ひとプロジェクト 第63回【後編】平成医療福祉グループ 薬剤部 部長/秋田 美樹さん

平成医療福祉グループ 薬剤部

部長

秋田 美樹 さん

Akita Miki

薬剤師が病棟で活躍できる環境を整えるために!
患者さんとスタッフが幸せになれることを目指します

グループ薬剤部で部長を務める秋田美樹さんの後編です。緑成会病院に薬剤師として入職した秋田さんは、その仕事ぶりを見込まれ、グループ薬剤部の業務を担うようになります。今回は、その経緯と、実際に部長として進めてきたさまざまな取り組みについてお話を伺いました。また、グループで進めるポリファーマシー対策の具体的な内容や今後の展望、さらにスタッフを想う秋田さんだからこそのモチベーションなど、あれこれお聞きしています。秋田さんにとっての癒しの存在も登場する後編、ぜひご覧ください!

  • 思いがけず薬剤部の部長として立つことに
    ポリファーマシー対策に取り組む

    今のようにグループの仕事をするようになったのは、どんなきっかけがあったのですか。

    入職して5、6年した頃、グループの代表と副代表に呼ばれたんですね。しばらく雑談をした後に「仕事ぶりを見込んで、関東エリアの病院を任せたい」と。

    秋田さんが入職した頃は、関東のグループ病院は緑成会病院と緑成会整育園だけだったと思いますが、その頃はまた病院が増えていて。

    そうですね。ほかにも、世田谷記念病院、多摩川病院、大内病院と、関東でも病院が増えていました。ただ、私の担当はいつの間にか関東だけじゃなくて全国の病院になっていたんですけどね(笑)。

    ではもう、すぐに関東エリアの担当から、今の役職である薬剤部の部長に。

    そうですね。全国と聞いて「ギョギョッ」とは思ったんですけど、自分としては関東を担当するだけでもかなり大きなことだったのが、さらに大きな話が来たところで、もうサイズ感がよくわかんなくなってて(笑)。

    関東も全国も一緒だと(笑)。では緑成会病院の仕事も手放して、グループの仕事に移っていかれて。

    最初は病院の仕事も並行していましたが、そこから私以外の常勤スタッフや非常勤のスタッフが増えていったので、徐々に任せていきました。本当にみなさんに助けられましたね。

    当時はグループ内で薬剤師同士の横のつながりはあったのですか。

    ほとんどなくて、年に1回講演会で顔を合わせる程度でしたね。部門の研修会もその時はまだありませんでした。

    その状況で、どんなお仕事から始まっていったのでしょう。

    最初はポリファーマシー(※)対策のマニュアルを作るところと、自動分包機を導入するところからでしたね。

    ※薬物の相互作用を減らすため、6種類以上の服薬を「多剤内服」として減らす取り組み。くわしくは下記ページをご覧ください。
    平成医療福祉グループ 薬剤部の取り組み

    ポリファーマシーの取り組み自体は、もう始まっていたのですか。

    私が緑成会病院に入職した時からグループの理念としてはあって、当時は「5剤制限申請書」と言って、内服薬が5剤を超える場合は申請書を書くという制度がありました。

    処方する薬がむやみに増えないようにと。

    そういう考えは根底にあったんですけど、じゃあ実際どう取り組んでいくのか、どの薬に気をつけるか、どういった薬を提案するのか、医師や看護師さんとどう協力していくか、っていうフローはまだこれからの状態だったんです。

    ちなみに、ポリファーマシーの概念自体はいつ頃から始まったものなんですか。

    日本老年医学会が、2000年代前半には提唱はしていました。あとアメリカの方では既に「ビアーズクライテリア(Beers Criteria)」っていう、高齢者に使用するのに注意が必要だとされる薬剤の基準と一覧が提唱されていましたから。そういった概念はあったんで、グループでも割と早くに取り入れてたんだと思います。

    もうひとつ取り組んだ、自動分包機の導入というのは。

    当時は薬を手で調剤していたんですけど、そのことで業務の時間が取られてしまっていたので、自動でできる機械を導入しようと。その分、薬剤室にいる時間を減らして、できるだけ病棟に出ていこうということだったんです。そこで部長になりたての私が、機械とともに「どうも初めまして〜」って全国を回って導入をサポートして(笑)。

    (笑)。なるほど、挨拶回りも兼ねて各病院を回られて行って。

    関西や徳島の病院もそれまで行ったことがなかったですから。ただ、ニューフェイスがそうやって回っていっても、やっぱり最初は「ん?」と戸惑われることもありましたね。なので、まずは意識統一が必要だと思って、関東と関西で薬剤部の研修会を開きました。関西はエリア長さんもいましたから一緒に企画して。飲み会もして仲良くなって、というところから初めていきました。

部門の体制づくりに力を入れる
学生のみなさんに慢性期の魅力をアピール

部長になってからは、部門の形や取り組みも変えていかれましたか。

例えば部門会にしても、最初は私が喋ることがメインだったんですけど、テーマを決めてみなさんに担当を振って、いろんな人に参加してもらう形に変えていきました。部門会自体が、年に何回もできるわけではないので、さらに意志統一や意識共有を進めるためにも、チームを作ることにしたんですね。

具体的にどういったことを進めたのですか。

業務支援チームや薬品情報チームといったチームを作って、ある程度の役職やリーダーシップのある方に参加してもらい、定期的にオンライン会議を開催していきました。そこでいろんなマニュアルや業務フローを作ったり、意見をもらって統一薬を追加したり。

積極的に部門内で意識を共有していったわけですね。

リクルートチームも立ち上げて、グループの人事部さんと一緒に学校訪問をしたり。そうこうしているうちに、6年制になった薬学部を卒業した若い力もたくさん入ってきました。

以前と比べて、グループ内の薬剤師の数も増えてきましたか。

だいぶ増えましたね。以前は、ひとつの病院に薬剤師が2人いれば御の字なところもありましたけど、今は病院によっては10名以上いるところもあります。そのおかげで、病棟での業務とか、いろいろできることも増えました。

部長に就任した当初は、そういった取り組みを進めたくても、人が足りなくて苦労されて。

今より全然いなかったですからね。当時は学生のみなさんに、グループ薬剤部の広報を全然できていなかったので、広報部さんと一緒にパンフレットを作って、人事部さんと一緒に学校に行って説明させてもらうと、だんだんと入職を希望する学生さんも増えていったんですね。

慢性期医療の病院を希望する方も増えてきたと。

くわしく聞いてみないとわからないですが、そうなっていたらいいなあと思いますね。新卒で入ってくれた人のなかには「最初から慢性期病院で仕事をしたくて入りました」とか「ポリファーマシー対策に取り組みたくて入りました」って言ってくれる人もいるので、慢性期病院の人気が高まっていると信じたいです(笑)。

リクルートではどういった点をアピールされていますか。

最近はコロナ禍で、直接ではなく、すっかりオンライン説明会が主流になってしまったのですが、その際にお伝えしているのは「調剤をすることプラスアルファで、どんどん提案とか、他職種と連携してチーム医療に関わりたい」っていう方を求めていますということですね。

基本業務としての調剤があって、プラスして病棟での業務などにも積極的に取り組んでもらうと。

薬剤師としては、病棟業務に出るより前に、まず調剤業務を間違いなく完璧にする、っていうことが第一ラインにはなりますから。そのうえで病棟業務もあって、両方大事ということですね。ただ、最近6年制を卒業して入職したスタッフは、病棟に出ていきたいと言ってくれる人が多いです。

  • なぜ飲むのかわからない薬を飲み続けているケースも
    グループで力を入れるポリファーマシー対策とは

    薬剤師が増えてきて、特に以前と変わったのはどういうところですか。

    以前は、とにかくいかに調剤業務を行っていくか、ということがテーマだったんですけども、今だともう、ポリファーマシー対策も、病棟業務も配薬業務も当たり前といった感じで、どんどん変わってきていますね。

    ポリファーマシー対策には、実際薬剤師がどう関わっているのですか。

    まずは患者さんが入院してきた段階で持参薬について聞き取りをするんです。そのうえでわかりやすいように表を作って検査結果と照らし合わせて、どの薬を継続するかを医師と相談していきます。

    「継続しない」と判断されるのはどういったケースなのでしょう。

    聞き取りをしてみると、患者さん自身「この薬はなんで飲んでるのかわからない」とか「胃薬を10年以上飲んでいるけど、胃に症状は何もない」ということがよくあります。入院中は薬を減らした後の経過が見やすいので、薬を減らせる一番のチャンスなんです。もちろん、薬剤師だけでなく医師や看護師の協力あっての取り組みですね。

    例えば10年以上飲み続けているということは、実際は不必要なのに、ずっとその処方が出ているわけですか。

    血圧を下げる薬が処方されているけど、そもそも血圧が低いとか。90歳を超えて、血液をサラサラにする抗血小板薬や抗凝固薬を飲んでいて、もし転んだら大出血になっちゃうとか。抗精神病薬や睡眠薬とか、作用時間が長いものを処方されて、意識がドロドロになって食事やリハビリができないとか。そういう謎の処方があるんです。

    取り組みは患者さんにご理解いただけていますか。

    入院時に説明をすると、ほとんどの方にはご理解いただけます。むしろ「家で薬を飲むのが大変だったから、ぜひ減らしてください」っていう声が多いですね。

    薬が多くなって、飲むタイミングがそれぞれ違う場合などは大変ですよね。

    もう「エイッ」って嫌になっちゃいそうじゃないですか。それで、本当に大切な薬を「エイッ」としてしまって、再発や再梗塞とか、発作が起きてしまうっていうことが一番良くないので。「この薬は大事なので飲んでくださいね」とお伝えしていきたいですね。

    病棟業務というのは具体的にどういったことを行っているんですか。

    お薬が変わった時の服薬指導や薬の説明、それと先ほども話が出ましたけど、入院時の初回聞き取りもそうですね。あとは回診に同行して患者さんの不安や要望を聞いたり、リハビリスタッフさんと合同でカンファレンスを行って、薬についての相談を受けたりですね。あとは配薬の業務とか。まだ人数が揃っていない病院もあるので、全病院で均等にできているというわけではないのですが。

    とは言え、人数が増えたことで取り組みの幅は広がったと。

    そうですね、その点は本当に感謝ですね。入ってくれたスタッフにも、理解いただいて多く薬剤師を配置させてもらっていることにも感謝ですね。

  • 目指すのは患者さんとスタッフの幸せ
    少しでも仕事がしやすくなることがモチベーション

    今に至るまで、部長として進めてきた仕事を振り返っていかがですか。

    ここ5、6年は「薬剤部をいかにひとつにまとめていくか」ということが割と自分の中でのテーマだったんですけど、そこは割とできてきたかなと思っています。チームも立ち上げたし、関西でも関東でも、リーダーとして立ってくれるスタッフがいて、すごくありがたいことだなと。あとは、グループ統一薬の取り組みを進めていたんですが、昨年に医薬品管理センターを立ち上げて、より進めやすくなりました。

    グループで使う薬品を統一するという取り組みですね。以前は各病院の薬剤部がそれぞれで交渉して購入していたと。

    そうですね。統一することで、コストや価格交渉の面でのプラスが大きいですから。今までは各病院の担当者に苦労をかけていたんですけど、それを医薬品管理センターで一括してやれるようになって、必要な薬やいらなそうな薬について、情報共有できる体制も整いましたね。

    今後の薬剤部について、展望はありますか。

    今は、組織としてやっと形になってきましたし、リーダーシップを発揮してくれる人にも助けられ、新しい人も入ってきてくれて、すごくいい感じになってきているんです。今後はさらに、みんなの考える仕事のポリシーと、グループの方針を融合できたらいいなと。もし不安や不満があったとしても、それをチームや私に共有して、より解消できるようにしたいなと思っています。

    熱意を持って仕事をする人にとって、働きやすさにつながりますね。

    それと、今はエリア勉強会でも、みんな知識や技術をどんどん上げているので、いかにコミュニケーションをとって、それを他職種のスタッフに伝えていけるかっていうことも考えています。せっかくレベルが上がってきたところなので、それをどうアウトプットして、どう他職種と協働していくかっていうのが、今から数年のテーマだと思ってます。

    病院内でも、もっと薬剤師の存在感が増していくような取り組みですね。

    「薬剤師さんが病棟にいてくれて良かった」って、今も言ってもらえることもあるんですが、これを全部の病院で言われるようになるのが目標ですね。

    個人的にこういうことをやっていきたいとか、もしくはこれをモチベーションにしている、ということはありますか。

    う〜んなんだろう。薬剤部のみんなが幸せに働けたら、患者さんもほかの職種も幸せになれると思うので、まずはみんなを幸せにしようと思ってます。そうだ、グループにいた上長に以前言われた言葉を、唐突に思い出したんですけど。

    どんな言葉ですか?

    「薬剤師に必要なのは、薬の知識よりも、人の心を動かす力なんです。その点で、秋田さんは大丈夫だよ」って言ってもらえて、あれはありがたかったですね。

    それは嬉しい言葉ですね〜。

    私が部長になってから「仕事がよりやりやすくなった」って言ってくれる人もいて、それも嬉しいですね。まだまだな部分もあっていろいろ整備中ではあるんですけど、みんなが少しでも仕事がしやすくなって、病棟でたくさん活躍してくれることが、私にとってのモチベーションかな、って思ってます。

  • 最近夢中なのは
    癒しの存在「ベタ」

    では最後にプライベートについて伺います。お休みの日はどう過ごしていますか。

    最近はコロナの影響で出かけられなくなって悲しいので、去年の暮れから魚を飼い始めたんですよ。

    おおっ、どういう魚ですか。

    ベタっていう熱帯魚なんですけど、かわいいんですよ〜。最初1匹だったんですけど、今は4匹になりました。(ベタの画像を見せてくれる)

    きれいですね〜。もともと熱帯魚が好きだったんですか。

    そんなに興味があったというわけじゃなかったんですけど、家にいる時間が長くなったので、何かペットが飼いたいなって思って。この魚が人懐っこくて、ちゃんと私のことを認識してくれてますよ。本当かはわからないですけど(笑)。

    今はそれが日々の癒しですか。

    そうです〜。ご飯をあげるとパリポリ音をたてて食べるんですよ。あと、この魚がまた特殊で、エラとは別に「ラビリンス器官」っていうものを持っていて、空気呼吸ができるんですよ。

    へーっ、変わってますね!

    だからたまに水槽の上に来て空気呼吸してて。だからそれをボヤ〜ッと眺めてます。

    ベタには名前をつけているんですか。

    つけてますよ。みんな「ベッティー」です(笑)。

    みんな同じなんですね(笑)。今後やりたいことはありますか。

    コロナ禍が明けたら、御朱印集めをしたいんですよね。

    新しい趣味ですか。

    そうですね。そんなに密にもならないので、タイミングを見て去年くらいからちょこちょこはやっているんですけど。

    歴史好きということもあっての趣味ですか。それともパワースポット巡り的なことですか。

    両方ありますね。神社仏閣はもともと好きでしたし。

    冒頭では、小説をよく読まれていたとお話がありましたけど、最近はいかがでしょう。

    だんだん活字を読むのが辛くなってきていて、漫画は読みますけど小説は読まなくなってますね。今でも歴史ものは興味があるので、そういった題材の漫画は好きですよ。『進撃の巨人』とか『ゴールデンカムイ』とか。

    『進撃の巨人』は少し前に連載が終了したばかりでしたね。

    作者の諫山先生は天才ですね! 本当に全部、セリフとか話数とかにまで意味込めてるじゃないですか。読み返しても「こんなところにこんなことが描いてある!」っていうのがあるんですよ。テーマも、人種差別とか歴史とか、あとは帝王学とまではいかないまでも、リーダーシップについてとかも描かれていて面白いですよね!

    緻密に描かれているところが魅力ですよね〜。今まで見てきたものや読んできたもので、強く影響が残ってるものはありますか。

    う〜ん、なんでしょうね…いろいろ読んだ本とか漫画とか、満遍なく取り入れて自分になったんじゃないですかね。そのなかで言うと…小野不由美の『十二国記』はけっこう残ってるのかもしれないです。いやでもこれちょっとすごいオタクな話になってきたな(笑)。

    (笑)。

前編を読む

profile

平成医療福祉グループ 薬剤部 部長 秋田 美樹(あきた みき)

【出身】東京都東村山市
【資格】薬剤師
【趣味】読書、音楽鑑賞、ベタ鑑賞、御朱印集め
【好きな食べ物】今時じゃないタピオカ(フニャッとしたやつ)