ひとプロジェクト【第13回・後編】世田谷記念病院 看護師/ビトゥンマークステフェンメッカロスさん
お母さんと進める「プロジェクト」
家族への思いと、患者さんからの気持ちがモチベーション
世田谷記念病院、マークさんの後編です。後編では、実は直前で自信をなくしていたという国家試験のこと、さらに、お母さんと進める、ある「プロジェクト」についてもお聞きしています。日本でつい食べすぎてしまったある食べ物の話も飛び出しました。
前編に引き続き、マークさんをよく知る世田谷記念病院 榎並看護部副部長も同席です。ぜひご覧ください!
みんなで大喜び、2回目の試験で念願の合格
―国家試験の勉強はどのように進めていったんですか。
元々はフィリピンで看護師になる時に勉強していたので、あとは日本とのやり方の違いを覚えていくという感じでした。
―フィリピンで身につけた基本を元に、日本でのやり方を覚えていかれたんですね。けっこう違うものなんですか。
違いましたね。薬の名前や病気の名前、治療法とかを学び直しました。
―周りのスタッフのサポートはありましたか。
わからないことは聞いて教えてもらってましたね。今もわからないことがあるとすぐ聞いてます。
―2回目の試験のときは、自信はありましたか。
自信はあったんですけど、実際にテストを見た時は「やばいな」と思いました(笑)。
―急に自信がなくなったんですか(笑)。
思ったより難しかったんです。午前の試験が本当に難しかったから、「仕方ない、また来年だな」って思ってました。
―午後の試験の方がよくできたんですね。
午後は午前よりちゃんとできたと思いました。午前の試験後は何回もトイレに行って、少しお祈りして、っていうことを繰り返して。「このままだったら受からない…」って思いながらお祈りしてました。
―じゃあ結果が出るまでけっこうドキドキだったんじゃないですか。
ドキドキしましたね〜!
―周りにはなんて言われていました。
「大丈夫、合格できるよ!」って言ってくれる人もいれば、冗談で「じゃあまた来年だね」って言われたり(笑)。
(榎並) でも自己採点をしたら、受かるっていうのがわかったんですよ。だから私たちはもう「マーク合格だ! やった!」って(笑)。
―みんなで喜んだんですね。やっぱり嬉しかったですか。
実際にちゃんと結果が出た時は嬉しかったですね。
―家族に報告もされましたか。
はい、仕事の後にすぐにお母さんに電話して「合格しました」って伝えました。
―大変だったとき、心の支えは何でしたか。
大変な時は家族に電話して、困っていることを相談していました。友達と出かけるのも気分転換になりました。あとは教会に行ってお祈りもしました。


看護師として働きながらも、常に勉強、勉強
―実際に4月から看護師の仕事が始まって、感想はいかがですか。
やはりフィリピンのやり方と違うことが多いので、毎日が勉強です。例えばフィリピンで患者さんのバイタルサインを測るのは、看護師ではなく介護士です。それと、フィリピンでは、日本のように1人の患者さんを1人の看護師が受け持つプライマリーではなく、機能別で仕事をするんです。
(榎並) 例えば「マークは点滴係ね」ってなったら、点滴だけを担当するっていうことですね。
はい、あとは記録の方法なんかも違います。
―なるほど、じゃあこの病院のやり方に慣れていっているというか。
少しだけ慣れました。でもまだまだです。
―榎並さんから見たマークさんはいかがですか。
(榎並) 実際マークとは病棟が違うので一緒に働いているわけではないんですけど、話を聞く限り特に問題はないと思います。本当に周囲からの評価が高いですね。やっぱり真面目なんですよ。
―やっぱり常に勉強し続けているんですね。
そうですね。今住んでいる寮は3階に勉強室がありますので、いつもそこで勉強しています。
お母さんと約束した「プロジェクト」
―最近、フィリピンには帰られましたか。
日本に来てからはまだですね。
(榎並) せっかく国家試験にも受かったんだから、帰ったら、とは言ってるんですよ。
―今のところその予定はないんですか。
多分、来年の2月くらいに帰ると思います。
―合格してから故郷に帰るのは楽しみですね。
うーん…。
―あれ、そうでもないんですか。
もっともっと立派になってからじゃないと、やっぱり。お母さんと考えているプロジェクトがありますから。
―差し支えなければ、プロジェクトっていうのは、どういうものですか。
フィリピンに家を建てたいのと、お母さんは畑をやっているので、そのために色々と揃えたいなと思っています。
―日本で働くモチベーションとして、お母さんのためっていうのがあるんですか。
そうですね。お母さんを支えたいですね。
―そのプロジェクトのためには、もっと成長して、立場も上がっていきたい、ということでしょうか。
そうですね。
―今後、フィリピンで日本の看護の技術を伝えていきたい、というようなことは考えていますか。
今は目の前の仕事に必死なので、まだそこまではたどり着けていないです。もっと日本語が上手になって、看護の知識や技術もレベルアップさせるのが目標です。今はまだまだ足りていないので、ここでどんどん吸収してがんばりたいと思います。
―まずは日本での看護をしっかり学びたいということですね。
はい、そのうちほかの国でも働いてはみたいです。その国で働いて、フィリピンと何が違うのか、日本と何が違うのか、実際にいろんな経験をしたいです。
―なるほど。例えばアメリカだったとしても、きっと違いますもんね。
いずれは経験したいですね。やっぱり最先端だと思うので。


患者さんからの一言が、仕事の喜び
―ここ世田谷記念病院のいいと思うところを教えてください。
(榎並) スタッフがやさしい?
スタッフがやさしいですね(笑)。
―言わされたみたいになってます(笑)。
本当にみんなやさしいです(笑)。あとは、フィリピンと比べてサービスがいいと思います。あとは患者さんの食事がとても考えて作られていますね。見た目がとてもきれいで食欲が出ますね。おいしいですし。
―多職種が働いている環境っていうのはいかがですか。
そうですね、フィリピンにいた当時は総合病院で働いていて、今みたいにリハビリテーションのスタッフがいるのは新鮮です。フィリピンでは麻痺があってリハビリテーションが必要な人は、入院することはなく、家から通っていますので、ちょっと違いましたね。
―マークさんの今のお仕事での喜びはどんなことですか。
例えばトイレの介助をしたとき「やさしいね、助けてくれてありがとう」って言われたこととか、食事の介助の時に「ありがとう」って言われることですかね。
―やっぱりそういう何気ないことが嬉しいんですね。
そうですね。そこはフィリピンでも日本でも変わらないです。
コンビニのご飯がおいしくて、つい…
―お休みの日は何をしていますか。
友達と出かけるか、出かける予定のないときは、寮で映画とか漫画を見て過ごしています。
―ちなみに漫画はどんなものを読むんですか。
英訳された日本の漫画を読んでいます。最近は『ワンピース』や『はじめの一歩』、あとは『食戟のソーマ』と、『Dr.STONE』という漫画が面白いですね。
―少年ジャンプや少年マガジン掲載作品を中心に読まれているんですね! 友達と出かける時は、どんなところに行くんですか。
まだ行ったことのない場所に行って、たくさん写真を撮って、そのあとご飯を食べて、映画館で映画を見ます。
―すごい充実した過ごし方ですね〜。出かけるのは、観光地的なところが多いですか。
はい、スカイツリーとか、東京タワー、それと浅草とか、六本木のいろんなビルとか。六本木のビルはきれいですね。
―特に良かったところを教えてください。
ビルの名前はちょっと忘れちゃったんですけど、六本木は良かったです。フィリピン料理のお店もいっぱいありますし、カトリックの教会もあって便利です。
―趣味はなんですか。
映画、漫画、あとは、たまにジョギングとか。
―普段運動もするんですね。
ちょっとだけ。最近はやってないので太りました(笑)。
―(笑)。確かに、前に世田谷記念病院のホームページに載ってた時(※)より、気持ちふっくらされたような…。
日本に来て10kgくらい太りました(笑)。
※世田谷記念病院 2018年4月28日の世田谷ニュース
―けっこう増えましたね(笑)。
日本の食べ物のせいですね、おいしいから。
―特にどんなものが好きなんですか。
日本のコンビニは、いろんな弁当とかおにぎり、おでんも全部おいしいじゃないですか。だからつい食べ過ぎちゃって(笑)。
―好きな日本の言葉はありますか。
昨日、初めて知った言葉があるんです。
―お、なんでしょうか。
「親孝行」です。
―すごい、ぴったりな言葉ですね。
まだ自分ではできてないと思っています。
―いえいえ、マークさんは親孝行だと思います。尊敬する人はいますか。
やっぱり両親ですね。あとは世田谷記念病院のスタッフです。


世田谷記念病院
看護師 ビトゥンマークステフェンメッカロス
【出身】フィリピン ミンダナオ島
【資格】看護師
【趣味】映画鑑賞・漫画鑑賞
【好きな食べ物】日本のコンビニフード(おにぎり、お弁当、おでんなど)
【尊敬する人物】両親、世田谷記念病院のスタッフ
【嫌いな動物】大きいクモ(小さいのは平気)


http://setagayahp.jp
医療法人 平成博愛会 世田谷記念病院
東京都世田谷区野毛2丁目30-10
内科・整形外科・リハビリテーション科
急性期病院での治療を終えられた患者さんを迅速に受け入れ、入院早期からの積極的な治療とリハビリにより、できるだけ早く自宅や施設に退院していただくことを目標としたPost Acute Care(急性期後の治療)を専門的に行う病院です。