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患者がベッドにいない病院

廃用症候群2023.12.14

「入院生活は、ベッドで安静に過ごすもの」というイメージはいまだ強い。

しかし、平成医療福祉グループでは、日中はできるだけベッドから離れて過ごすように患者さんに促す「離床」に取り組んでいるという。長期にわたる安静状態による身体・精神機能の障害「廃用症候群」を防ぐためだ。今回は、博愛記念病院(徳島市)の離床の取り組みにフォーカスを当て、患者さんと彼らの離床を支える病棟スタッフの日常を撮影した。(写真・文:生津勝隆)

パジャマを着替えて日常を送る

博愛記念病院は、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、 医療療養病棟、障害者施設等病棟の4つの病棟がある。入院している患者さんの約7割は、急性期の治療を終えたのちに元の生活に戻るためのサポートを必要する人たちだ。とりわけ廃用症候群の進行が早いとされる高齢者の方たちも多いため、入院時から「退院後の日常生活」を意識した離床の取り組みが行われている。

ほぼ毎日お見舞いにくる息子さんも一緒にリハビリテーションのひと時を過ごす
御年102歳になる患者さんには、暮らしの楽しみを感じてもらえるように心がけている。この日は天気が良く、窓から注ぐ西陽が暖かかった。窓際の植木鉢に水をやりながら、ゆっくりと身体を動かす
食堂でみんなと一緒に食事することは、患者さんの心のケアにもつながっている。実際に、病室でひとりで食べていたときより、食べる量が増える患者さんがたくさんいるという。また、体を起こし足を下ろして食べることによって、誤嚥リスクも低下する
リビングルームで、思い思いの時間を過ごす。食事の合間や就寝時間の前など、うつらうつらしてしまいがちな時間帯も、患者さんがベッドから離れやすくなる工夫をしている

陽射しの明るい部屋でリハビリテーションを

博愛記念病院の総合リハビリテーションセンターは天井が高く開放的だ。大きな窓からは暖かい陽射しが降り注ぎ、リハビリテーションを行う人々の姿にも明るい希望が感じられた。
数ヶ月単位のリハビリテーションを経て、徐々に身体の機能が回復するといよいよ退院の時を迎える。嬉しい気持ちの反面、今まで通りの生活に戻ることに対する不安もあるに違いない。退院前には、自宅での日常動作を確認するリハビリテーションも提供されている。

各種療法士や管理栄養士、介護福祉士など、あらゆる職種が連携して、離床を通して「患者さんをよくする」という同じ目標に取り組んでいる。療法士の控え室では、電子カルテ上での情報共有だけでなく、ちょっとした気づきを報告し合う会話が絶えない
患者さんを迎えに行き、リハビリテーションに向かう
窓が大きくとられ、明るく開放的な博愛記念病院の総合リハビリテーションセンター
元の暮らしに戻るための、第一歩を踏み出す。リハビリテーションによって正常に動いていた筋肉と関節の動きを、もう一度身体に覚えさせていく
日々、回復に向かう成果を実感するからだろうか、患者さんたちのリハビリテーションに取り組む姿勢も真剣そのもの
玄関からリビング、キッチンまで一般住宅を再現するADL訓練室*。退院が近い患者さんは、ここで自宅生活に戻ることを想定したリハビリテーションを実施する。この日は「前日に料理した昼食の後片付けをする訓練」が行われていた(*ADL:Activities of daily living、日常生活動作)
転倒の危険性や心臓への負担、血圧の上昇など、「起きる」ことに伴うリスクに対する配慮は欠かせない。リハビリテーションの合間に行われる血圧と心拍数のチェックをするときも、「今日はいいお天気ですね」「お子さんはどうされていますか」となごやかな会話が交わされていた
リハビリテーションを終え、しっかりとした足取りで病室まで戻る患者さん。作業療法士は敢えて手は貸さず、患者さん自身が歩行器だけで歩けるように促していた。廊下には、歩行中に休める椅子も用意されていた

手のぬくもりと諦めないケア

入院している患者さんのなかには、重度の疾患で身体を動かせない人や、ベッドから起きるには介助が必要な人、あるいは認知症のある人たちもいて、それぞれに合わせた離床のあり方が模索されている。重篤な患者さんほど寝たきり状態による廃用症候群の進行は早い。身体機能を維持・回復するにはどうしたらよいか。病棟スタッフの連携による諦めないケアが続く。

重度の障害を負った方や認知症を患っている方など患者さんの状態はさまざま。重度の疾患で身体を動かせない患者さんにも、できるだけ「寝たきり」にさせないように離床を促している
少しでも元の身体の動きを取り戻せるように、患者さんの筋肉と関節にアプローチする理学療法士
発声をしやすい身体に整えるために顔の筋肉もほぐす
リハビリテーションのペースや内容は、患者さんが退院後に過ごす暮らしに合わせて考えられている
認知症の兆候を検査している途中、患者さんの手を取る言語療法士
リハビリテーションから病室に戻る道すがら、廊下の窓から見える景色に立ち止まる。眉山を指差し、思い出話に花が咲くひととき

プロフィール

フォトグラファー

フォトグラファー

生津勝隆

なまづ・まさたか

東京都出身。2015年より徳島県神山町在住。ミズーリ州立大学コロンビア校にてジャーナリズムを修める。以後住んだ先々で、その場所の文化と伝統に興味を持ちながら制作を行っている。