ひとプロジェクト 第62回【後編】大内病院 リハビリテーション部 課長/飯島 直孝さん

大内病院

リハビリテーション部 課長

飯島 直孝 さん

Iijima Naotaka

研修生として経験した厚労省で得た視点。
今後は精神領域で多方面からのアプローチを強化しながら、組織作りに取り組みます!

大内病院のリハビリテーション部で課長を務める飯島直孝さんの後編です。緑成会病院で科長を務めながらも、今後の身の振りを考えていた飯島さんに、ふいに舞い込んだのは、厚生労働省で「研修生」として働く、というお話でした。全く違う分野に挑戦した飯島さんが、大変な状況のなかで経験したことや感じたこととはー。また、現在働く大内病院について、まったく専門外だったという精神領域でリハビリテーション部門の管理者として取り組むこと、また、自身が理想とする組織作りの話についても伺っています。飯島さんのお仕事への真摯な姿勢が伝わる後編、ぜひご覧ください!

厚生労働省で
研修生として働く機会を得る

飯島さんは厚生労働省で仕事をされた経験があると伺ったのですが、その経緯を教えてください。

緑成会病院でリハビリの管理者になって、業務に慣れてきた状況で、今後はどういうことをしていこうかと考えていた時期があったんですね。

ちょっと身の振りを考えるようなタイミングがあったのですね。

そこで、グループのリハビリテーション部の池村部長(※)から厚労省の話をもらったんです。

どういう内容のお話だったんですか。

「研修生として働いてみないか」というお話でした。立場としては、期間を限定して厚労省で実際に働きながら学ばせてもらうというものですね。同じく厚労省で働いた経験のある医療政策マネジャーを務める坂上先生のつながりでいただいた話だと思うのですが。

では形としては、籍は病院に置きながら、出向のような形で働くと。その話を受けようと思った決め手はありましたか。

理学療法士(PT)として働いていても、なかなか入れない世界ですから、そこに関われるっていうことに興味がありましたね。

確かになかなか縁がない世界ですね。そういった経験を積んだ人がまたグループに戻ってくることはプラスになりそうです。

お仕事を通じてさまざまな関わりもできますから。私が入った部署にも、自治体の職員や、PTの協会など、いろいろなところから研修生が来ていましたよ。

実際どのようなお仕事をされたのですか。

医療政策に関連する部署に配属されました。今だと医師の働き方についてとか取り組んでいるんですが、私が直接関わったのは医師の需給の検討についてですね。

医師の需要と供給について検討をされていたと。

日本の医師の需要と供給の数を出したうえで、現在は医師の数が増えているので、そのバランスを取るための方針を、世の中に認めてもらえるように打ち出していくとか。あとは医師が偏在しているという問題もあるので、その対策をどうしていくのか、ということに中心的に携わっていきました。

なるほど、地域差を解消するための取り組みということですね。具体的にどう動かれていたのですか。

実際はチームで動くので、そのトップから「こういうデータを出してください」とか、「こういう資料を作ってください」とか、そのほかにも陳情を受けた場合の対応にも関わっていました。あとは「議員レク」というんですが、国会議員の先生方に「こういう状況だからこの取り組みが必要なんです」とか、そういった説明をしました。ほかにも分科会のセッティングにも関わって、出席いただく先生方とのやりとりもしていました。

厚労省に限らずとも、省庁で働くとなるとなかなか忙しそうな印象がありますが、実際にはいかがでしたか。

忙しかったですね〜。やることが多かったですし、突発的にもらう話もありましたから。また、リハビリの分野での療法士の需給についての検討もやっていたので、その検討会のフォローに入ったこともありました。

飯島さんの経歴としてはそちらの方が専門分野で、医師の需給については関わりが薄そうですよね。

何もわからない状況だったので、医師の状況などについても、いちから勉強して取り組んでいましたね。

  • 忙しいなかでのしんどさも…
    しかし得られた新たな視点

    お仕事のやりがいはいかがでしたか。

    やりがいはあったんですけど、当初はしんどさが勝っていました(笑)。もともと病院のなかでリハビリ管理者として上に立っていたところから、今度は一番下に入ったので「自分がなにもできないんだな」っていうことを実感しましたから。

    全然やってないことを始めたわけですからね。何か今までの経験が生きたことはありましたか。

    それは、ほぼなかったですね…(笑)。リハビリについての質問は私に聞いてもらえますけど、世の中の医療全体で考えたら、必ずしもリハビリの話は大きい分野ではなかったので。でも、だんだんと自分が理解して仕事を身につけていくなかで、このことについては私に聞いてもらったら解決できる、という立場ができてきたんですね。

    経験していくうちに身になっていったと言いますか。

    やっとこう、いる意味があるんだとか、認められたじゃないですけど。頼まれたデータをすぐ出せる、とか、適切に資料を作れるようになるとか。そういう仕事ができるようになった感じですかね。

    実際どのくらい働かれたのですか。

    もともとは1年という話だったんですけど、延長してほしいということで、結果的に4カ月ほど延びて、期間を終えました。

    この経験を通して、どんなことが糧となりましたか。

    厚労省で働いていると、これからどういう方針で国が進めていこうとしているかということが、いろんな方面から入ってくるんですね。グループとしても、国の政策に沿って動くところがあると思うので、自分としても理解しやすくなったというか、戻った時に方針を現場に落としやすくなったのは強みかなと思いますね。

    なるほど、病院でリハビリ部門の管理者として仕事を進めるうえでプラスになる要素ですね。

  • 大内病院のリハビリテーション部門管理者に
    自身は未知の分野だった精神科の領域に踏み出す

    厚労省でのお仕事を終えた後は、どうしていこうということは考えていたのですか。

    厚労省での任期が終わる1カ月くらい前に、リハビリテーション部の池村部長と、次の配属についてお話しする機会があって、こういう貴重な経験をさせてもらったので、次がどんな立場であろうとお受けしようと思っていたんですね。そこで、現在勤める大内病院のお話をいただきました。

    大内病院は精神科がメインの病院ですから、今まで飯島さんが取り組んできたリハビリテーションとは違いがありそうですね。

    精神領域の経験はありませんでしたし、しかも今まで作業療法士(OT)しか配属されていない病院でしたから。

    そこにもともとPTである飯島さんがリハビリの管理者として入られたわけですね。

    前任の課長さんが離れてからしばらくリハビリについては管理者がいない状態で、役職者が分担しながら回していたので、意図としてはまず私に管理者として入っていってほしいということだったと思います。それと、疾患別リハビリテーションといって、2020年の5月から大内病院でも個別のリハビリテーションがスタートしたんです。その影響で、PTが何名か入っていた、ということもあっての任命だったと思います。

    個別のリハビリテーションというのはどういうものですか。

    精神科でのリハビリの関わりとしては「精神科作業療法」といって、集団で行うものが今まで主流だったんですね。それが、2020年4月の診療報酬改定で、精神療養病棟においても、疾患別リハビリテーションを行っていいということになりました。

    今まではできなかったマンツーマンの身体リハビリをできるようになったと。

    そちらがちょうど動き出したところだったので、そこを推進するとともに、精神科作業療法と、疾患別リハビリテーションをうまく調整をしていくということに、主として関わっていくところでしたね。大内病院でも高齢の入院患者さんが増えていることや、国の政策としても、入院から在宅復帰を進めていくなかで、集団リハビリだけでは補いきれない部分が以前よりも増えたことが背景にありました。

    なるほど、そういった方の在宅復帰をサポートしていくには、例えばしっかり歩けるようになるためとか、個別のリハビリがさらに必要になってくるのですね。

    実際、必要とする方は多くなってきています。一方では、作業療法についても今は個別でも取り組んでいます。そこに関しては、自宅などに戻った後にどういう風に社会で生活していくのかを、個別的に見ながらアプローチをするという取り組みを行っています。

    集団とはまた別のアプローチとして、深く関わっていくと。飯島さん自身はPTとして、精神領域には関わりがなかなかなかったのではと思うのですが。

    やはり今まで取り組んできたリハビリとは全然違いましたし、対応ひとつとっても、まだまだ難しさを感じますね。この方だったらどこまでさせてくれるかっていうところの判断が難しいですし、関係性もやはり違ってきますから、その距離感を考えていく必要があるなと最近思っています。

    PTとして精神領域に関わってきた方というのはグループでも少ないのですか。

    ほとんどいないですね、世の中でもまだかなり少ないと思います。

    PTがこの病院に入る以前から、ずっと患者さんと関わってきたであろうOTにアドバイスをもらう機会などもありそうですね。

    その点は、すごく助けてもらっていますね。お互いがお互いをフォローし合えると、すごくいいアプローチができると思います。

    互いに無い部分を補い合っていけると。

    今までがんばってアプローチしてきたスタッフが引き続き一生懸命働いてくれていて、そこに、新たにPTが入ってきたわけですから。今まで課題だったような部分、歩行とか転倒の予防とか、そういったところにアプローチできます。そこがクリアできたら、さらにもう一歩先に、協調しながら進んでいかないといけないなと思っているんです。つまり、精神に加えて身体もプラスアルファでみながら、その先に在宅生活がある。そのために、どうやって在宅復帰を進めていって、さらにどうやって生活してもらうのか。

    在宅生活を送っていくうえでは、どちらも必要なことと言えますね。

    もちろん、精神作業療法だけで十分という患者さんも多くいらっしゃるので、そういう方にはPTは介入せず、OTのアプローチで在宅復帰を目指していきます。私自身まだまだ、教えてもらいながら取り組んでいるところですね。

病床は縮小しても
リハビリテーションの質を高めていく

大内病院については今後建て替えも予定されていますが、それに伴ってリハビリテーション部についてはどのようなことを考えられていますか。

病床数が縮小するので、担当する患者さん自体は減ることになるわけですけど、量が減ることになれば、やはり質を高めないといけないと思っています。そのため、個別リハビリを強化していくためにも、採用も積極的に進めています。

なるほど、ベッド数は減るけれど、今まで以上に深く関わるために、人員はむしろ増やしていると。

リハビリについては、集団と個別の融合をしっかりして、1人の患者さんに、いろんな方面からアプローチしていこうと思っています。多方面からのアプローチを通じて、入院期間をなるべく短くして、早い段階で在宅復帰を目指していきます。そのために、退院後の生活をサポートするための在宅サービスの受け皿もさらに強くしていきたいですね。短期間で積極的なリハビリ介入と、在宅部門の強化が必要だと考えています。

そのほかに今後の展望はどう考えていますか。

人員を増強するなかで、若手のスタッフも増えてきているので、院内教育体制をしっかり作るっていうところと、もうひとつは組織作りをしています。

今までOTだけで組織が作られていたところにPTが入ったわけですし、組織図も変わりますね。

その点もありますし、例えば入院は入院の人、訪問は訪問の人、という感じで、それぞれの所属によって、同じ院内でも担当によって少し距離があったんですね。もちろん、その所属はそのままとして、ひとつの病院のリハビリ職員として、部門全体でも管理させてもらう、という方針を今考えているところです。

所属はどこであっても、大内病院のリハビリスタッフとして、共通した筋を一本通していくような。

そうですね。リハビリ部内で、在宅部署を管理してくれる人、入院部署を管理してくれる人、というような感じで、一緒に話しながら組み立てていくような組織作りをできたらと思っています。

  • 人を育てていくために
    理想的な組織作りを

    ちなみに、飯島さんのように病院でのリハビリ部門の管理者となると、またグループで別の場所に移るということも当然考えられそうですが。

    どうでしょうかね? ただ、どのような状況になってもいいよう準備をしておこうっていうのは半分思っていて、組織作りはそのためでもあるんですよね。2番手3番手をしっかり作って教育していかないといけないというか。僕がここにいる意味って、そこだと思うんです。

    なるほど、組織作りや人作りが使命だと。

    大内病院自体は、やっぱりOTが中心ではありますし、そのなかでもリハビリ部門の管理者として立てる人間をどんどん育成していかないといけない、というのが課題なのかなと個人的には思っています。

    管理ができる人間を育てていくというのが当面の目標でしょうか。

    どこの病院でもそれができると、非常にいいと思います。それと、僕がずっと理想に思っているのは、役職者が現場に戻りやすい仕組みがいいかなと。

    どういう意味合いでそう思われるのですか。

    やっぱり上が詰まっていくと下が伸びないですから。なので、ある程度上までいったら、現場にまた戻ると、今度は新しく上がった人をフォローできるようになる。そうすると育成が下からもできるわけです。それが回っていけば、組織の形としてはおかしいかもしれないですけど、強みが出るんじゃないかなと思います。

    管理能力がある人が管理者として立つのは当然として、能力があるが故に、そこから離れる機会も少ないですからね。

    そうすると、上に行きたいスタッフからすると逃げ道がないですから。結果的にほかに行くことになってしまって、能力のある人ほど、離れていってしまうことにもつながります。

    流出を防ぐためにも、人材を回していくというのはひとついいアイデアかもしれませんね。

  • 近頃は行けないキャンプと釣り
    そんな時は家で…

    では最後にプライベートのお話を伺います! お休みの日はどう過ごしていますか。

    最近は外に行けないですけど、もともとキャンプとか釣りとか、アウトドアが趣味なんです。

    もし釣りに行ける時は、どの辺に行くんですか。

    静岡とか神奈川の海ですね。最近は行けないのが残念ですが…。

    遠方に出かけられない最近はどうされているんですか。

    う〜ん、家でお酒を飲んでますね。ダメですね(笑)。いつも、自分で料理を作ってお酒を飲んでます。

    自分でやられるんですね〜。どんなツマミにはどんなものを作ってるんですか。

    最近、医事課の管理者の方に、ローストビーフのオーブンでの作り方を教えてもらったんですよ。

    院内にレシピを教えてくれるスタッフさんがいるんですね。

    元管理栄養士の方なんですよ。当直で一緒になった時に、合間で「いいレシピないですか」って聞いてます(笑)。

    いいですねえ。お仕事以外でなにか個人的にやりたいことはありますか。

    ん〜、なんだろう…。あ、でも今は分野を問わず本を読もうと思っています。もともと本好きではないので、ちょっと努力しようかなって(笑)。

    趣味にしようとされてるんですね(笑)。

    おすすめをみんなから教えてもらって、知見を深められたらいいなと。あとは厚労省に行って感じたのが、事務スキルを高めたい、っていうことですね。文章を作る能力も、著しく弱いなと感じたので。

    まさにそういった仕事がメインだったわけですもんね。

    当時に比べれば強くなって、いろいろ理解できるようになったんですけど、今後はもうちょっとそこをがんばりたいです。

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profile

大内病院 リハビリテーション部 課長 飯島 直孝(いいじま なおたか)

【出身】東京都府中市
【資格】理学療法士
【趣味】釣り、キャンプ
【好きな食べ物】ビール(お酒はなんでも好き)、唐揚げ

病院情報

東京都足立区西新井5-41-1

大内病院

精神科・内科・歯科認知症や感情障害、神経症性障害などの方が治療を行う場として、多職種が密に連携をとりあって患者さんをケアしています。また院内に『診療適正化委員会』を設置し、常に適切な医療が提供できるよう、職種の垣根を超えて自由に意見交換を行っています。地域の総合医療福祉センターとして、予防・治療・リハビリテーションの一貫した最新医療サービスを提供すべく職員一丸となって日々努力を続けています。