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特集記事|医療現場で医師はどうあるべきか vol.4

総合診療医の研ぎ澄まされたキュアが、より良いケアの土台をつくる。
堺平成病院「HMW総診」指導医×専攻医 座談会

医療現場で医師はどうあるべきか2026.05.26

高齢化が進む日本において、求められる医師像と医療のあり方を探求してきた本特集「医療現場で医師はどうあるべきか」。最後の記事は、2026年度から総合診療プログラム「HMW総診」を開始した堺平成病院を訪問し、指導医の安田考志さんと生方 晋史さん、専攻医の坂本 昂士さんに、座談会形式でお話を伺いました。


指導医のおふたりは、なぜ今の医療に総合診療的視点が必須だと考えるに至ったのでしょう。また、専攻医の坂本さんはどのような医師像を胸に抱いて、数ある総診プログラムのなかからHMW総診を選んだのでしょうか。そして、総合診療医として思い描く日本の医療の未来についても語っていただきました。

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<プロフィール>
安田 考志(やすだ・たかし)
透析内科、腎臓内科、足病診療科、病院総合診療認定医。2000年、高知大学医学部医学科卒業。2003年松下記念病院腎不全科に勤務したのち、京都府立医科大学大学院泌尿器外科学専攻修了。2017年松下記念病院腎不全科部長、2018年同病院足病診療科部長を兼任。2022年神戸百年記念病院救急総合診療科部長。松下記念病院、神戸百年記念病院にて、総合診療専門研修プログラムの立ち上げに携わる。2025年1月、経営企画医師として平成医療福祉グループに入職。堺平成病院副院長に就任。

生方 晋史(うぶかた・しんじ)
救急医学会専門医、総合診療特任指導医、臨床研修指導医。2012年、昭和大学医学部卒業。今村総合病院、浦添総合病院・救急集中治療部、市立奈良病院・総合診療科勤務を経て、2019年、函館中央病院内科・総合診療科医長に就任。2022年、神戸百年記念病院救急総合診療科。2026年、平成医療福祉グループに入職、堺平成病院にてHMW総診の指導医を務める。

坂本 昂士(さかもと・たかし)
堺平成病院、HMW総診専攻医。兵庫医科大学卒業後、同大学病院にて研修。総合診療的マインドと内科医としての基礎を身につけるべく、2026年度HMW総診の専攻医として入職。

HMWの医療のベースにある総合診療マインド

安田さんは入職してすぐに「HMW総診」の立ち上げに着手されました。この1年間のなかで、グループ内の総合診療に対する認識に変化はあったのでしょうか。

堺平成病院副院長 HMW総診指導医 安田考志さん

安田さん:2018年度に新専門医制度において19番目の基本領域として総合診療専門医が認定されました。日本の医療において、総合診療科が重要なポジションに位置付けられたわけです。総合診療科は、まずは大学病院や急性期病院で広がっている一方で、世の中の7〜8割の急性期、回復期、慢性期病院には、まだ総合診療医がいない現状があります。このギャップが、今後の日本の医療の課題になると見ています。

そういう会話を代表・副代表とさせていただいたら、みごとにベクトルが合致したので「我々で総合診療医を育成しましょう」と、HMW総診の立ち上げに踏み切ったのが約1年前。代表も副代表も、HMW総診を立ち上げる段階になって「自分たちがやっていたのは総合診療だったんだ」と再認識されていました。また、当グループのほぼすべての病院長や事務長は「総合診療医が欲しい」と言われています。関西においては、堺平成病院のミッションは非常に大きいと感じています。

生方さんは、以前の病院で安田先生と一緒に総合診療科の立ち上げをご経験されたと伺いました。急性期病院での勤務を希望する若い医師が多いなか、回復期・慢性期を主軸とするグループへの転職を決めた理由は?

堺平成病院 HMW総診指導医 生方 晋史さん

生方さん:急性期病院にも高齢の患者さんが増えています。高齢の方は、病気さえ治せば解決するケースは非常に少ないんです。たとえば、身寄りのない方の意思決定、ご自宅に帰れない方の退院後の生活のこと。治療を優先するよりも、むしろQOL(Quality of Life、生活の質)を大事にすべきなのかを考える必要もあります。しかし、急性期病院ではケアの視点で向き合うべき問題に対処するルールなどもなく、個人でやるには限界がありました。そんなとき、安田先生から「これからの時代の総合診療は、まさに平成医療福祉グループだ」と誘っていただきました。

安田さん:彼は、最初から総合診療を念頭に置いたうえで、救急医の資格を取っているので、全身管理がしっかりできます。そして、医師だけではなく看護師や療法士、すべての職種に対する教育に熱意が非常に高い。まさにこのグループに必要な医師だと思って声をかけました。

生方さん:当グループは、まさに高齢者の全人的ケアの必要性に一番重きを置いています。ケアについての勉強はまだまだこれからですが、まずは今まで学んできたキュアについては診療や教育の面で役に立てるのではないかと思います。

総合診療を学ぶならここしかない

HMW総診にとって最初の専攻医として入職された坂本さんは、なぜ総合診療医を志したのですか。

堺平成病院 HMW総診専攻医 坂本 昂士さん

坂本さん:幼い頃から、有床診療所を開業している父が患者さんのために尽くす姿を見ていました。父は消化器内科の専門医ですが、困っている方はすべて引き受けて、専門的な治療が必要だと判断すれば他の病院を紹介する、まさに総合診療的な働き方をしています。僕も医師になるなら、やはり自分が出会う一人ひとりの困っている患者さんに対して、自分ができることを全部やりたい。だから、臓器別専門医ではなく総合診療的に全人的に診る教育を受けたいという思いがベースにあったんですね。

さまざまな総診プログラムがあるなかで、HMW総診を選んだ理由は?

坂本さん:研修医1年目のとき、いろんな病院の総合診療科を見学させていただきました。いわゆる急性期病院で、救急で受け入れた患者さんなどを診断して専門科に橋渡しする総合診療科もあれば、大学病院などで診断困難な患者さんの鑑別診断をする総合診療科もありました。自分は、医師として何を目指したいのかを考えると、高齢の患者さんをしっかり診るところにフォーカスして勉強した方がいいのではないかと思いはじめました。高齢化社会ですから、どういう医師になるとしても必ず必要とされるスキルだろうと考えたのです。

では、どの病院の総診プログラムに入ればいいのだろうと検討していたとき、見学先で出会っていた安田先生から「今度、平成医療福祉グループで総診プログラムを立ち上げるんだけど、話だけでも聞いてみないか」とご連絡いただいて。このグループなら、患者さんの入退院だけでなく、退院後の介護やケアまでを含めてしっかり学べます。また、診断困難事例の知識だけにフォーカスを当てるのではなく、いわゆる内科的なプロブレムをものすごく細かいところまで教えていただけます。医師としてのベースをつくるならここでしっかりやる方がいいと思い入職しました。

安田さんから指導を受ける坂本さん。インタビュー時の笑顔とは打って変わって真剣な眼差しです。
病棟を歩く時間も惜しんで、生方さんに質問をしていました。

入職してまだ2週間ですが、現時点で感じていることを聞かせてください。

坂本さん:先生方はこんなにも細かいところまで目を配っているのか!という驚きの連続で、自分はこんなにも気づけないし、知識がないのだとまざまざと感じているところです。ほかの環境で同じ疾患、同じ患者さんを診たときに、ここまでフォーカスが当たっただろうかと思います。専門医になって市中で働いていたとしても、先生方のマインドや目の配り方ができるようになるかと考えると、今ここでしっかり教えていただける環境にいられることは、すごく幸運だと思っています。今浴びている知識、考えなければいけないことは、医師として絶対に必要とされる力ですから。

1年間で1人前の総合診療医に育てる

スタート1年目ということもあり、ふたりの指導医にみっちり教われる環境も幸運かもしれませんね。

安田さん:HMW総診は、少人数でスタートしたので、メンターとしての指導医の存在は重要ですが、そこに関しては心配せず来てもらえる自負がありました。また、回復期、慢性期、亜急性期病院には、急性期病院や大学病院以上に、総合診療を学ぶうえで必要な症例がすべて揃っているんです。

学ぶべきことがたくさんありそうですが、1年目のプログラムの予定は?

生方さん:1年間で一人前に育てようと思っています。最初は、一般感染症、心不全、腎不全、糖尿病など、主に高齢者の全身管理に関わるキュアが中心になりますが、これらをある程度は一人でマネジメントできるという最低限の合格点までもっていきたい。それには、膨大な知識と経験が必要ですから、なかなか大変な1年になると思います。ただ、当院は外来・入院含めていろんな疾患をもつ患者さんがおられますから、症例は非常に多様にあるので間違いなく経験を積めます。学び方さえ間違えなければ、1年後には立派な総合診療医の入り口には立てるはずです。そして、来年度に新しい専攻医が入ってきたら、今度は教える立場になって、さらに成長してほしいと考えています。

総合診療医としての勉強について、具体的に伺ってみたいです。

生方さん:一般的に、病気の診断は検査結果を見てから下されますが、総合診療医にとって検査はあくまで補助的なもので、ある程度は正解を想定しながら行います。基本的には、主訴、病歴、患者さんの背景、そして身体診察から6〜7割程度の病気は診断できると言われています。このように検査前から疾患を想定して考えるための知識はもちろんですが、疾患ごとに正確性が高い検査が何かという知識が必要です。また診断後も、たとえば長期的に心臓を悪くされている患者さんの入院のリスクを減らすためや予後を伸ばすために、投薬のエビデンスを一つずつ調べて知っていくことも含めて勉強ですね。

学ぶべきことは山のようにあり、ガイドラインやエビデンスは日々アップデートもされていくので、総合診療医は一生が勉強です。そういった方法も知識も、坂本さんは今まさに勉強の最中なので、しばらくは診療の中で迷うことも多いと思います。ただ、頻度の高い疾患はありますし、治療に関しても「まずはこの治療をすれば間違いがない」という重みづけはあるので、1年目は合格点を目指してもらおうと思います。

合格点を目指すうえで、1年は現実的な期間なのですか。

生方さん:一番大事なのは、本人の向上心があるかどうかです。坂本さんは2週間見ていて、常に自分で考えて「早くできるようになりたい」という気持ちをひしひしと感じます。確実に、1年後にはスパークしていると思います。

総合診療は「謎解き」である

入職からの2週間のなかで、指導医の方たちを見ていて「すごいな」と思ったエピソードを伺ってみたいです。

坂本さん:もう全体として、あらゆるレベルがすごいです(笑)。たとえば、患者さんが服用しているお薬を見るだけでも、患者さんの状態をある程度予想されたり、検査データだけで把握されたりします。全部がわかっているから、一部だけでも予想されるのだなと思うのですが、もう全然見えている量が違うというか。

この疾患でこういう背景をもつ患者さんが来られたら、鑑別として何をを挙げておかないといけないのか。検査をするなら、どれだけの感度と特異度があって、陰性・陽性が出る確率はどのくらいあるのか。治療に必要な期間はどれほどなのか。今は、先生方の知識をすべて見せてもらいながら、到達点はどこにあるのかを教えてもらっているところです。

救急初療室(ER)にて、救急搬送された患者さんを診断する
外来診察を担当する坂本さん。待合室の患者さんに呼びかける
病棟にて、担当している患者さんに話しかける坂本さん

安田さん:たぶん、みんな最初はマジックを見ているような気持ちになるんだと思います。HMW総診の教育顧問をしてくださっている、徳田安春さん(群星沖縄臨床研修センター長)は「総合診療は謎解きだ」と言われています。そこに、総合診療の醍醐味もあるんですよね。診断の謎解き、治療の謎解き、患者さんの背景にある食生活や生活スタイル、社会的背景も謎解きです。それをできるのが本当の総合診療医なんです。点と点で考えるのではなく、全部の点をつなげて謎を解いていくので、一つひとつの情報を大事にしています。

たとえば、坂本さんと指導医のおふたりでは、ひとつの検査結果から得られる情報量が全然違うというイメージですか。

坂本さん:ゴールまでの距離が10あるとして、僕は1か2しか見えていません。先生方は、入院された時点で9から10くらいまで見えていて、それを確かめるために必要な検査をされるんです。どうして先生方はここまで想像できて、しかも検査結果を見るとたいてい当たっているんだろう?と不思議に思うのですが、やはり知識や経験によってベースとなる判断材料を膨大にもっておられるから、適切な情報を揃えられるのだと思います。

生方さん:今、彼がぶつかっている壁のひとつは、主に高齢者に関わるマルチプロブレムの管理です。たとえば、高齢の糖尿病患者さんが肺炎で入院されたとき、抗菌薬を出しつつ血糖値が高いときはインスリンを使うという、その場しのぎの指示を出すのは楽だし簡単なんですね。では退院後のことを考えたらどうか。インスリンがはじまってしまったばかりに、「ひとり暮らしだから自分で打てない」と、自宅生活を諦めて施設に入所する高齢者もいらっしゃいます。さらに、インスリンが怖いのは「低血糖」です。高齢の患者さんは低血糖が増えると、認知症のリスクが高まることは明らかになっています。だからまず考えるべきなのは、「この患者さんに本当にインスリンが必要なのか?もしくは、回数や単位数をできるだけ減らせないだろうか?」ということです。

要は、本来ならキュアで解決できるマルチプロブレムを見過ごしてしまうと、患者さんの人生や生活場所が変わったり、低血糖状態をつくって認知症が増えたり、場合によっては余命が短くなることさえあります。つまり、医療者が自覚しないところで患者さんの人生すら左右してしまうことが実際にあるんですね。患者さんに応じたベストなキュアを提供し、本来なら必要でないケアはできるだけ減らして、患者さんの人生の選択肢をより広くすること。これを実践できるのが総合診療医だと僕は思っています。

目の前の患者さんから医療改革へと広がる視点

高齢者のマルチプロブレムの解決は、まさに総合診療医のキュアの力が必要とされるところなのですね。

安田さん:検査をするときも「何を知りたいのか」をしっかり考えて出さないと、患者さんの負担を増やしてしまいます。薬に関しても、入院時に確認して飲まなくていい薬を減らすことで、認知症の進行を抑えられるかもしれません。より確実なキュアを極めていけば、チリも積もれば山となって国の医療費の抑制にもつながるかもしれません。

「クリニカル・クエスチョン(臨床的疑問、以下CQ)」は、総合診療医のキーワードのひとつです。目の前の患者さんに向き合うなかで生まれてくるCQを、一つずつきちんとクリアできる人が総合診療医に向いていますね。それに、総合診療医のCQは、どんどん広がっていくんです。僕のCQは、「総合診療を全国に広めるにはどうしたらいいか?」です。今、毎年約270名ずつ専攻医が増えているのですが、これを毎年2000名にするにはどうしたらいいか?と考えています。日本の医療を良くする人を育てたいんです。代表・副代表は、「この国の医療をよくするには?」とさらに大きなCQをもっていると思います。

総合診療医が10倍に増えるようになったとき、どんな医療の未来をイメージされていますか?

安田さん:急性期病院には、各臓器別専門医の先生方が各科に10〜15人おられて、患者さんの命を救っていただいた後、我々のような総合診療医のいる病院に任せていただくという分業ができればと考えています。そのためには、総合診療科にキャリアチェンジする医師の受け入れ、総合診療マインドを伝えるリカレント教育も必要になるだろうなと考えています。教育については、生方さんに大きく期待しているところです。

生方さん:総合診療医を増やすには時間がかかりますので、総合診療マインドをもつコメディカルの育成も必要だと思っています。また、頻度が高い疾患や病棟管理については、総合診療医が舵を取って、グループの中で共有できるような診療マニュアルを作れたら良いなと考えています。目標は、総合診療医に近い診療知識・技術を持つコメディカルがたくさん育ち、医師が少ない現場でもこのようなマニュアルが活用されて当グループのどの病院でも同じレベルの医療を受けられるようになること。そして最終的な理想は、日本全国どの医療機関でも同レベルのキュアとケアを受けられるような社会になる。そのきっかけになれば良いなと思っています。

その頃には、坂本さんも指導医の立場で後進の育成にあたられているかもしれませんね。

安田さん:次は、徳島の博愛記念病院でのHMW総診を準備しています。当グループは、トップ層が総合診療科の重要性を理解して、医療の中心に据えようとしています。そして、この国の医療のあり方を変えていこうとする気概もある。HMW総診では、総合診療的視点でのキュアを極めるだけではなく、ケアの視点やACP(Advanced Care Planning, 人生会議)や地域との交流も入ってきます。さらには公衆衛生学修士の取得や厚労省への出向などのチャンスもあります。これからの時代に求められる総合診療のすべてがここにあると言っても過言ではありません。

ありがとうございました。坂本さんがスパークされる頃にまたあらためてお話を伺いたいと思います。

本特集の記事のなかで、グループ副代表の坂上 祐樹さんは「総合診療医の先生たちは『病院を良くしよう』ではなく『日本を良くしよう』と言う」とお話されていました。今回の座談会でも、それぞれの立場から「HMW総診から、医療の未来を変えていく」という意思が感じられます。また、キュアとケアの双方の質を高めることが、両者の有機的なつながりが生まれて、患者さんの人生をより豊かにできるという総合診療医の視座が、高齢化が進む日本の医療の軸となるのだとも思いました。

HMW総診から、どんなふうに平成医療福祉グループの医療現場が変化していくのか、さらには日本の医療トレンドにどんな影響を与えるのか。これからも注目していきたいと思います。

プロフィール

フリーライター

フリーライター

杉本恭子

すぎもと・きょうこ

京都在住のフリーライター。さまざまな媒体でインタビュー記事を執筆する。著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)、『まちは暮らしでつくられる 神山に移り住んだ彼女たち』(晶文社)など。

フォトグラファー

フォトグラファー

生津勝隆

なまづ・まさたか

東京都出身。2015年より徳島県神山町在住。ミズーリ州立大学コロンビア校にてジャーナリズムを修める。以後住んだ先々で、その場所の文化と伝統に興味を持ちながら制作を行っている。