めに触ってもらったり、長めに話してみたり。スタッフさんと関係性を作りながら、「あの利用者さんはどういう方ですか?」と、犬が好きそうな方を教えてもらって、様子を見て触れ合っていきました。

しっかりと周りから固めていったんですね。まずは施設のみなさんに、ドッグトレーナーと犬を知ってもらうところからと。

米川

私は、介在活動や犬のお世話をしている時以外に時間があったので、そこも何かやらせてもらいたいと思ったんですね。施設に相談をしてみたら、事務のスタッフさんが声をかけてくれて、施設の事務所で仕事をするようになりました。

犬の体力を考慮すると、1日にラウンドできる時間も限られますし、そういった時間に事務の仕事を行っているんですね。

米川

それがとても良かったというか、ドッグトレーナー以外にも自分の居場所ができたのは大きかったです。どのスタッフさんも出勤すると1日に何度かは事務所の前を通って、コミュニケーションを取る機会がありますから。そうやってスタッフさんと接する時間が増えることで、より介在活動がやりやすくなりました。

事務の仕事を通して施設に存在がより浸透して、ドッグトレーナーの仕事にもいい影響があったのですね。

黒﨑

私も、ドッグトレーナーの仕事以外の時間を使って利用者さんとの関わりを増やしたいなと思って相談をしたんです。結果的に、施設の介護主任さんに話が通って、ショートステイの入所・退所のお手伝いをさせてもらうようになりました。

実際にお手伝いされてみていかがでしたか。

黒﨑

利用者さんとお話をする時間も増えましたし、今までリハビリスタッフさんとは関わる時間があっても、ほかの職種の方と接する時間が少なかったんですね。ショートステイに関わることで、介護スタッフさんや相談員さん、いろいろな職種の方ともコミュニケーションを取れるようになりましたし、やって良かったなと思っています。

最初は苦労したコミュニケーション
今では喜んでもらえることがやりがい

みなさんが所属するそれぞれの施設で介在活動を行う様子も見学させてもらいましたが、利用者さんとの応対が、とても自然だなと思いました。

米川

でも、最初は…。

安西

全然ね…(笑)。

全員

(笑)。

やはり徐々に慣れていったんですね。

安西

声のボリュームはどれくらいがいいとか、自分がどれくらいしゃがめばいいのかとか。

黒﨑

何を話せばいいんだろうとか。

安西

最初は全然わからなくて、もう、ガッチガチでした(笑)。

米川

どう接していいのかわからなかったので、怖かったですね。

今のような利用者さんとのコミュニケーションは、やりながら自分で掴んでいったのですか。

黒﨑

周りのスタッフさんは「とりあえず行ってみよう」という感じではありましたね(笑)。

なるほど(笑)。掴めるようになるきっかけみたいなものはありましたか。

安西

私は、リハビリスタッフさんから「こういうこと聞いてみたら?」という話題を何個かもらいました。「天気いいですね」とか「ご飯食べましたか」とか。まずはそれを全員に聞いてみることから始めました。

まずはシンプルな話題で話しかけてみようということですね。

安西

まだいなりが施設に来る前に、1人だけでユニットに行っていた時にそれを繰り返して、この人はよく喋る、この人は応答が少ない、という傾向を覚えておきました。そうしておくと、次に犬を連れていった時には、こういうスピードで喋ればいいということがなんとなくわかるようにはなったので、やっておいて良かったなと思いました。

そういう地道な積み重ねを繰り返したうえで、今のような自然なやりとりができているんですね。みなさん、今はどんなことが仕事のモチベーションや、やりがいになっていますか。

黒﨑

介在活動としてユニットに入った時に、それまではイスに座って黙っている利用者さんが、ロイと一緒に声をかけると笑顔になってくださることですね。名前は覚えていなくても、犬がいることだけでも覚えてくれているのは励みになります。あとはショートステイのお手伝いの時に「ありがとう」と言ってもらえることがあるので、そういう時は「良かったなあ」ってすごく思います。

安西

近い話なんですけど、ラウンドした時に利用者さんの笑顔を直接見られたりとか、動きがいつもより多くなったりするのがいいなと思います。私は、いなりと一緒でなくても、リハビリの体操やレクリエーションで、1人でユニットに行くこともあるので、その時に「ああ今日はいなりいないんだ」と言われることもあって。利用者さんが、いなりのことだけでなく、いなりを連れて来る私のことを認知してくれるのも嬉しいですね。逆に「今日は体操はないの?」と、体操の方で覚えてくれる人もいます(笑)。

米川

それは嬉しいね〜。

米川さんはいかがですか。

米川

私は、利用者さんが動いてくれるとか、良い影響が見られた時は嬉しいですし、介在活動を終えてユニットを離れる時に、利用者さんみんなから「また来てね〜」と手を振ってもらった時が、すごく嬉しくて、毎回「また来るね!」っていう気持ちになってます(笑)。次に行った時も、手招きして呼んでくれるんです。そういう意味では、はるがいることで私を覚えてもらっていることが多くて、私自身、はるに助けられているなと思いますね。

施設に犬がいる日常を
もっと当たり前のことに

では最後に、今後の目標や展望はありますか。

黒﨑

今も既に、施設でロイの存在が馴染んできてはいるんですけど、もっともっと、犬がいることが特別でなく、普通のことだと思ってもらえたらいいなと思っています。

介護部としても「いつも通りを諦めない」という理念(※1)を掲げていますし、まさに当たり前のように、犬が一緒に生活している環境、ということですね。

黒﨑

そうですね。なので、もっとフランクな感じで、利用者さんのもとに連れていけるようになりたいです。それと、最近はこの3頭で世田谷記念病院へドッグセラピー(※2)の活動で行ったり、ケアホーム板橋だと隣のココロネ板橋に行ったり、あとはお互いの施設も行き来したりしているので。コロナ禍で止まっていた時期もあるんですけど、そちらの取り組みも、さらに充実させていけたらいいなと思います。

※1:買い物や食事、趣味など、介護施設への入所前に過ごしていた日常を、入所後も諦めることなく送ることを目指す取り組み。
※2:グループのドッグセラピーについての取り組みは、こちらの記事で、くわしく紹介しています。あわせてご覧ください。

安西さんはいかがですか。

安西

今はまだ利用者さんとはユニットで触れ合うことが活動の中心なんですけど、今後は一緒に散歩をしたり、遊んだりと、活動の幅を広げていきたいです。

ユニットの外での触れ合いも、今後は視野に入れていくということですね。

安西

それと、黒﨑さんが話したような、施設外への訪問も増えてきているんですが、いなりがまだまだ外部でのラウンドに慣れていないので、今後機会が持てるのであれば、ストレスにならないよう気をつけながら、しっかりと慣らしていきたいなと思っています。

新しい環境にも無理なく対応できるように、時間をかけて準備していきたいと。

米川

私も、グループのいろんな病院や施設に行って、患者さんや利用者さんと触れ合えるのはいいことだし、もっと取り組んでいきたいなと思っています。まだまだ私もはるも未熟なので、もっと成長して、いろいろな施設も回っていけるようになればいいなと思っています。あとは「Webドッグ」の取り組みも、先日始まったので、もっと広げていきたいです。

「Webドッグ」とはどういった取り組みですか。

安西

犬のいない施設と、犬のいる施設をオンラインでつないで、画面越しに犬の様子をお見せして、特技を披露したり、質問に答えたりということをして、楽しんでもらうものですね。

なるほど、犬のいないグループ施設に、犬とのふれあいを擬似体験してもらうんですね。

安西

まだやり始めたばかりで、これから改善も必要なんですけど、まずは喜んでいただけました。

とにかく仲の良い3人です

では、プライベートのことも少しお聞きします。お休みの日はどう過ごしていますか。

黒﨑

私はディズニーが好きなので、ディズニー映画を見ることが多いです。あとはご飯がすごい好きなので、自分でも作りますし、友だちとご飯に行くとか、トレーナー同士でもたまに集まることはありますよ。最近はあまり行けていませんが。

安西

好きなのはご飯だけ?

それは、お酒好きということですか(笑)。

黒﨑

自宅で晩酌するくらいには好きですね(笑)。

みなさん、こうしてインタビューしていても感じますが、仲が良さそうな印象を受けます。

黒﨑

同世代で話しやすかったのは良かったです。

米川

お互い相談しやすかったです。

米川さんの休日はいかがですか。

米川

ドラマが好きなんで、ドラマを見たり、本を読んだり。

どんなものをチョイスしているんですか。

米川

本屋大賞はチェックしているので、大賞を取ったものは読みたくなっちゃいますね。あと、過ごし方としては友だちと遊びに行ってます。今はちょっと様子を見ながらですけど。

安西さんはいかがですか。

安西

家に、専門学校から一緒のパートナードッグがいるんで、一緒に出かけることもあります。でも、とても静かなんですよね。散歩っていうワードを出さない限りは、基本的には寝ています。

かわいいですね〜。ちなみに犬以外には何か趣味はあるんですか。

安西

趣味か…う〜ん。

どうしたんですか。

安西

好きなアーティストがいるんですけど…。

黒﨑

そこに情熱を注いでるよね。

安西

いや、控えめだと思います(笑)。

(笑)。どんなアーティストかは教えてはくれないですか。

安西

そこはちょっと…。

全員

(笑)。

前編を読む

profile

ケアホーム千鳥 ドッグトレーナー
米川 千晴(よねかわ ちはる)

【出身】東京都東村山市
【趣味】読書、ドラマ鑑賞
【好きな食べ物】明太子

ケアホーム板橋 ドッグトレーナー
黒﨑 千裕(くろさき ちひろ)

【出身】栃木県矢板市
【趣味】ディズニー映画鑑賞、ご飯を作る
【好きな食べ物】チョコレート、お肉、お寿司

ケアホーム葛飾 ドッグトレーナー
安西 二葉(あんざい ふたば)

【出身】栃木県宇都宮市
【趣味】動画鑑賞、犬と過ごす
【好きな食べ物】海鮮類(特に好きなのはサーモンと貝類)

ケアホーム千鳥 はる

【犬種】キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
【性別】♂
【好きな食べ物】ふかしたイモとカボチャ
【名前の由来】春に生まれたこと

ケアホーム板橋 ロイ(ろい)

【犬種】コッカプー
【性別】♂
【チャームポイント】くるくるヘアー
【名前の由来】毛並みが黒いこと

ケアホーム葛飾 いなり

【犬種】ゴールデンレトリバー
【性別】♀
【好きなこと】おもちゃで遊ぶこと
【名前の由来】施設近くに稲荷神社があることと、おいなりさんみたいに丸々とかわいいこと

施設情報

東京都大田区千鳥2丁目34番25号

社会福祉法人 兵庫福祉会
ケアホーム千鳥

2018年開設の介護老人福祉施設です。84床の特別養護老人ホーム(ユニット型)と12床のショートステイのサービスを提供いたします。自宅での介護が困難な方を対象に、一人ひとりに合わせて日々の暮らしをサポートし、その人らしく安心して過ごしていただくことを目指します。

施設情報

東京都板橋区向原3丁目7-8

ケアホーム板橋

2019年6月に開設。特別養護老人ホーム(ユニット型、従来型)、ショートステイ、グループホーム、ケアハウス、地域包括支援センター等の介護保険サービスを提供する高齢者施設です。

施設情報

東京都葛飾区小菅1-35-10

社会福祉法人 平成記念会
介護老人福祉施設 ケアホーム葛飾

2020年4月にオープンした介護老人福祉施設です。120床の特別養護老人ホーム(ユニット型)、18床のショートステイのサービスを提供する施設です。地域交流スペースを設け、地域の方々にもご利用いただける憩いの場所を目指します。地域に根ざした施設として、利用者さんが住み慣れた地域で長く暮らしていけるように、全力でサポートいたします。