dummy

EN

看取りのできるまちへ。徳島・神山町ではじまる在宅医療プロジェクトが求める医師・看護師とは?

取り組み2023.09.02
取り組み

左から、平成医療福祉グループ介護福祉事業部 部長 前川沙緒里さん、ほっちのロッヂ共同代表・福祉環境設計士 藤岡聡子さん、平成医療福祉グループ代表 武久敬洋さん、同グループ理学療法士 安東陸人さん

徳島駅から車で約40分。神山町は、清流・鮎喰川沿いに開いた山あいにある、人口約5000人小さな過疎のまちです。1999年からはじまった神山アーティスト・イン・レジデンス、都会のIT企業のサテライトオフィス設立などにより、移り住む人が多いまちとして知られています。

しかし、一方では高齢化率が高く、全国平均29.1%に対して神山町は50%を超えています*。看取りのための医療体制が整っていないため、町外の病院などで最期のときを迎えなければならないという現状もあります。

「このまちに必要な最後のピースのひとつは、看取りのできる在宅医療ではないか」。

と考えたのは、平成医療福祉グループ代表・武久敬洋さん。軽井沢で「ケアの文化拠点」を育むほっちのロッヂの運営・プロデュースを担う藤岡聡子さんらとともに、「神山在宅医療プロジェクト(仮称)」を立ち上げようとしています。

今回は、武久さんと藤岡さんにインタビューを行い、彼らが目指す医療のあり方、「神山在宅医療プロジェクト(仮称)」をともに担う仲間の募集についてお話を聞かせていただきました。

*総務省統計局「統計トピックス132 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」令和4年9月18日神山町役場「神山町 介護保険事業計画 高齢者保健福祉計画」令和3(2021)年度~令和5(2023)年度(第8期)

武久敬洋さん(たけひさ・たかひろ)

平成医療福祉グループ代表。徳島県神山町在住。3人の子どもの父。2010年、平成医療福祉グループへ入職。以降、病院や施設の立ち上げなどに関わりながら、グループの医療・福祉の質向上に取り組む。2022年、平成医療福祉グループ代表に就任。共同編集した著書に『慢性期医療のすべて』(2017 メジカルビュー社)がある。

藤岡聡子さん(ふじおか・さとこ)

福祉環境設計士。株式会社ReDo代表取締役。医療法人社団オレンジ副代表。長野県軽井沢町に暮らし、「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」共同代表を務める。ほっちのロッヂは2022年「第10回アジア太平洋地域・高齢者ケアイノベーションアワード2022」Social Engagement program 部門で日本初のグランプリ受賞。共著に『ケアとまちづくり、ときどきアート(2020中外医学社)』『社会的処方(2019学芸出版社)』。

神山に住んで、はじめて自分のまちへの愛着を感じた

平成医療福祉グループのはじまりは、1984年に前代表・武久洋三氏が徳島市で開院した博愛記念病院。その後、回復期・慢性期医療を専門とする医療・福祉グループとして、徳島、関西、関東へと100以上の病院・介護施設を展開してきました。

「こんなに大きな医療福祉グループが、なぜ神山のような小さなまちで在宅医療プロジェクトを?」と不思議に思う人もいるでしょう。その背景には、同グループ代表の武久さんの思いが深く関わっています。武久さんは、娘さんのオルタナティブスクール「森の学校・みっけ」への転入を機に、2022年春に家族で神山に移り住みました。

武久さん「今まで、生まれ育った徳島も、長く暮らした東京も好きにはなれなかったんです。ところが神山に来てから、生まれて初めて住んでいる土地に対する愛着がわきました。東京の小学校ではつらそうにしていた娘が、みっけに通いはじめてものすごく生き生きしていますし、このまちのために何かしたいと思うようになりました」。

神山町は、2016年から地方創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」に基づいて、「すまいづくり」「ひとづくり(教育)」「仕事づくり」などの領域で、さまざまな施策を実行しています。しかし、医療の分野に目を向けると「足りないピースがあるのではないか」と武久さんは考えました。たとえば、今の神山には町内で看取りをする医療体制がありません。

武久さん「今の神山では、町内で生まれることも死ぬこともできません。また、障がいや重度の認知症のために、一定以上のサポートが必要になると町外に出て暮らさなければいけない。まちの人たちは、それを“あたりまえ”だと思っている状況があるのではないかと思いました」。

もうひとつ、武久さんには地域での在宅医療に関心を寄せる理由がありました。それは、医師としての武久さんのあり方に深く関わっています。

患者さんが「その人らしく」いられる医療を

武久さんが平成医療グループに入職したのは13年前のこと。それ以来、少しずつ病院や施設の改革を進めてきました。たとえば、道具や薬剤を用いて一時的に患者さんの身体を拘束し、その運動を抑制する「身体抑制」。緊急やむをえないと判断されたときに行われていますが、患者さんに精神的苦痛を与え、また身体能力の低下を招くなどの問題が指摘されています。武久さんは、10年以上をかけてグループの病院・施設での身体抑制をゼロに近づけてきました。

武久さん「患者さんは、その人らしさを殺しながら病院のルールに従わないと“困った患者”にされてしまいます。身体抑制は、医療者都合でつくられた病院のルールから生まれたもののひとつ。病院独自の常識やルールを見直さないといけないと思っています。一方で、地域医療における在宅医療は、患者さんの生活の場に医療者が訪問するので、スタート地点がまったく違います。これからは、むしろ在宅医療で実現できている要素を病院側に取り戻していく動きが必要だと考えています」。

大きな医療グループの跡取りに生まれたけれど、「医師としては在宅医療をやりたいタイプ」という武久さん。軽井沢町で在宅医療に取り組む「ほっちのロッヂ」を訪問しました。藤岡さんは、初めて会う武久さんにどんな印象をもったのでしょうか?

藤岡さん「100以上の病院や介護施設を展開するグループの代表というよりも、医師として人間性をもって医療のあり方を考え、病院を改革してきた人なんだなと感じました」

藤岡さんは、「ほっちのロッヂ」を「症状や状態、年齢じゃなくて、好きなことをする仲間として出会おう」を合言葉に掲げて「ケアの拠点」を育む「大きな台所のあるところ」と表現しています。まさに、“患者”ではなくその人自身として、仲間として出会い、必要なケアを提供する「ほっちのロッヂ」は、武久さんにとって「自分がやりたいことを実現している場所」だったのでした。

こうして、徳島生まれの平成医療福祉グループ代表の武久さんと全国から注目される軽井沢の「ほっちのロッヂ」(医療法人社団オレンジ)の藤岡さんが協力しあう、「神山在宅医療プロジェクト(仮称)」がはじまったのです。

「ほっちのロッヂ」。地名である発地(ほっち)にある”森小屋”として、診療所でありながらあらゆる状態の人が出会うユニークさから、国内外で多数の受賞並びにワシントンポストに掲載されるなど注目を集めている。2020年4月開業。

看取りのときまで安心して暮らせるまちに

実は、藤岡さんは徳島生まれ。亡くなられたお父さんは、藤岡さんが生まれた年に、三好市の中山間地域で診療所を開いた医師でした。

藤岡さん「中山間地域の診療所は、心のどこかに原風景としてありましたし、神山には友人も暮らしていていろんなご縁を感じたのはとても大きかったです。今は二ヶ月に一度神山に来て、どんなまちかを知ることから、この地域に診療所のようなものをつくるプロジェクトに関わっています」。

今「神山在宅医療プロジェクト(仮称)」では、2024年春に在宅医療の拠点をつくる準備が進んでいます。

現時点での在宅医療の拠点イメージ図

武久さん「神山にすでにある医療機能の隙間を埋めていきたいと考えているんです。調子が悪くなって町外の病院に入院した後、自宅に戻りたい思いをもちながら亡くなるケースもあると思いますので、自宅で過ごしたい人の願いを叶えられるように、訪問看護など周辺のサービスも整備しようと考えています。また、ふだんから医療的に介入できていたら、孤独死のようなケースも減らせると思います」。

神山では、地域と関わりの深い地元校・県立城西高校神山校があり、2022年春には神山まるごと高専が新たに開校。全国の大学生がインターンに訪れるなど、学生たちの姿も見かけます。過疎のまちでありながら、これから5年をかけて15〜21歳人口が約200人増えることが予測されています。

藤岡さん「10代の子たちは、思春期ならではの可能性と、同時に問題を抱えやすい時期です。もしかすると思わぬ妊娠もあるかもしれませんし、LGBTQの当事者として生きづらさを感じるかもしれません。10代の子たちに対するケアが不足するのではないかと思います。彼ら・彼女らがしんどい気持ちを吐き出せる場所でもありたいなと思っています」。

藤岡さんが「ほっちのロッヂ」をはじめたとき、生まれながらに医療的なケアが必要な子どもや、重い障がいがある子どもが生まれた家族は、軽井沢町を出てしまう状況がありました。「ほっちのロッヂ」は、病児保育室(親も子も、自分の回復力を信じて過ごせる場所)や通所介護・児童発達支援。放課後等デイサービス(大きな台所、本棚、アトリエなどがある、町の人の居場所の)を兼ね備えることで、自分のまちで暮らし続ける選択肢を差し出しています。

「神山でも、どんな病気や障がいがありながらも暮らしつづけられるようにしたい」と藤岡さん。将来的には、ターミナルケアを受けられる家や、さまざまな年齢、職業の人たちと医療的なケアを必要な人たちが一緒に暮らす家など、小さな拠点をつなげていくことも構想しているそうです。

「病気だけ」ではなく「人」を診たい人に来てほしい

現在、「神山在宅医療プロジェクト(仮称)」では、在宅医療に関わる医師と看護師を募集しています。おふたりに「仲間に迎えたい人のイメージ」を聞きました。

武久さん「今の医師は病気の部分しか見ていないことが多いんです。たとえば、『膝が痛い』と言われたら、整形外科医は湿布を貼るか、注射を打つか、手術をするかしか言ってくれない。“病気を診る”という観点では、治療ガイドラインに沿った治療という“正解”がありますが、 “人を診る”となると、治療ガイドラインはひとつの方法でしかありません。その人が少しでも幸せに近づくために無数の方法があるなかで、何ができるだろうと日々考えながらやっていく必要があります。その無数の選択肢を積極的に考えられるのが在宅医療です。病気ではなく人全体を診たい人に向いていると思います」。

藤岡さん「人は相手によって態度も言葉も変えるだろうし、その日の気分でも変化するものです。『今、自分が対峙している人はあらゆる側面をもっている』という前提で考えられるかどうかだと思っていて。表現として出てくる『お腹が痛い』という症状は、たぶんお薬を処方すれば治ります。ただ、その人が翌週も来て『お腹が痛い』と訴えるなら、どういう関わりをしたらその症状を立体的に見ることができるのかを、仲間と一緒にクリエイティブに考えたい人に来てほしいです」。

真剣に語り合い、たくさん笑える職場になりそう。

病院に来るときは“患者さん”としての面だけがクローズアップされますが、自宅に訪ねていくときは“その人自身”が見えてきます。神山というまちに暮らす、一人ひとりと出会いながら、医療や看護の知識と技術をもって関わっていく。あらかじめ決められた正解に当てはめるのではなく、一回ごとに「より幸せになるにはどうしたらいいか」を関わりのなかに探していく。その仕事はきっと、藤岡さんが言うようにとてもクリエイティブなものだと思います。

神山は自然が豊かで、人が穏やかで、新しいチャレンジを受け入れる風通しのいいまちです。このまちでの暮らしに愛着をもちながら、医師として、看護師として関わってみたいと思われるなら、9月に開かれるオンライン説明会に参加してください。また、まちのようすを実際に見聞きして、プロジェクトメンバーと一緒に過ごす「神山町体験2days」も予定しています。神山で、あなたの人生を大きく変える扉を開いてみませんか?

(取材・執筆:杉本恭子、撮影:生津勝隆)

募集要項

  • 医師資格保持の方:若干名
  • 看護師資格保持の方:若干名
  • 年齢、経験、性別一切不問です。
  • 徳島県神山町あるいは近隣でのお住まいが必要となります。

この求人に関心を寄せていただいた方は、下記のオンライン説明会、現地ツアー(1泊2日)にご参加いただくことが必要です。まずは、オンライン説明会にご参加ください。

神山在宅医療プロジェクト(仮称)オンライン説明会

  • 1回目:9/12(火)20時~21時
  • 2回目:9/20(水)20時~21時

現地ツアー(1泊2日)

  • 1回目:9/30(土)13時〜10/1(日)13時ごろ解散
  • 2回目:10/28(土)13時〜10/29(日)13時ごろ解散

※上記以外の日程調整は随時行います。

応募方法

以下のフォームよりオンライン説明会にお申し込みください。求人に関するご質問もこちらで受け付けております。

オンライン説明会申込フォーム