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ひとプロジェクト【第39回・後編】世田谷記念病院 在宅医療部 部長/佐方 信夫先生

    • 病院だからこそできる在宅医療の形!
      臨床と研究の両輪で、より良い医療を追求していきます。

    • 世田谷記念病院の在宅医療部で部長を務める佐方信夫先生の後編です。先生が携わってきた研究についてのお話や、世田谷記念病院で働くきっかけ、また、これから作り上げていく「新しい在宅医療の形」について伺っています。臨床とともに研究に取り組むご自身を「中途半端」と評しながらも、今は「それを極めていきたい」と話す佐方先生。その発言に秘められた想いとは。後編もぜひご覧ください!

  • 再びアメリカへ!
    さらに研究でヒット作も

    総合内科医としてある程度のキャリアを積んだところで、研究に取り組むためにアメリカ留学を決めたとのことでしたが、どのようなところに留学されたのですか。

    ハーバード公衆衛生大学院というところへ、修士号を取得するため1年間留学しました。

    ハーバード! どんなことを学ばれましたか。

    名前は有名ですよね(笑)。公衆衛生学といって、広く人々の健康を改善するための学問ですね。疫学や統計学など、実際の研究や政策にどうつなげていくかを体型的に学んで。世界各国から学生が集まっていて、学ぶ環境としては抜群でした。

    以前の留学では非常に苦労されていましたが、今回はしっかり学べたのですね。帰国してからはどうされましたか。

    修士号を取得して体系的に学ぶことはできたけど、きちんと研究ができるまでにはなっていないと思い、東京医科歯科大学の社会人大学院に入ることにしました。働きながら博士号を取りに行って、もうちょっと研究ができるようになろうと。

    もともとは岐阜の総合病院で働かれていましたが、通うためには東京に移られたのですか。

    入学当初は岐阜でまだ働いていたのですが、やはり東京に出た方がいいということになり、世田谷区で在宅医療をやっている診療所で働きながら、研究は都内のシンクタンクに勤めて行うことにしました。週に2日は非常勤で臨床をやって、残りはシンクタンクで働いて研究にも取り組むという生活でした。

    臨床をしながら研究にも取り組まれていたと。

    シンクタンクの居心地が良くて、それなりに論文も書いて世に出たんですよ。新聞の一面にも2度ほど研究が取り上げられたり、あと週刊文春にも掲載してもらって。文春砲ですね(笑)。

    スキャンダルではない文春砲を(笑)。例えばどういった内容でしたか。

    認知症の検査に関する論文でした。認知症には種類がいろいろあって、アルツハイマー型と言われるタイプはよく知られていると思います。そのような神経が変性する認知症以外に、別の病気が原因で認知症の症状が出るものがあります。例えば、甲状腺機能低下症や慢性硬膜下血腫などです。そのような病気は治療して、認知症症状が改善することがあります。

    認知症には、ほかの病気を原因としていて、治るものもあるのですね。

    そうなんです。しかし、認知症として診断されているケースの中に、実際は治療可能な原因であるにも関わらず、検査しないまま見過ごされているものもあるのではないか、という問題意識があったんです。そこで、日本全国のレセプトデータを分析したところ、原因の一つである甲状腺機能低下症の検査を実施していたのは、認知症患者さん全体に対して3割程度だったということがわかりました。

    ということは、もしかすると残りの7割の中にも、甲状腺機能低下症が原因である患者さんがいたかもしれない。

    甲状腺機能低下症が治療できれば認知症も治る可能性がありますので、チャンスを見逃していたかもしれないわけです。そういった注意喚起を論文として発表すると、けっこうヒットして、いろいろなメディアでも取り上げられました。

    ちなみに論文がヒットするというのは、どういう流れで起こるのでしょうか。

    論文は、学術誌に投稿して掲載されただけではそこまで広がらないことが多いのですが、所属する大学などが「こんな論文が掲載されました」とプレスリリースを出すことで、それに興味を持ったマスコミの担当者が「記事にさせてください」と連絡をくれるんです。そのなかでも先ほどの研究が、一番大きく取り上げていただけました。バズったとでも言いましょうか(笑)。

    そう言ってもいいくらいに取り上げられたと(笑)。

    研究者一本の道を選ばず
    臨床にも力を入れていく決意を

    診療所で働きつつ論文も取り上げられて、というところから、この世田谷記念病院に着任されるまではどういった経緯がありましたか。

    研究のやり方や論文の書き方はわかってきて、このまま研究を続けながら、非常勤で臨床を週に2日ほど続けていく、という道も悪くはないなと思ったのですが「どうする? 研究者になりたいの?」って言われた時、人生をあらためて考えたんです。

    どのように考えられたのですか。

    講演会などで自分も含め、研究者は「医療はこうあるべき!」とか語るんですが、「本当にそれは実践できるの?」とか疑問を持つようになって。「医療のここに問題があります」って語っても、自分で現場に踏み込んでないと本当の課題は理解できないんじゃないかって思ったんです。

    自ら現場で感じた問題点だからこそということですね。

    そのためには、自分もちゃんと医療現場に向き合わないといけないと。そこで、今の自分の臨床が中途半端なのではないか、とまたモヤモヤしてきて。

    それならばさらに臨床に力を入れようと。

    ただ研究もここまでかなり取り組んできたので、完全にやめちゃうっていうのはもったいないなと思ったんです。その話を筑波大学の教授にしたところ、クロスアポイントメントと言って、病院で働きながら常勤の大学職員としても研究ができる雇用の形を提案してくれたんです。

    そういった雇用形態があるのですね!

    病院と大学が共同で僕を雇ってくれるような制度で、それを使えば、現場で働きながら常勤として研究もできるよ、と。

    そこから世田谷記念病院とつながるのでしょうか。

    厚労省時代の同僚だった坂上先生(※)とは、お互い厚労省を離れてからもよく飲みに行く仲だったんですけど、当時彼はこのグループですでに働いていて、「世田谷記念病院で在宅医療部を立ち上げようとしていて、部長をやってくれる人を探してます」と教えてくれたんです。

    ※ひとプロジェクト 平成医療福祉グループ 医療政策マネジャー 坂上 祐樹先生

    病院として、訪問リハビリはすでにやっていて、在宅医療部を始めるというタイミングだったと。

    ちょうどそういう時期でしたね、部長の仕事については「週3しか働けないけどいい?」って聞くと、「逆に週3でやれるのなら全然いいですよ」と言われました(笑)。

    世田谷記念病院だからこそできる
    在宅医療とは

    以前も在宅診療に携わっていましたが、世田谷記念病院の在宅医療部に携わることについては、どんな想いがありましたか。

    直前に勤めていた診療所もかなり大きなところだったんですが、自分なりに「もうちょっとこう変えられるんじゃないか」と感じていたところもあったんです。あとは世田谷区は在宅医療をやる診療所がとても多いので、世田谷記念病院があえて進出するからには「病院がやるからこその在宅医療」というものに取り組まなくてはいけないと思いました。

    病院発信だからこそのやり方があると。

    グループの副代表からも「決して近隣の診療所とパイを食い合うことなく、世田谷記念病院だからこそやるメリットのある在宅医療を考えながら取り組んでほしい」っていう話があって。

    その話を受けて、どのような方針を取ることにされたのですか。

    世田谷記念病院はリハビリに力を入れて、患者さんの状態を良くして、在宅復帰につなげている病院です。ただ、患者さんのなかには「ここまで良くしてもらったのでまだ病院にいたい」「退院してリハビリを止めたら悪くなってしまうのでは」と考えて、自宅へ戻ることに不安を覚える方もいらっしゃる。そういった方たちに、この病院として在宅医療を提供して退院後の生活をサポートすることで、より安心して在宅復帰できる状態を作ってあげられるんじゃないかと考えたんです。

    世田谷記念病院の医療を、自宅に帰っても継続して受けられると。

    病院ではすでに訪問リハビリも行っているので、リハビリと一緒に患者さんの生活サポートができます。それと、医師が月に2回行くだけでは十分フォローできないこともあるので、その間に訪問看護も入れるとか、家で生活するなら食事についても栄養指導ができた方いいとか、豊富な人材がいる世田谷記念病院では、そうしたことを実践できるわけです。退院後に集中してそうした支援を行うことで、より自宅での生活に自信を持っていただけるのではないかと。

    入院で在宅復帰までをサポートして、在宅医療で退院後の在宅生活をサポートする。

    世田谷記念病院の医療は「退院したら終わり」ということではなくて、その後の生活でも続きます、ということですね。グループの理念は「絶対に見捨てない。」ですが、さらに「見守り続ける」という言葉をプラスしていくと。退院したらご縁がなくなるのはこちらも寂しいですし、不安を感じる患者さんに対しては、その不安がなくなるまで見守っていきたいと思いますね。

    今現在(2020年1月時点)、患者さんはどのような状況ですか。

    24時間対応も2月から始まりますので、今は引き続き患者さんを募集しているところです。在宅医療部の仕事としては訪問リハビリの患者さん向けの診察がメインになっています。ただ、24時間対応がなくてもいいので、とにかく当院に診てもらいたい、とおっしゃってくださる方もいて、そちらへの訪問は行っています。

    そこまで言っていただけるのは嬉しいことですね。

    世田谷記念病院で受けたリハビリで回復されて「引き続きこの病院の方に見てもらいたい」と、信頼してくださっているんです。そういった信頼感を受け止めていきたいですよね。

    訪問ならでは
    被災後にも迅速な対応

    先生が入職されたのは2019年の10月とのことで、台風による被災の直前だったのですね。

    入職してまだ6日目の出勤で、台風に被災しましたね(※)。
    ※2019年10月に発生した台風19号によって世田谷記念病院が被災。現在は改修工事が完了した病棟から入院受け入れを順次再開しています。最新情報はこちらからご確認ください。

    病棟ではしばらく入院受け入れを中止していましたが、訪問の方ではいかがでしたか。

    病棟は被災しましたが、訪問部門はスタッフさえいて移動手段があれば、患者さんの元には行けるわけです。被災時、訪問リハビリを受けられている患者さんは100人近くいて、不安な想いをさせてもいけないということで、スタッフや副代表とも話して、可能であるなら続けていこうと。被災の翌日から安否確認を兼ねてすぐ訪問を再開しました。

    被災後も迅速にスタートされたのですね。

    ただ、訪問で使う電動アシスト自転車やスクーターはやっぱり水で故障していましたね。なので、近所の自転車屋さんで電動アシスト自転車を一気に大人買いして(笑)。すぐに訪問リハビリのスタッフみんなが、がんばって患者さんのもとを回ってくれました。

    頼もしいですね! 在宅医療に関しては先生のほかにどんなスタッフがいるのですか。

    病棟の方から看護師さん2人と医療事務のスタッフが立ち上げに際して異動してきてくれました。みんなとても優秀で、本当に助けられています…! 在宅医療を立ち上げるには何が必要かを考えて、自発的に提案して色々準備してくれてますし。そのおかげで、なんとか週3の勤務でも成立していると感じています。

    周囲のスタッフさんの力が大きいのですね。

    訪問リハビリのスタッフも丁寧に情報共有してくれて、すごくいい取り組みができています。今後、患者さんが増えてきた時に僕1人じゃ受けられなくなるので、志を共にしてくれる常勤医師を探さないといけないっていうのは1つ課題ですね。

    臨床と研究「中途半端」であっても
    どちらも追求していきたい

    今後の話がありましたが、これからの展望はどのようなものでしょうか。

    当院から退院される患者さんで、在宅医療を希望される方は全部引き受けたいというのが1つと、訪問リハビリを受けていて当院の在宅医療を希望される方についても診ていきたいと思っています。ただ、訪問の患者さんはある程度まで増えたとしても、再入院などで減ることも必ずあるので、患者数がだいたい一定になるラインを見極めてスタッフを揃えて、拡充を完結させたいですね。

    規模については一定の基準でとどめると。

    シェアを拡大して、よその診療所の患者さんを引っ張ってくるということが目的ではないですから。

    先ほどもお話にありましたが、無理にシェアを奪い合うことはしない。

    病院のある世田谷区のエリアは在宅療養支援診療所が多いですし、看取りをやってるところもそれなりにあって、有料老人ホームも多いです。そう考えると、うちはやらないことを決めて、回復期リハビリテーション病棟での入院から在宅生活への架け橋っていう役割に徹した方がいいんじゃないかと今は思っています。

    世田谷記念病院が目指すのはまた違うところに。

    今まで在宅医療の中心には看取りがありましたけど、世田谷記念病院の在宅医療部としては、それだけではない、都市部での新しい在宅医療を発信していきたいです。これをしっかり形にできたうえで、可能ならグループに展開していく、というのが求められている役割かなと思っています。

    研究者としては今後どのような目標がありますか。

    在宅医療のことも研究したいと思っています。都市部だけでなく、地方部では今後どういう医療介護の体制になるかっていうことも考えていきたいです。グループ病院は地方にもあるので、そういうところでは、どういった在宅医療を提供できるのかっていうことにも取り組みたいですね。

    研究自体もまだまだ続けていかれて。

    自分なりにもう一段階やりたいと思っているところがありますので。ただ、ウェイトは下げたので、前のようにゴリゴリやるわけではないです。その辺で、キャリアが中途半端だなとも思いますが(笑)。

    今もそのように思われるのですね。

    週3で臨床の部長をやって週2で研究をしていると「結局どっちやるの?」とか「何がやりたいの?」ってよく聞かれるんですよ。でも答えとしてはシンプルで、どっちもやりたいんです。医者、研究者っていう、特定の職業だけになりたいわけじゃないんですと。僕は自分のやりたいことを、できる限りの時間を使って取り組みたいと思っているだけなんです。こんな中途半端な働き方をしてる人もそう多くはないと思うので、これはこれで極めたいですね。

    どちらもあってこそ、追求できるものがあるわけですよね。

    結局のところ、自分の働きで医療をどうやっていい形にできるか、医療に関わる患者さんやご家族を含めてハッピーにできるのか、って考えたら、臨床だけでなく研究を通しての発信も必要だと僕は思っています。だからこそ、何になりたいかっていうことは重要ではないんです。

    妻と娘たちとの幸せな日々

    では最後に、プライベートのお話を伺います。

    美しい妻とかわいい娘たちと日々過ごしています(笑)。

    素晴らしいご家庭ですね(笑)。お子さんは今おいくつですか。

    5歳と8歳、2人とも女の子です。もうかわいい盛りですね。遊ぶ時間がなかなか取れないんですけど。

    診療と研究とどちらもありますものね。

    でもできるだけコミュニケーションを取って遊ぶようにしています。「もっと仕事をやりたい」っていう想いもありつつ、僕と遊んでくれる時期もそんなに長くないと思うと、「パパと遊びたい」と言ってくれるうちは遊んであげたいですね。そのバランスは難しいですが。研究と在宅医療のバランスを取るのも難しいのですが(笑)。

    (笑)。いろんなところでバランスを取る必要があると。

    子どもに関しては一緒に過ごす時間を増やす、そこに尽きるんじゃないかと思います。あとは妻への気遣い。これは僕のなかの優先順位で最も高いことの一つです。彼女がハッピーであることは、僕にとっても家庭にとっても重要ですから。

    それは何より大事ですね! ちなみに娘さんたちの興味は今どんなことにありますか。

    上の子はピアノを習っていて、とても上手です。本を読むのも大好きですね。下の子は、僕が趣味で園芸をよくやるんですけど、趣味の園芸によく付き合ってくれます。「パパがパンジー植えるって言ってたから一緒に買いに行こう」とか、言ってくれるんです。庭の植木を剪定するときも、切った枝や葉を一緒に拾ってくれて。

    かわいいですね〜。園芸についてはかなり熱心に取り組まれているのですか。

    家の周りに植栽がいろいろと植えてあって、常に管理していないといけないんですよ。日曜の午前中にやることが多いんですけど、家の周りの植物を整えることが、僕の一番の楽しみでもあり任務でもありますね。

    今後、個人的にやりたいことはありますか。

    今年から盆栽を始めたいと思ってます。お年寄りみたいですけど(笑)。盆栽って時間がかかるじゃないですか、育てるのも時間がかかるし奥深い世界がある。今年42歳なんで、今から始めたら62歳の時点で盆栽歴20年になるわけですよ。

    その頃にはベテランですね! 今のうちからキャリアを積んでおこうと。

    やっぱり物事を成し遂げるのは時間がかかるので、その時間を早く始めるとより高みまで行けるだろうと。今年は盆栽を1鉢買ってチャレンジしたいですね。

  • 前編を読む

    profile

    世田谷記念病院 在宅医療部 部長 佐方 信夫(さかた のぶお)

    【出身】愛知県名古屋市
    【肩書】総合内科専門医、プライマリ・ケア認定医、筑波大学 准教授
    【趣味】園芸、コーヒー、盆栽(これから極めたい)
    【好きな食べ物】てっさ(フグの刺身)

    病院情報

    医療法人 平成博愛会 世田谷記念病院

    東京都世田谷区野毛2丁目30-10

    内科・整形外科・リハビリテーション科

    急性期病院での治療を終えられた患者さんを迅速に受け入れ、入院早期からの積極的な治療とリハビリにより、できるだけ早く自宅や施設に退院していただくことを目標としたPost Acute Care(急性期後の治療)を専門的に行う病院です。