目標とするものと、たどり着く場所のあいだで知ったもの/岸和田平成病院/松本 和子先生

目標とするものと、たどり着く場所のあいだで知ったもの
大阪府にある岸和田平成病院の副院長、松本和子先生。
臨床医と研究医、ふたつの経験をされている、しなやかな先生の魅力をご紹介します。
将来をおぼろげに考えた末で決めた目標
ご出身はどちらですか。
山口県です。生まれも育ちも山口県です。
もうすぐ夏季休暇の時期ですが帰省のご予定はありますか(※取材時は7月)。
いえ、病院にはお盆休みのような制度がないので、この時期に帰省する習慣ってないんです。まとまった休みが取れると、旅行に出かけることもありますし。ゴールデンウィークもそうだったし。
どちらか、旅行に行かれましたか。
タイに行ってきました。暑かった! 本当に暑くて(笑)。歴史が好きで世界遺産のアユタヤ遺跡やワット・ポーなどの観光名所をいくつか巡ったのですが、どこに行っても暑かったです。5月だったのに、猛暑でしたよ。
では、さっそくですが、先生が医師を目指したきっかけを教えてください。
私、すごく影響を受けた体験とか…そういうことがないんです。昔から健康だったし、医者家系でもないですし。振り返ってみると、文系的な発想よりは理系だったかな。
ほかの職業に憧れたことなどもありませんでしたか。
なかったですね。イメージしやすかったんでしょうね、医師っていう職業が。学部もたくさんあって、就職先もたくさんある環境よりも、医学部に進めば医師になる道だけかなと思って、その道を歩んでいる感じですね。

全体を診れる医師を目指して、内科医に
内科医になろうと思ったきっかけを教えていただけますか。
医学部に入ってから勉強することって、内科的なことが中心なんですね。私が研修医だった頃は、まだ今のようなローテート制が導入されていなくて、全部の診療科をまわることはありませんでした。だから、診療のイメージがしやすかった内科医が身近だったと思います。
ほかの診療科に魅力を感じていたことはありましたか。
あまりなかったですね。「全体を診る診療科がいいな」って考えていると、内科は全体を診る診療が基本だし、なんとなく想像できました。当時から内科らしい掘り下げていく診療が好きだったのかもしれないですね。
その魅力をもう少し教えていただけますか。
内科の外来には本当にいろんな病気の方が来院されて、主訴と呼ばれる「患者さんの訴え」がとても広範囲な場合が多いんです。ほかの診療科も広範囲と言えばそうなんですが、消化器も呼吸器も内科領域ですし、腎臓も内科領域じゃないですか。内臓疾患と呼ばれるものって、内科の診療範囲なんですよね。そういう難しい部分が多いところも含めて良かったんだと思います。
実際に内科医になられてから驚かれたことはありましたか。
当然ですけど、机上で覚えたことでは到底足りない、と思いました。同じことの繰り返しになっちゃいますが、領域が広いから豊富な経験や知識が求められますよね。
最初はどんな病院で勤務されていたのでしょうか。
医局人事で急性期病院に勤務していました。新人の大変さはそこで体験しましたが、ずっと決めていたことがあったので、その目標に向かって仕事をしていました。
それは、どんな目標ですか。
実は、医学部の頃から「研究がしたい」って心に決めていたんです。
え、医学部の時代からですか。
そうなんです(笑)。
ずっと憧れ続けていた「未来の医療」へ進む
学生の頃からずっと研究がしたかったんですか。
そうなんです。でも、大学院入学が卒業後5年目っていう決まりが医局の中にあったので、5年間は臨床医をしていました。誤解されそうなんですけど、嫌だなぁと思いながら働いていたわけじゃないですよ(笑)。
5年も思い続けるほど、何か研究したい分野があったのですか。
特別そういった「この研究がしたい」っていうタイプじゃなくて、学問としてのサイエンスが好きなんです。真実を確定させていく過程とか追求していく感じが好きで「いつか研究したいな」って思ってました。
念願の研究医になって、何の研究をされたのでしょうか。
はじめは、大学院生としてのスタートだったから学生らしく、ふわっとしてました。私の担当だった先生が、ゲノムの研究をされていたので、私も同じようにその研究をはじめました。
ゲノムの研究とは、どんな内容でしょうか。
抗がん剤の効き目がどうか、分子標的薬(※)についてさまざまな視点から分析していました。7年ぐらい研究をしていたので、論文発表や雑誌掲載とか、研究者らしいこともやってきました。充実した時間だったなと思っています。
※分子標的薬…体内の特定の分子を狙い撃ち、その機能を抑えることによって安全で有効的に病気を治療する目的で開発された薬。
8年目は研究しなかったんですね。
区切りがいいときに終えないと、研究は永遠に続きますからね。あまりに臨床から離れすぎるとちょっと不安にもなりますから、ちょうどいい期間かなと思って。

ひとつの現場では、ひとつのことだけに
臨床の現場に戻られても研究は続けていますか。
いえ、全くしていないんです。臨床の先生でも、診療などの合間で時間を作って研究する先生はいらっしゃるんですよ。研究を続けようと思えば、できないことは…ないんですよ。
難しい環境だったのでしょうか。
うーん。研究を続ける先生がいらっしゃることは知ってたんですが、私は臨床の現場で働くことに重点を置いて戻ったので、戻ったからには研究するのは止めようって決めてました。
何か大きな理由があったのでしょうか。
研究の現場ではすごい早さで大きく進化するんですが、医療現場もそうなので、臨床の現場に重点を置こうって思ったんです。

知らなかった、慢性期医療の世界
岸和田平成病院に入職されたのはいつ頃でしょうか。
研究から臨床に戻った直後は、別の勤務先で感覚を戻していました。そのあと、2013年に入職しました。
病院の印象、平成医療福祉グループの印象はいかがでしたか。
病院は、若いスタッフが多いなぁと。今も若いスタッフが多いです。それから、病院もグループもにぎやかだなぁと思いました(笑)。病院のスタッフだけじゃなくて、ほかの施設スタッフも集まるので、もう…人数の多さに圧倒されました。
慢性期医療の印象はいかがでしたか。
びっくりしました。あ、これは感動のほうの驚きで(笑)。ほかをあまり知らないから偏った感想なのかもしれませんが、驚きました。
どんなところに驚かれたのでしょうか。
一番印象的だったのは、カンファレンスなんです。以前勤務していた、急性期病院のカンファレンスは、医師だけで話し合って、その中で決定されていくものでした。この病院に来てカンファレンスに参加したら、話し合う場所には各部署のスタッフがいて、意見が飛び交っている姿がとても印象的でした。
先生にとっては珍しい光景だったのでしょうか。
かなり。医師だけで決めたことを伝達するんじゃなくて、実際に患者さんを診ているメンバーで話し合える環境は感動でしたね。
ほかに印象的だったことはありますか。
印象的というか、私は、今までに慢性期医療に携わったことがなかったので細かい仕組みを知らなかったんですね。ここに来てからスタッフに教えてもらうことが多かったです。スタッフとの距離も近いので、難しい制度の仕組みも詳細まで把握しているスタッフにすぐ聞けるのは、頼もしい存在でした。今も頼りにしています。

継続するために、いつでも話し合いを
先生から見る、岸和田平成病院はどんな病院ですか。
病室が149床あるんですけど、半分近くが個室なんです。この個室の多さに驚かれる方が多いですね。もうひとつは、在宅復帰を目的にしている病院なので、在宅ケアも取り組んでいます。ただ、自宅に帰ってから病院側がサポートできる範囲は限られてしまうので、病院にいるときにできる範囲を探って、少しでも継続的にサポートができる方法をスタッフたちとよく話し合っています。
副院長としての割合が多い業務はありますか。
うーん…会議かなぁ。院内の委員会とか会議から、院長の代理で出席することが多い泉州エリアの地域連携パスの会議があったり、地域交流に出向いたり感染対策の話し合いに参加しています。代理がメインですよ、あくまでも(笑)。当院は、診療本部長の井川先生がコーディネーターをされている大阪緊急連携ネットワークにも参加してるので、代理出席することがあるかな。ほかは、そんなに特別な仕事が思い浮かばないな。
連携するなかで、改めて感じることなどはありますか。
制度改正が定期的にあるので、どこが何で変わったのか、この病院は該当するのか「ちゃんとついていかないと」っていう認識をいつも持っています。
「ついていかないと」という捉え方なんですね。
そうですね。私自身が調べて咀嚼するよりも、そのことに詳しいスタッフがいれば、素直に質問しようって思います。スタッフの情報把握のスピードには敵わないこともあるので、そのときは質問して教えてもらおうって思いますね。
「違いも含めて、意見を聞きたい」という考え
人材育成を考える立場として、「魅力的な人」ってどんな方でしょうか。
すぐに思いつくのは、前向きで明るい人が増えてくれるといいなと思います。
ほかに思いつくことや理想はありますか。
経験が多彩な方も魅力的ですね。今は、社会人になってからキャリアチェンジされる方も多いですから、医療とは全く別の職業だった人がチームの中に入ったら刺激になりそうです。私もそうですけど、ずっと医療業界しか知らない医療者も多いので、いろんな感覚や発想があると多角的な考えが生まれそうですよね。
意見を出し合える環境だからこそ、という感じでしょうか。
そうですね。今持っている資格のさらに上を取ろうとか、新しい資格取得に奮闘されるのも素敵だと思います。それを取ることで、視野が広がれば新しい発想が見つかりそうですもんね。だた、どんな人でもやっぱり、前向きな人がいいな。

意外? 即決できないほど、悩んだもの
では最後に、恒例のベタな質問として好きな食べ物を教えていただけますか。
え、どうしよう。すぐに浮かばない。嫌いな食べ物は、すぐに思いついたけど。
あ、では嫌いな食べものを先に(笑)。
にんじんとグリンピースの色がちょっと苦手で。あと、体質的に鰻が合わないかなぁ。子どもみたいな発言ですね。うーん、好きな食べ物…。
5月に行かれた、旅行先のタイ料理はいかがでしたか。
グリーンカレーとかおいしいなって思って食べてました。香草やスパイシーな料理も好きなんですが…。
すごい感動した食べものはありますか。
どうしよう、これっていうものがないかも。あ、シャインマスカット! これがいいな。これは感動だったので。
緑がとっても鮮やかなぶどうですよね。
そうです。すごく甘くて、種もなくて皮ごと食べられるじゃないですか。ぶどう好きなんですけど、大粒のものは皮を剥くのがけっこう手間じゃないですか。だから、皮ごと食べられるシャインマスカットを知って、感動でした。よかったぁ〜ちゃんと答えられた(笑)。
プロフィール

岸和田平成病院
松本 和子
まつもと かずこ
【出身】山口県
【専門】内科
【資格】日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会総合内科専門医
【趣味】映画鑑賞、ショッピング
【好きな食べ物】シャインマスカット