ひとプロジェクト【第5回・前編】平成横浜病院/高橋 ユエ先生
平成横浜病院
皮膚科医
高橋 ユエ 先生
Takahashi Yue
動機は怒り? 読書好きの少女が、皮膚科医を目指すまで
今回ご登場いただいたのは、平成横浜病院の皮膚科医、高橋ユエ先生です。フワッとした柔らかい雰囲気と物腰の中にも、強い芯を感じるお話しぶりが素敵な高橋先生。医師を志した理由は、その雰囲気とはギャップのある、ちょっと意外な理由からでした。根気強さが求められる皮膚科治療、患者さんとの接し方についても、その優しい人柄が伝わるお話が聞けました。
-
幼い頃から活字好き、
ルーツは文系ご出身はどちらですか。
生まれは京都です。今は京都市に合併されたんですけど、北山杉の産地として有名なところで。京都の市街地ではなく、北山の奥に入っていったところで生まれました。
割とのどかなところだったんでしょうか。
そう、全然電車も通りませんのでそこは。田んぼと山と川しかありませんでした。
幼いころはやんちゃに遊び回っていましたか。
いえいえ、大人しくて本好きな子でした。
そうだったんですね。勉強もお好きでしたか。
あの、理系じゃなかったんですよね。とにかく本が好きで、ともかく活字があれば読んでいるという感じでした。特に物語が好きで。
そこから理系に変わられたっていうのは、何かきっかけがあるんですか。
いや、理系に変わったつもりはないんですよ。ただお医者さんになりたかったので。中学生のころ将来の夢を考えて、ケーキ屋さんとかお花屋さんがいいなと思うなかに、お医者さんもいいなっていうのがあって。
-
無医村の話に憤慨、
医師を志す!
医師を目指すようになったのはなぜですか。
当時読んだ本の中に、岩手の無医村について書いたものがありました。戦後になってもずっと医者がいない村で、当時は本当に貧しくて、乳児死亡率が50%にもなるような状態だったそうです。ただ、村長さんの努力で最後には立派なお医者さんがいらっしゃって、乳児死亡率がゼロになったんです。
大変なご苦労だったでしょうね。ちなみになんというご本でしょうか。
えーっと、なんだったっけな(笑)。覚えてたんですけどね、言われたら一瞬で思い出せます(※)。
あとで調べておきますね(笑)。その本を読んで、活躍する医師の姿に憧れたんですか。
どっちかっていうと、怒りですね。
えっ、怒り?
岩手の大学病院から、その村に医師が派遣されてくるんですけど、ろくでもない医師が次々派遣されてくるんです。それが本当にひどくて。立派な先生のことよりむしろ「そんなひどい医者がいるのか」と、衝撃を受けました。
悪い方のインパクトが強かったんですね。
「もし自分ならそんな医者にはならないのに」と思ったのが、目指したきっかけですね。ただ実際になってみたら、なかなかいい医者にはなれない、ってことがわかりますけど(笑)。
なってみたら大変だったと(笑)。
でも、少なくともがんばって取り組むじゃないですか。何かこう、「私には何かできないのか」みたいな。義憤っていうんですかね。
-
皮膚科は面白い!
どうして皮膚科を目指されたんですか。
まずひとつとして、私が入った旭川医科大学の皮膚科の教授が、すごく面白かったんです。ジョークが面白いとかじゃなく、純粋に講義が楽しかったんですよ。
興味を持たせるように話していたというか。
そうなんです。私には真似できないので、お伝えできないんですけど(笑)。
ほかにも理由があったんですか。
昔のことなので正直に言いますけど、テスト対策の資料を作るときに、自分だけで全範囲はカバーできないので、みんなで科目ごとに手分けして作っていたんです(笑)。そのときに作ってもらった皮膚科の資料がすごく面白かったんですよね。それも大きかったと思います。
学ぶうちに皮膚科への興味が増していったんですね。
それに加えて、大学の同級生だった夫と、学生のうちに結婚、出産をしたので、働き方として皮膚科医が現実的だったということもありました。
そうだったんですね! 現実的というのは勤務形態がということですか。
勤務は基本的に日中で、時間がある程度読めますので。でも実際私にとって皮膚科は面白かったんで、むしろ良かったですね。
皮膚科の面白みというのはどういうところですか。
皮膚科は「絵合わせ」なんですよね。これはあくまで個人的な見解なんですが…。
どういうことですか?
皮膚科では、症状をパッと見て、すぐに何の疾患かわかることが大事なんですよね。
つまり、見た目である程度の診断をつけるということが。
「絵合わせ」なんです。患者さんが診察室に来られて「これは〇〇の症状だから、■■を処方します」っていうことがサッと言えるかっていう。やっぱり年期の入った先生方は、それが鮮やかなんですよね! そこに皮膚科の魅力を感じます。
なるほど、外来で的確な診断を下すためなのですね。
もちろん奥深い科なんですけど、まずは外来でちゃんとわからなければ、患者さんを困ったまま帰すことになってしまうので、そういう側面も大事になってくるんです。
-
皮膚科治療のスタートは、患者さんの話をじっくり聞くところから
診察ではどのように患者さんとコミュニケーションを取られるんでしょうか。
うちの看護師さんからは「先生は精神科のお医者さんなんじゃないか」って、よく言われます。
それほど患者さんの話をよく聞く、ということですか。
皮膚科の治療は生活全般、精神的なことも関わってくるので、そこも含めて、じっくり話を聞きます。もちろん立ち入れないこともありますし、時間の許す限りにはなっちゃうんですけど。例えばアトピーにしても、薬を出しただけでは治らないんです。
どのように聞かれるんですか。
初診では「アトピーがいつから始まったか」ということを中心に聞きます。小さいときからなのか、ずっと皮膚科に通っていたのか、どういうときに悪化するか…。アトピーとの付き合いは、多くの患者さんにとって長い歴史なんですね。
2回目からはまたお話が変わってくるんですか。
お仕事の詳細や、「生活でストレスはありますか」とか、少し立ち入ったことを聞いていきます。そういったことは初対面で聞くのが難しいので、まずは今までのお話を聞きながら、徐々に現在のことを伺うようにしています。
状態が悪化するには、必ず生活の中に要因があるんでしょうか。
夜寝ているか、ちゃんとご飯を食べているか、などはとても大事です。みなさん初めは「早くどうにかしてほしい」「なんで治らないんだ」とおっしゃるんですが、お話を聞くうちに「夜勤がある」「子育てで忙しい」など、事情がわかってきて、それが要因だとお話しすると、ご自身で「やっぱりそれか」と、理解されるんです。実はみなさんわかってはいるんですけど、ここに来て確認するというか。でも、それで納得できればいいんです。
治療に向けてどういう話をされるんですか。
「必ず通って」と伝えます。それで通院しているうちに、不思議とある程度症状は落ち着いてくるんです。
通うことが大事なんですね。
「通う」という行為は、「治療のために何かを諦めて時間を作る」っていうことです。治すためには、こうやっていくしかないっていう、心の準備ができることなんですよね。そうなるまで通い続けてもらうことが大切です。
-
症状がひどくても、
諦めず、生活ができるレベルを目指すお話を聞いていると、治す側も患者さんも、とても根気が必要な印象を受けます。
はい。でも初診だけ来て二度と来られない患者さんもいます。やっぱり「行ったらすぐ治る」っていうイメージがあるのかと思います。
私自身も「すぐどうにかしてほしい」と思って皮膚科に行ったことがあるので、気持ちはわかります…。ただ、症状が出てすぐ行っておけば良かったのかな、とも思いました。
本当はそれが良いです。でもやっぱり皮膚科の症状だと、みなさんよっぽどじゃないと来ないっていう面はありますよね。自力で治せないときに来るところなのかもしれないと思っています、最近は。だから私がいるんであって。
では、最後の砦として。
そうですね。治療についても「必ずこれをやってね」と伝えるんですけど、必ずしも全員が続けられるわけではない。それでも「がんばって」と言い続けます。とにかく、こじらせちゃいけないので。
患者さんには、諦めずに治療に取り組んでもらわないといけない。
それは本当にお伝えしたいですよね。症状がひどい患者さんにも「今あるこの痒みを、『これくらいなら一生付き合っていける』っていうレベルになるように目指そう」と繰り返しお話します。生活してくためには、必ず付き合えるようにならなければいけないので。
-
後編を読む

平成横浜病院 皮膚科医 高橋 ユエ(たかはし ゆえ)
【出身】京都府京都市
【資格】皮膚科医
【趣味】皮膚科(皮膚科は楽しい)
【好きな食べ物】あんこ系、芋・栗・南瓜系
【尊敬する人物】私を育ててくれた横浜市立大学付属病院の5人の先生