お知らせ プレスリリース

患者さんに寄り添い、前向きな気持ちを引き出すきっかけに。
世田谷記念病院でドッグセラピーをスタート

世田谷記念病院では、患者さんが犬と触れ合うことで癒やしを感じたり、治療へのやる気を高めたりといった、前向きな気持ちを引き出すことを目的としてドッグセラピーを2021年9月より開始しました。

ドッグセラピーは、当グループの介護施設で飼育している犬と専属のドッグトレーナーが病院を訪問する形で実施しています。

今回、ドッグセラピーを開始したきっかけや実際の取り組みについて、導入を進めた世田谷記念病院の岩原 奈緒子看護部長と長谷川 奨斗リハビリテーション科 課長(※以降、岩原さん、長谷川さん)の話をもとにご紹介します。

 

 

ある患者さんを少しでも元気づけようと、犬を病院へ呼ぶことを提案

世田谷記念病院においてドッグセラピーを始めるきっかけをつくったのは、脳血管疾患を持ち、回復期リハビリテーション病棟に入院された、ある一人の患者さんでした。その方は入院して2、3カ月を経てもあまりリハビリテーションが進まず、精神的にも少しうつうつとした状態が見受けられたそうです。

患者さんが前向きにリハビリテーションに取り組むようになるためにはどうすればよいか、院内の「診療の質向上委員会(※)」で話し合いが進められました。そこで、その方は入院前に一人暮らしをされていた自宅で犬を飼っており、その犬に会いたいと話していた、という情報が挙がりました。それならば、飼っていた犬と会えば自宅に帰る目標と意欲が湧くのではないか、という提案があり、犬を病院に連れてくる手配をすることになったのです。しかし残念なことに、飼っていた犬はすでに里親のもとに預けられていました。

ここで、この案は不可能となったものの、病院では諦めることなく「飼っていた犬でなくとも、ほかの犬と触れ合う機会を設ければ、元気が出るきっかけが生まれるのではないか」という提案が持ち上がりました。

 

「当グループの介護施設ですでに活動している犬とドッグトレーナーに、病院へ定期的に来てもらおう、という話を進めました。患者さんが犬と触れ合うことで、少しでも気持ちが癒やされて前向きになれればいいなと思いました。これがドッグセラピーの始まりです」(岩原さん)

 

 

※診療の質向上委員会

診療の質向上のため、グループ病院内で設置された委員会。各職種がそれぞれの専門性を活かしながら、診療の質について意見交換を行います。当グループの診療の質向上の取り組みについてはこちらをご覧ください。

 

 

長谷川さん(左)、岩原さん(右)

 

 

こうした経緯で、提案から1週間でスタートしたドッグセラピー。きっかけをつくった患者さんは初めて犬と対面した時、少し戸惑われていたものの、笑顔も見せられたそうです。

 

「初めてのドッグセラピーは、ドッグトレーナーがその患者さんに声をかけながら、犬に触れたり、ボール遊びに少し加わったりして30分を過ごしました。はにかみやの性格もあってか、ご自分から積極的に犬に触れようとはされませんでしたが、次第に顔がほころんで笑顔が見られましたね。少し心を和ませることはできたのかな、と思いました」(岩原さん)

 

現在、ドッグセラピーを週に1回、約1カ月半継続していますが、患者さんは以前よりもリハビリテーションに積極的に取り組まれるようになり、前向きな気持ちを持つ様子が見られるとのことです。

 

 

 

ドッグセラピー導入のきっかけをつくった患者さんと、犬との交流の様子

 

犬との交流後に見られる、患者さんたちの嬉しい変化

このドッグセラピーは、第1回目からほかの患者さんにも同時に開始し、継続しています。認知症のある方や、ご自身の障害を受け入れることが難しく、精神的に不安定になられている方など、2名1組で10分ずつ、犬と交流する時間をシェアしています。(最大で6組12名の患者さんを迎え、トータルで1時間のドックセラピーの時間を設けています。)

その内容は主に、ドッグトレーナーとの会話を交えながら、犬におやつをあげたり、膝に乗せてなでたりしてコミュニケーションを図ること。また、犬に直接触れることが怖い方も、ドッグトレーナーやほかの患者さんが犬と触れ合っている様子を見ながら、その場の雰囲気や職員との会話を楽しまれています。

定期的に実施するうちに、それぞれの患者さんには今までになかった反応が見られるようになったそうです。

 

「この病院には、みなさんリハビリテーションを目的としていらっしゃいますが、ご自分の障害を受け入れられずに落ち込み、ふさぎこむ方も多くいるんです。ですが、そこに犬との触れ合いが生まれたことで、その時間に嫌なことを忘れられて“素”の自分を出されるようになりました。ドッグセラピー中の、普段では見られない嬉しそうな表情を見ると、私たちがどれだけ患者さんに寄り添っても、人間では患者さんの心の奥まで入れないこともあるんだな、と感じさせられますね。犬だからこそ、患者さんが閉ざされている部分にもすっと入り込み、心を開かせることができるんだと思います。

犬と接する楽しい時間が前向きな気持ちを促し、リハビリテーションもがんばって取り組まれるようになるという、そんな変化が見受けられますね」(長谷川さん)

 

 

ドッグセラピーの様子

 

 

また、認知症の方で、普段は夕方に向けて不穏な状態になる方にも、ドッグセラピーを受けてからは変化が見られるとのことです。

 

「認知症のある方の中には『ここはどこだろう』『何のためにここにいるのだろう』と、自分の状況がなかなか認識できない方もいらっしゃり、落ち着きを失われることがあるんですね。しかし、犬と交流すると目の前にいる犬に集中がいき、気を紛らわせられるというか、不安なことを考えずにすむ要素が生まれる。だから犬と会った後はすっきりとされていたり、落ち着いて過ごしたりといった様子が見られています」(長谷川さん)

 

このほか、定期的に犬と会うことで、日付や予定の認識が促されることや、「犬と遊ぼう」という目標が持てることも、認知症の方に限らず全ての患者さんにとって有意義な機会であるようです。「ただ犬が好き」という患者さんにとっても待ち遠しい時間になっているとのこと。入院生活が長い方にも楽しみの一つとなるよう、参加の声がかけられています。

 

 

 

 

 

今後さらに、ドッグセラピーの可能性を広げるために

 

このようにドッグセラピーを始めてまだ日が浅くとも、患者さんたちにさまざまな変化があることがわかりました。病院では今後、さらに内容を充実させようと考えています。

 

「例えば患者さんが犬のために何かをしてあげたい、という思いから、来週会うまでに『これをつくって渡そう』という目標を持つことは、生きがいにつながると思います。手芸が得意な人であれば、犬の洋服を作ったり、料理が好きな方が犬へおやつを作って食べさせたりと、そういった取り組みも今後できればいいなと考えています」(岩原さん)

 

現段階では、まだ始まったばかりのドッグセラピーを、病院側もドッグレーナーも模索しながら進めているとのこと。病院は介護施設とは違って患者さんの人数が少ない分、別のアプローチができるため、その点を生かした取り組みを検討中です。

 

世田谷記念病院ではいずれ、この病院専属の犬を飼うことも視野にいれています。

 

「今は週1回で犬が来てくれますが、常に病院に犬がいれば、患者さんがいつでも会いに行けますよね。日付を限定しなくていいので、患者さんの体調に合わせられるし、調子が悪い時でも元気を出すきっかけづくりのために、犬との交流を進められる。また、おっくうに感じて離床が進まない患者さんも、犬がいるとなれば車椅子に乗って会いに行くことを日課とできる。そういった、先々の目標をつくってくれる存在にもなると思います」(長谷川さん)

患者さんの精神状態や入院生活の支えとなる、大きな可能性を持つドッグセラピーですが、「犬と関わって良い影響を受けるのは患者さんだけではない」と長谷川さんは話します。

 

「犬と関わる対象者は、病院の全患者・全職員だと思っています。職員にとっては、まだ『こういうことを取り入れたんだな』と認知し始めた段階ですが、犬がいる環境が当たり前になり、自分にも患者さんにも生かせるようになって、いい影響が広がれば、その次のステップにつなげていけると思います」(長谷川さん)

 

患者さんにも職員にも、日々の生活の“意欲”を与える存在となるドッグセラピー。新たなステージに向かって、次なる取り組みが進められています。

 

 

※掲載文の情報は11月10日時点のものです。

 

 

医療法人 平成博愛会 世田谷記念病院

内科・整形外科・リハビリテーション科

 

急性期病院での治療を終えられた患者さんを迅速に受け入れ、入院早期からの積極的な治療とリハビリテーションにより、できるだけ早く自宅や施設に退院していただくことを目標としたPost Acute Care(急性期後の治療)を専門的に行う病院です。

 

東京都世田谷区野毛2丁目30-10

https://setagayahp.jp/

 

平成医療福祉グループで活躍中の犬たちについて

 

 

 

世田谷記念病院へ週1回のドッグセラピーへ訪れるたちは3匹(※毎回3匹ではなく、日によって訪れる頭数は変わります)。それぞれ専属のドッグトレーナーがおり、普段は当グループが運営する介護施設※に常駐しています。施設で犬を飼い始めたのは2020年4月からでした。

介護施設に常駐犬の導入を進めたのは介護福祉事業部 サービス企画課です。そのスタッフである城野葵さんは、世田谷記念病院とも連携してドッグセラピーの推進に協力しています。

 

「犬は、その場にいるだけで癒やしや元気を与えてくれるし、人にはないパワーを持っています。犬を施設で飼うことで、少しでも利用者さんの心身に良い影響が生じれば、という思いが前提にありました。実際、犬が常駐する介護施設では、犬に触れるだけで笑顔になる方が多く見受けられ、自発性の低下している方が自ら立ち上がって犬に近づく様子なども見られています。

今回病院でのドッグセラピーが始まり、とドッグトレーナーを派遣する手配や内容の調整などを行っていますが、取り組み自体は施設と大きく変わることはありません。ただ、安全・衛生面には、より細心の注意を払っています。また、片方の耳が聞こえにくい、身体のどこかにまひがあるなど、患者さんそれぞれの疾患や状態の情報を共有してもらい、ドッグトレーナーがしっかり配慮しながら犬との触れ合いを100%楽しんでいただける環境をつくることが、これからの課題です。

今後状況が許すのであれば、外出できる患者さんは犬と一緒に川沿いへ散歩に行ったり、病室から出られない患者さんの場合は、その部屋へ訪れたりと、患者さん個別の状態に合わせた、新たな取り組みも模索しながら進められればいいなとも考えています」(城野さん)

 

 

ケアホーム千鳥ケアホーム葛飾ケアホーム板橋

 

 

 

城野さん

 

専属のドッグトレーナーたち

 

当グループのドッグトレーナーについては、本サイトのインタビュー記事「ひとプロジェクト」にて紹介予定です。

予告動画を現在公開中!

 

本編記事は12月10日(金)16時に公開予定です。
ぜひご覧ください!

 

ひとプロジェクト
https://hmw.gr.jp/hitoproject/