ひとプロジェクト 第28回【後編】多摩川病院/言語聴覚士 長山 素世子さん
多摩川病院
言語聴覚士
長山 素世子 さん
Nagayama Soyoko
STとして大事にする安全性と積極性
患者さんに少しでも前進してもらえるように
多摩川病院で言語聴覚士(ST)として働く長山さんの後編です。今回は、実際のSTのお仕事について迫りました。高次脳機能障害や、嚥下障害などにおける具体的なリハビリテーションについて、またSTとしてのやりがいなどを話していただいたほか、リーダーになって「守るべき存在」と思うようになった後輩スタッフたちへの想いや、仕事の教え方などもお聞きしています。ぜひご覧ください!
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病棟を横断し、デイケアでもリハビリテーションを行う
多岐に渡るSTの仕事
最初に入職したのはどちらの病院ですか。
この多摩川病院です。学校の同期の子が、このグループの緑成会病院に入っていたんですが、当時多摩川病院にSTが1人しかいなかったのでヘルプでも来ていて。私がちょうど職場を探していたので、「募集しているよ」と誘ってくれたんです。そこで迷わずに面接に行きました。
自分の中では決まってたんですか。
「ここだ!」って思っていたので、採用していただけて良かったです。
入ってからはどのような感じでしたか。
最初はグループの世田谷記念病院で研修を受けまして。多摩川病院に戻ってからは地域包括ケア病棟に配属されました。
現在はどのようなお仕事をされていますか。
回復期リハビリテーション病棟を担当しています。病棟の患者さんにリハビリテーションに入るほかに、医療療養病棟や地域包括ケア病棟にも入院患者さんの初期評価をしに行きます。他病棟のスタッフがお休みの日はフォローにも入りますし、できる人で全病棟を回しているような感じですね。あとはデイケアでもリハビリをしているのと、月に2回、グループのヴィラ町田にもリハビリをしに行っています。
施設の方にも行かれるんですね。
隔週で、利用者さんの食形態が適切かどうかの確認をしに行ったり、もう少し機能が良くできそうな方がいたら、良くするために行ったりもしています。
STさん同士はもちろん、PT・OTさん(※)とも協働して仕事されているわけですか。
もちろんです。1人の患者さんを、PTさんOTさんと一緒に見ているので。
※PT:理学療法士/OT:作業療法士各リハビリの進行状況はみんなで共有されて。
そうです。どういうことをやっていこうかっていうのも話し合って進めていますね。
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患者さん一人ひとりを注意深く観察しながら進める
STのリハビリテーション
今いらっしゃる病棟はどんな患者さんが多いですか。
高次脳機能障害、嚥下障害、構音障害の順で患者さんがいますね。
高次脳機能障害とは、どういったことですか。
けがや病気で脳に損傷を負って、記憶力や注意力に障害が残っている状態です。リハビリ時には、どういう障害かカテゴリにまず分けて、さらにどういった症状を呈しているかを注意深く調べて、患者さん一人ひとりの症状に合わせたリハビリを行っています。
具体的にどんなことをやるんでしょうか。
例えば、記憶に障害をお持ちの方だと、教材を使ったリハビリをしたり、会話をするなかで回想してもらったりっていうことをしますね。
やり方はそれぞれで変わるんですね。
特に失語症の方だと、どういう症状を呈しているかをしっかり見ないと、負荷の高すぎることを行っても効果が見られませんし、かなり気は使います。
どの程度喋れなくなられているかで、やることがかなり違うわけですね。
音声言語であれば「話す/聞く」、文字言語であれば「読む/書く」この4つがどのくらいのレベルでできるかという仮説をきっちり立てないと、全く違うアプローチをすることになってしまいますので。
嚥下障害ではどんなことをするんですか。
訓練できる方であれば、訓練して機能を上げていって3食とも口から食べられることを目指していくんですが、これに関しては運動療法なので、とにかく、嚥下に使うところを動かします。そこが高次脳と全然リハビリのアプローチが違うところですね。
PTさんがリハビリ時に、患者さんに足を動かしてもらうような要領で、舌を動かしてもらうようなイメージですか。
そうです、実際に使うところを動かしてもらいます。舌の準備運動として、舌を動かしたり口を動かしたりしながら、実際に安全性の確保ができるものを飲んだり食べたりしていただきます。
とろみのついたものなどですか。
それと、角度を変えることも大事です。
角度というのはどういったことですか。
体幹の角度です。普通に座っている時の角度というのが、実は一番むせやすくて。体を正面から見て、気道が手前にあって、その奥に食道があるんですね。そこで、角度を少し後ろに傾けると、気道が上、食道が下、っていう位置関係を作れるので、重力で食べ物が食道に落ちやすくなります。
飲み込む力が落ちていると、物理的にそういう状況を作ることが大事なんですね。
簡単にはいかないこともありますが、機能を向上させるために鍛え続けるしかないわけです。
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少しずつでも前進することが嬉しい
安全を確保しながらも、攻めのリハビリテーション
STとしてのやりがいはどういったことでしょうか。
例えば嚥下が一番わかりやすいんですが、マーゲンチューブ(※)が入って経管栄養の状態で入院された患者さんが、リハビリに取り組んだ結果、3食ご自分の口から、ご自分の手を使って食べられるようになったら、それはもう掛け値無しに嬉しいことですね。
※主に経管栄養などのために、鼻から胃に通すチューブ。リハビリの結果が目に見えるわけですからね。
それと、失語症で世界が周りと断絶されていた方が、「いや」とか「トイレ」とか、少しでも言えるようになったり、喋ることが怖くなくなったりとかした時も嬉しいですね。
少しでも前進できたっていうのが、やっぱりやりがいになると。
ご家族からの期待もかなり大きいと思います。もし歩くのが難しくても「せめて少しだけでも喋ってほしい」「口から食べられるようになってほしい」っていうご希望をいただくこともありますし。
コミュニケーションが取れるとか、自分の口で食べるって大きなことですよね。
QOL(※)の最後の砦とも言うべきところなのかもしれないですね。ただ、嚥下障害の訓練をした時、間違えて誤嚥させてしまわないか、かなり慎重になります。せっかく良くなりうる方に誤嚥性肺炎を起こさせてしまったら、それまでのリハビリで築き上げたものもゼロになってしまいます。
※患者さんの「生活の質」を意味する言葉。Quality of Lifeの略。どのお仕事もそうですが、責任が重大ですね。
なので、かなり慎重に取り組んでいます。安全性を最大限に確保した状態で、どれだけ攻めたリハビリが実施できるか。ご家族ともしっかり信頼関係を築けるように努めながら進めていますね。
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STは変わった人が多い?!
ちなみにSTさんはどういう方が多いですか。
よく「変わった人が多い」と言われます(笑)。
(笑)。実際どうなんでしょうか。
実際そうですね(笑)。
ご自身についてはどうですか?
どうなんでしょう、変わってるのかな…。
PTさんOTさんは、運動に関わってきて志す方が多いイメージがありますけど、STさんはどういった経緯で志されたかがイメージしづらいために、そう思われやすいのかもしれません。
「どうしてSTになったの?」っていうのはよく聞かれますね。
どういう方が向いているというのはありますか。
理論的に物事を考えたい人には向いているかもしれません。特に高次脳機能障害って目には見えないので、仮説に基づいて検証していかないといけないわけです。立てた仮説を「これは理論的じゃないから違う」って排除する作業を繰り返していく。そういうことをたくさんやるから変わってるのかもしれないですね(笑)。
(笑)。STになるにあたって大事なことはありますか。
全部に使えるわけじゃないんですけど、耳が良いことは大事ですね。患者さんの喋り方がおかしいときに「ベロがここの筋力が弱くてこうなってるんだろうな」っていうのがわかりやすいんです。構音評価ってとても細かくやるんですけど、耳の良さは役立ちます。これを活かせる仕事があるとは思っていませんでした(笑)。
予測がつきやすいんですね。耳がいいっていうのは今までどう生かしていたんですか。
英語を聞いて、どう発音してるかっていうのはすぐわかりましたね。舌がどういう風に動いているかっていうのがわかりましたので。それと、転校が多かったのですが、転校した翌日には、すぐそこの方言を喋れました。
すごい便利ですね!
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リーダーとして思う
後輩たちは「守るべき存在」新人のスタッフさんに仕事を教える時にはどのようなことを伝えますか。
まず第一に患者さんの安全確保ですね。その点については大事なので、特にしっかり教えています。
先ほど、誤嚥のお話もありましたしね。
それと、自分でしっかりと理屈を考えるようにしてほしいと伝えています。患者さんと接しながら、学校で勉強してきた知識を、点と点をつなげていくように実感した方が絶対に理解が進んでいくので。
あの時、授業で習ったのがこれだったのか、と気づけるわけですね。
知識については勉強すればカバーできることなので、とにかく目の前の患者さんを限られた時間内で精一杯みてほしいと伝えています。客観的事実を集めて記録して、考察として残す。そこができないと、全てのベクトルが外れていきますから。ただ、なるべく自分で考えてほしいと思っていますけど、求められればアドバイスもしますよ。意地悪な質問をするようなことはないです(笑)。
(笑)。今はSTのリーダーとして働かれているとお聞きしましたけど、どういう風な動き方をされていますか。
1年ほど前に任命いただきましたが、仕事としては、要は伝言係じゃないですけど、ほかの職種からSTに伝えたいことがあった場合に、まずは私が窓口として立って、伝えてもらうっていうのがあります。あとは会議に出たり、プリセプター(※)として後輩を担当しているので指導したり、STを全体的に見たり。シフトも作りますよ。
※新人スタッフに一定期間先輩スタッフがつき、マンツーマンで指導を行うこと。リーダーになってみて、どんなところが変わりましたか。
スタッフのことを「守るべき存在」って感じるようになりました。ほかの職種のスタッフさんとの調整が難しい時は私が間に入ることも多くなりましたし。それと、仕事を続けていくには、やりがいとともに、自分の生活を守ることも重要だと思っていて、体調管理とか家庭のことも大事にしてほしいと伝えています。最近、お子さんが生まれたばかりの男性スタッフもいるので、退勤時間になると「早く帰ってあげて」って言ってます(笑)。
いいことですね! 頼られそうです。
う〜ん、果たして私がリーダーでいいのか、っていう葛藤もすごくあります。でも頼ってもらえた時は良かったと思いますし、私で良ければ、やれることは全部やろうって思っています。
やっぱり長く働いてもらいたいですよね。
楽しく長く働いてもらえることが一番ですね。「この病院に入職して良かった」って思ってもらえたらいいなと。
長山さんのこれからの目標を教えてください。
どの職種もそうだと思いますが、STも一生勉強なので、これからも自分の仕事をブラッシュアップし続けていくしかないです。それと、学んだことをスタッフにも教えていきたいと。身につけたことを自分だけのものにしないで、お互いに共有できればと思っています。職業の垣根も超えて共有していけたらいいですね。
多摩川病院自体の底上げにもつながりますね。
そうですね。「これってこういうことだったんだ!」っていうことが増えると楽しいですし、やりがいもさらに出てくると思うので。自分のやってくることの意味もわかってきますしね。
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ゆったり過ごす優雅な休日
炊飯器はなくても大丈夫
お休みの日はどう過ごしていますか。
午前中は家事をして、午後からゆっくりします。早い時間から料理をし始めて、夕方ちょっと前くらいからお酒を飲みつつ、だらだらとずっと食べています。でも、必ず夜の7時までには食べ終わるようにしていますね。
ゆったりした休みの過ごし方ですね。夜の7時までというのは何かあるんですか。
消化のことと、次の日の仕事にお酒を残さないようにと考えてですね(笑)。
お酒はけっこう飲まれるのですか。
飲むのは好きではありますね。ただ、弱くなったと自分では思っているんですが、周りからは「それで弱いって言っちゃダメだよ」って言われるだろうなって思います(笑)。
まだまだ強いんですね(笑)。リハビリに限らず、病院スタッフで飲みに行くことは。
ありますよ! ソーシャルワーカーさんとかとも行きます。うちに来てくださったこともありますし。その時はラムチョップを焼いて振る舞いました。お店っぽいメニューを作るのが好きなんです。
いいですね〜。趣味はなんですか。
食べること飲むこと、あと排水溝の掃除です(笑)。ほっときがちなところを、常に掃除してキレイに保つのが好きです。
どんな食べ物が好きですか。
鮎ですかね。買ってきて家でも焼くんですよ。あとパクチーとかルッコラとか、クセのある香味野菜です。クセのあるチーズも好きです。
お酒に合うものがお好きなんですかね。
そうかもしれないです(笑)。
ご飯よりお酒が中心ですか。
確かにそうかもしれないです。うちには炊飯器がありませんから。
なるほど! 全然炊かないんですね。
どうしても食べたくなったら、お鍋で炊きます。それよりもたんぱく質と野菜が大事です。
健康的に聞こえますね。
その分お酒を飲みますし、どうでしょうかね…そっちで糖質を取っているのかもしれないです(笑)。
前編を読む

長山 素世子(ながやま そよこ)
【出身】石川県金沢市
【職種】言語聴覚士
【好きな食べ物】鮎、香味野菜、チーズ(クセの強いタイプ)
病院情報

東京都調布市国領町5-31-1
医療法人社団 大和会
多摩川病院
内科・循環器内科・整形外科・リハビリテーション科回復期リハビリテーション病棟、医療療養病棟、地域包括ケア病棟に機能分化し、慢性期疾患の患者さんの治療、早期在宅復帰を目的とした機能訓練を行います。 また、内科、整形外科、循環器内科の外来治療をご提供するほか、居宅サービス、訪問看護や、日常の機能回復訓練のためのデイサービス、デイケアを設置し、地域の患者さんの幸福な日常生活の維持・増進のために努力しています。