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特集記事|医療現場で医師はどうあるべきか vol.1

グループが目指す全人的医療を提供するために。これからの医師に必要なのは「総合診療的視点」

医療現場で医師はどうあるべきか2026.04.14

病気になったり怪我をしたとき、私たちは病院へ行き、医師の診察を受け、必要な治療をしてもらいます。当たり前ですが、医師とは「病気や怪我の診断をし、治してくれる人」。ただし、高齢化や疾病構成比などの変化によって、求められる医師像や医療のあり方は移り変わりつつあります。


平成医療福祉グループでは、このような変化に対応するために医師のあり方について議論を重ねてきました。たとえば、臨床の枠組みを超えて経営や研究に携わる、同グループ独自のポジション「経営企画医師」を拡充。2026年度からは、全人的医療を担う総合診療医を育成する、総合診療専門研修プログラム「HMW総診」を開始しました。


今回は、同グループ副代表の坂上祐樹さんと天辰優太さんに、あらためてグループの「理想の医師像」について伺います。同グループの理念「じぶんを生きる を みんなのものに」を体現する医師のあり方とはいったいどのようなものなのでしょうか。

<プロフィール>
坂上 祐樹(さかがみ・ゆうき)
平成医療福祉グループ副代表、経営企画医師、海外事業部部長。1981年長崎県島原市出身。2006年長崎大学医学部卒業。長崎県五島中央病院で初期研修後、厚生労働省に入省。医師偏在を課題として臨床研修制度の見直しなどに取り組み、診療報酬改定や災害医療の整備などを手掛け、2017年に同グループに入職。

天辰 優太(あまたつ・ゆうた)
平成医療福祉グループ副代表、経営企画医師、訪問事業部部長。1987年大分県大分市出身。2012年岐阜大学医学部卒業。岐阜市民病院で初期研修後、厚生労働省に入省。介護報酬制度、診療報酬制度の改定や国立ハンセン病診療所の医師確保、医師の働き方改革に携わる。2020年に同グループに入職。

回復期・慢性期医療のトップランナーとして

日本の医療体制は、生命の危機のある重症患者さんを受け入れる「高度急性期」、急性疾患の初期治療が必要なときに状態の早期安定化に向けた医療を提供する「急性期」、急性期の治療を終えたあと、在宅復帰に向けた機能回復に取り組む「回復期」、長期的な医療ケアが必要な人のための「慢性期」の4つに分けられ、そこに医師や看護師が定期的に自宅を訪問して診察や治療を行う「在宅医療」が加わります。

全国で26の病院を運営している平成医療福祉グループでは、どの領域をカバーしているのでしょうか。

坂上さん:「グループ全体でみると高度急性期以外の領域に広く取り組んでいます。機能は病院によってさまざまで、歴史や地域性、規模などによっても変わります。たとえば病床数の多い堺平成病院は、急性期〜回復期〜慢性期までをカバーした地域密着型多機能病院。西宮回生病院は急性期から回復期、博愛記念病院は回復期から慢性期までが対象、世田谷記念病院は回復期を対象とした病院です。ただし、すべての病院に共通しているのは、回復期医療に取り組んでいること。つまりグループの医療体制の特徴は、回復期を中心として、病院によって急性期寄りだったり慢性期寄りだったりといった幅があるということになります」。

坂上 祐樹さん

そもそも同グループは、主な病棟が「一般」と「療養」の2種類しかなく、慢性期病院は「寝たきり病院」とも揶揄されていた1980年代から、回復期・慢性期医療に力を入れてきました。

坂上さん:「慢性期病院は『包括評価』といって1日あたりで診療報酬が出ています。つまり、何をやってもやらなくても金額が変わらないため、検査も治療も何もしようとしない病院が、かつては多かったのです。当時代表を務めていた武久洋三会長は、その頃からこの状況に疑問をもち、在宅復帰を目指してリハビリにしっかり取り組まれていました。最近のグループはさらに先をいって、いわゆる医療行為だけではなく、その人の人生や生活までを支えることに取り組んでいます」。

回復期から包括期へ。今、どんな医療が求められているのか

高齢化が進むなかで、回復期・慢性期医療を担う病棟の必要性がより広く認識されるようになりました。今も包括評価という基本的な枠組みは維持されていますが、回復期ではリハビリテーションのアウトカムに応じて、慢性期では救急受け入れに応じて加算が設けられるなど、診療報酬上の評価は段階的に改善されています。さらに国は、団塊の世代がすべて75歳以上となった2025年以降の医療需要も踏まえて、従来の「回復期」という区分を見直す方針を打ち出しています。

坂上さん:「2027年度から、これまで『回復期』と区分されていた領域が『包括期』という名前に変わります。回復期というと回復期リハビリテーション病棟、つまりリハビリをイメージしますよね。でも本来の回復期はもっと幅が広いんです。

たとえば、在宅療養している患者さんが体調が悪くなったときに受け入れて在宅復帰支援をしたり、地域のいろいろな資源と連携して生活をサポートしたり。回復期には複合的な要素があり、もはや回復期という名前では包含しきれなくなってきたんです。つまり国としては、超高齢化社会が進展する中で、回復期の領域をより手厚くしていきたいという狙いがあるんですね」。

天辰 優太さん

天辰さん:「急性期、回復期、慢性期は、患者さんの状態を表す言葉です。一方、包括期は患者さんの状態だけでなく、退院後の地域での生活まで含めた、医療のあり方そのものを表す言葉なんです。それぐらい、いろいろなことをやる必要があるという証左なのではないかと思います。たとえば、病院の中で完結するのではなく、在宅医療も含めた機能を地域の介護施設などと一緒につくっていかないといけない。先日参加した日本病院総合診療医学会でも、多様な取り組みが求められているし、実際にニーズもあるという議論がされていました」。

「回復期」から「包括期」へーー名称もカバーする内容も大きく変化するわけですが、同グループとしてはむしろ可能性を感じています。天辰さんは、2年に1度実施される診療報酬改定の方向性からも、「自分たちの取り組みが社会に認められつつある」と実感しています。

天辰さん:「2024年の診療報酬改定で、高齢の救急患者の受け皿となる『地域包括医療病棟入院料』が新設されました。実は、当グループの堺平成病院や平成横浜病院には、以前から地域の医療を支えるために高齢の救急患者の受け入れ体制をつくっていたんですね。そこにようやく国の評価が追いついたかたちになったことは、現場の力になっていると思います」。

現場から医療の潮流を変えていく

診療報酬改定は「現場での実績の積み重ねを反映している」と坂上さん。だからこそ「当グループから全国に広がるような実績をつくっていきたい」と話します。その一環として代表、副代表、経営企画医師らで、どういう医師を養成していくのかという議論をまさに始めたところだそう。

坂上さん:「グループのミッションが『じぶんを生きる を みんなのものに』である以上、患者さんが自分を生きることを支える医療を提供していかなければいけないということは、グループの医師であれば理解してくれているとは思います。ただ人によって、その意識に濃淡があるのは事実です。『それってどういうことなの?』という、より深いところを具体化し、求められる医師像を提示していくことを考えていかなければならないと思っています」。

グループとしてどうしたいか、どうありたいかを打ち出していくのは大切なことです。これまでも現場はもちろん、ウェブサイトやSNS、学会などを通じて積極的にグループの目指す医療・福祉について発信してきました。その結果、エージェント経由ではなく、このグループで働きたいという意思のある人がウェブサイトから直接応募してきたり、グループで働く人からの紹介で入職したりするケースが増えています。最初からミッションへの共感がベースにあることは「すでに壁を一つ突破しているようなもの」だと天辰さんは言います。

天辰さん:「医師の学習過程の初期には、自分の専門性や治療技術を学びます。その後、それだけでは解決できない問題が生じたときに視野を広げる必要が出てきて、全人的医療やケア、地域医療といった枠組みに向かっていくんですね。つまり、専門性の壁を突破するために自分で学びを再定義しないといけない。でも今のミッションへ変わったあとに入職した先生は、グループが目指す全人的医療に共感した上で来てくれているので、その壁をすでに突破しているんです。前提が共有できていることは、より良い医療のあり方を考えていくためにもとても大切だと感じます」。

同グループでは、臨床医としての現場の視点をもちながら、病院の中長期的な戦略策定、経営分析、新規事業の推進などを担当する経営企画医師というユニークなポジションを創設し、積極的に採用を進めています。グループの理念に共感して入職する、経営企画医師の存在も医療のあり方を考える大きな力になっています。

天辰さん:「少なくとも今いる経営企画医師は、全員が当グループが目指すところを確実に捉えて入職しているので話が合います。『目指す医療とは?』という話をするときも、前提を確認する必要がないのですぐに議論に入れるんです。そういう医師が増えてきたからこそ『HMW総診』もスピード感をもって実現できたのだと思います」。

臓器別専門医にも「総合診療的な視点」を共有する

HMW総診ウェブサイト

2026年、グループでは総合診療専門研修プログラム「HMW総診」をスタートさせました。地域での医療・介護・福祉の連携という社会的要請に応えるには、総合的な診療能力と地域全体を見渡す視野をもつ総合診療医の育成が必要だと考えているからです。

坂上さん:「医師といえば臓器別専門医で『専門以外のことはわかりません』というのが当たり前だった医療へのアンチテーゼとして、総合診療科は誕生しました。つまり、社会の側が総合診療科を求めたんですね。ただ、よくよく考えると当グループでは、総合診療が19番目の専門領域として認められる以前から、患者さんを臓器や疾患で切り分けずに全体的に診て、地域や家族を含めた視点で継続的に関わってきました。そういう意味では、当グループの取り組みは総合診療の概念に本質的に重なるものなんです」。

同グループでは、総合診療医の数を増やす方針を打ち出し、積極的な採用を進めています。しかし、すべての医師が総合診療医になればよいのかというと、決してそうではありません。

坂上さん:「治療のためには、臓器別専門医は絶対的に必要です。ただし『専門領域以外は診ない』という、従来の臓器別専門医の考え方では、グループが目指す全人的医療には届かないのも確かなんですね。では何が必要なのかと考えたときに、僕は『総合診療的視点』なんじゃないかと思いました。つまり臓器別専門医であっても、総合診療的視点は持っていてほしいということです。

そうすれば専門外のことは他職種や同僚の専門医に相談したり、地域の施設などと連携できるようになります。あるいは疾患を治すことを優先するあまり、QOLを下げる治療をしてしまうこともなくなるだろうと思います」。

天辰さん:「先日も精神科の先生が総合診療を学びたいとおっしゃっていました。これからは精神科も地域移行していかなければいけないし、そのために在宅医療を充実させたり、地域住民との関係性づくりをしていく必要がある。そういったことを考えていくなかで、総合診療を学びたいと思われたようです。昔からいる専門医の先生からも同様の希望が出はじめています」。

このような専門医の動きは、同グループにとって願ってもないこと。坂上さんたちは、医師を対象とする研修の準備を進めています。

坂上さん:「希望者に対しては、2年間しっかり学べば総合診療医の認定が受けられるプログラムを提供します。もうひとつはグループの医師全員がマストで参加する研修会の実施です。それだと細かい技術までは学べないかもしれませんが、底上げのためには後者がとても大事なのではないかと思っています。代表や僕らの口から、真にグループがやりたいことを説明して知ってもらう。そうすれば、グループが幅広い視点を大切にしていることを理解してもらえるのではないかと思います」。

全国の病院をつなげて医師偏在を解決したい

グループでは、今後取り組んでいきたいと考えている課題があります。それが、総合診療の需要とも密接に関係する「医師偏在」の問題です。医師偏在とは、医師の総数は増えているものの、地域や診療科によって医師の数に偏りがあり、必要な医療が適切に提供されない状態のことです。

坂上さん:「総合診療科がある地方の病院の視察に行くと、200床程度の中規模病院では臓器別専門医を揃えるのはもはや夢のまた夢みたいな状況になっています。大学病院や地域の中核的な病院が専門医を揃え、ほかの病院は総合診療医的な動きをする医師を複数名おいて、在宅も含めて地域を支えていくモデルにしないと、成り立たなくなってきているんです。

これは、全国の地方都市のどこでも起きうる話だし、当グループでも人口が減少していくエリアの病院はいずれそうなるだろうと思っています。ただ、そもそもそういう地域は医師の数自体が少ない。ましてや総合診療医や総合診療医的な視点を持った医師を確保するとなると、さらにハードルが高いんです。だけどやっぱり方向性としてはそれしかない。僕らは大きいグループだからこそ、人材を循環させるしくみをつくっていきたいと考えています」。

そこでグループの枠に縛られず、全国各地のいろいろな病院と連携するしくみを検討しはじめました。たとえば離島や過疎地域の病院には、研修の一環で来た若い医師が数年で都市部に帰ってしまうという課題があるそうです。

坂上さん:「せめて都市部に戻った後、当グループのように総合診療を重視する病院に入職してもらえれば、グループ内でローテーションを組んで地方に新しい医師を派遣するしくみをつくれるかもしれません。ある程度経験を積んだらまた何年か行ってもらえないかと交渉することもできるかもしれない。全国的なしくみをつくることは医師偏在の課題解決につながるのではないかと思っています」。

一人ひとりが住み慣れた地域でいつまでも安心して暮らせることは、その人の人生や自分らしさを守るという意味でとても大切なことです。そして病院や福祉施設の存在は、そのために欠かせない要素のひとつ。しくみそのものの改善も、広い意味では「総合診療的視点」と言えるのかもしれません。

坂上さん:「面白いのが、総合診療医の先生たちって『病院を良くしよう』ではなく『日本を良くしよう』って言うんです。僕らも同じなんですよね。もちろんグループも良くしたいんですけど、最終的には日本の医療を良くしたいと思っています」。

ただ疾患を診るのではなく、疾患も含めた目の前の患者さんを診る。すべての患者さんが「じぶんを生きる」ための医療を全方位から考え、提供する。グループの理想の医師像は、超高齢化社会を迎えた日本における理想の医師像でもあると感じました。総合診療医と総合診療的視点を持つ専門医が増えた先にどんな未来が実現するのか、今から楽しみでなりません。

次の記事では、病院における経営企画医師の役割について、平成横浜病院の事例を通してご紹介します。