ひとプロジェクト

ひとプロジェクト【第38回・後編】 平成医療福祉グループ 栄養部 課長/堤 亮介さん

    • 正しさだけでは語れない、施設での栄養管理に挑む
      管理者として感じる教育の大切さ!

    • グループ栄養部で課長を務める堤さんの後編です。今回は、実際の栄養管理でどのようなことが大切とされているのか、またそのために栄養部が行っている取り組みについて、話を伺いました。年に一度開催の「献立・調理コンクール」や、グループInstagramでのレシピ企画など、栄養部を活性化させる取り組みへの興味深いお話も聞くことができました。ぜひご覧ください!

  • 吸引機を準備しながらお寿司を提供?!
    正しさだけが全てではない施設での栄養管理

    施設での栄養管理ではどんなことが大切になりますか。

    栄養面で正しいことだけが必ずしも正解ではない、ということですね。施設は家みたいなものなので、楽しく暮らしてもらうためには、栄養的な正しさだけが求められるわけではないんです。例えば咀嚼力が弱くて通常の硬さのご飯を食べられない利用者さんが「どうしても寿司が食べたい」って訴えてこられることもあるんですよ。ST(言語聴覚士)の評価ではソフト食しか食べてはいけない状態なのに。

    ご本人としては「どうしても」という想いが強いのですね。そういう時はどうされるのですか。

    その時は、僕と看護師さんが横で吸引機を持って待機したうえで、ご本人には食べてもらいました(笑)。

    えーっ、大胆ですね(笑)!

    でもそれで実際に食べられたんですよ! もちろん、事前にご家族やケアマネジャーと相談したり、カンファレンスでも相談したり、準備は徹底しますよ。

    安全面や健康面は事前に考慮されてからと。そういうことはよくあるのでしょうか。

    よくあるのは、糖尿病があるので普段は制限されているけど、レクリエーションのおやつバイキングではケーキを食べてもらおう、とかですね。やっぱり行事の時に1人だけ食べられないって本当にかわいそうなんですよ。だから事前に医師にも確認して、OKを取ったうえで食べてもらって。

    特に施設は生活の場だと思うと、食事は楽しみとして大きそうですね。

    正しい数値とか、体に最も良いとされる方法は、長生きするためにはいいかもしれないんですが、その長生きの仕方が、その人にとってはベストではないのかもしれない。だから、その方の楽しみを一番健康的な方法で提供できたらいいんじゃないかなって。

    これは、施設の栄養管理としてポピュラーな考え方なのですか。

    どうなんでしょう。どちらかといえばそういう色合いは強いかもしれません。みんな悩み悩みやっている部分ですね。しかも何をやっても正解がないのが施設の栄養管理なので。間違っていることが実は正解っていうのが有り得るのが難しいところです。

    そう考えると、本当に利用者さんとしっかり関わらないと務まらないですね。

    利用者さんの近くにいることが大切です。施設で栄養管理するスタッフは、ユニットの近くで仕事ができるように、パソコンも持ち運べるノート型にして、環境だけでも揃えようとしています。

    栄養科の部屋での仕事だけではなく、ちゃんと近くで仕事をして。

    新施設の図面を考える時も、栄養科の部屋は、管理栄養士が外に出やすく、他部署の人が入ってきやすいよう、設計をお願いしています。もしそういう仕組みになってなくても、スタッフががんばって取り組んでカバーしてくれているところもあるんですけど、できることならば、そういう環境にしてあげたいなと思っています。

    利用者さんの健康のために
    管理栄養士は一生勉強

    管理者として、スタッフへの指導でよく伝えていることはありますか。

    「専門職種になったからには、死ぬまで勉強」ってよく言ってます。個々の能力に差があるのはある程度は仕方ないですが、ユニットを担当する管理栄養士さんによってケアに差が出てしまうと、利用者さんに不利益じゃないですか。だからこそ、努力は怠らないでほしいです。

    ちなみにどういう差が出るものですか。

    経験によって引き出しの数が全然違います。例えば、食事が食べられなくて低栄養になっている利用者さんに対しては、経験が少ないと、高エネルギーのジュースや栄養剤をとりあえずつける、という発想になりがちです。でも、引き出しのあるスタッフなら、まず利用者さんの話をしっかり聞き、なぜ食べられないのかを探ります。もし「ご飯が硬い」と言われれば「じゃあ軟飯にしたら食べられるかもしれないですね」と提案ができる。

    食べやすい形態にして食べてもらうことで、エネルギー摂取量も上がると。

    どうしたら食べてもらえるか考えるわけですね。もし、医師に確認して塩分摂取量に問題がなければ、さらに佃煮をつけてみる、あとは間食でゼリーを出すとか、夜にホットミルクを飲んでもらうとか、方法はたくさんある。大事なのは、それをいかに生活リズムのなかに落とし込んでいけるか。そこまで視野が広げられるかどうかで、差が出やすいかもしれないですね。

    管理栄養士さんの違いが、利用者さんの健康状態にも関わってくる。

    大きいですね。病院では、食べてもらうことが治療でもあるので、そのなかでの栄養管理が正しいわけです。でも施設では、どんな形でもいいから1日の生活のなかで良くしてあげればいいことなので、いろいろな方法を提案できるかどうかで差が出ます。あとは、介護士さんとのやりとりも大事になってきます。介護士さんはみんな忙しいので、そのなかでできる範囲も考える必要があるんです。

    思った以上に管理栄養士さんの役割が重要ですね。

    だからこそ、しっかりとした栄養管理をするために、以前は利用者さん100人に対して管理栄養士1人の配置だったのを、基本的に50人に対して1人の配置にしてもらっています。

    ちなみに、管理者になってから現場の仕事が恋しいという話もよく聞きますけど、堤さんはいかがでしたか。

    僕は、やりがいもあるし、意外と管理者も気に入っています。お給料も上がりましたし(笑)。でもそれで言うと、今は栄養部全体の給与形態もだいぶ見直しがされていますよ。

    どういった経緯でそうなったのですか。

    もう1人の課長と一緒に提案したんです。ストレートに「上げていかないと世の中やってけないです」って、部長にお願いして(笑)。もちろんそれに必要なデータを色々調べたり、現在の求人状況も調べて。特に調理師さんは以前とけっこう変わりましたね。

    調理師さんで言えば、グループオリジナルのライセンス制度(※)があるのも珍しいですよね。

    調理技術の向上を図ると同時に、調理師さんを外から評価できる体制を作ろうということで導入されました。ライセンス取得者には手当てが付きますので、研鑽とともに意欲の向上につながっていると思います。ライセンス試験の項目は普段の調理に関わる内容ですし、日々の業務で質向上につながることを目指しています。
    ※グループ独自で設けられているライセンス制度。くわしくはこちらのページをご覧ください。

    献立・調理コンクール、Instagram
    栄養部を活性化するさまざまな取り組み!

    グループ栄養部の取り組みとしては献立・調理コンクール(※)はとても特長的ですよね。

    一般の企業では開催しているところもあるかもしれませんね。ある程度の規模でできるのは、グループならではかもしれないです。以前から開催されていたのですが、僕が企画業務課に入った時くらいから、段々と今のような形になりましたね。
    ※毎年10月頃、グループの献立・調理の質向上を目的に、各病院・施設の代表者がオリジナルの献立で腕を競うコンクール。実際の様子はグループのInstagramでご覧いただけます。

    各病院・施設がテーマに沿ったメニューを書類で提案する予選を経て、決勝ではそのメニューを審査員の前で一斉に調理すると。大会としてけっこう見応えがありますよね。

    やりたいことを盛り込むうちに、気づいたら派手になったっていう感じですかね。それに連れて大変さも増しましたけど(笑)。

    (笑)。個人的には毎年楽しみにしているのですが、栄養部のスタッフからすると、出場はモチベーションになっているのでしょうか。

    それぞれですね。毎年予選には全国から50献立以上の提出があるのですが、なかにはプレッシャーに感じるところもあれば、忙しくて大変というところもあると思います。ただ、1回でも決勝に出て評価されると、やっぱりやる気が出て、その後も前向きに取り組めるようになるみたいです。

    実際、どういったところが評価されやすいのでしょうか。

    予選に関しては書類審査なので、アイデアの良さや写真のきれいさはもちろん、今年感じたのは、献立の組み合わせとか食材の使い方とか、バランス良くできている施設は評価が高かったと思います。普段使うような食材を用いて、実際に無理なく献立として大量調理ができるというところまで検討できているということですね。

    入賞メニューは実際にグループの病院・施設で提供されますからね。ちなみに決勝はどうやって評価が決まるんでしょうか。

    決勝ともなるとレベルが高いので、みんな悩みながら審査していますが、不思議と毎年、1位だけはちゃんと評価が集中するんです。そこは調理師さんの腕なのかもしれないですね。ライセンスを持っている調理師さんのチームは作業も片付け早くて調理台もきれいで、実際上位にも入っていました。


    もうひとつ取り組みについて伺いたいのですが、グループのInstagramで2週に1度、栄養部スタッフ考案のレシピを掲載していますよね(※)。どんなことを意識されていますか。

    調理コンクールもそうですけど、自分でレシピを考えられる貴重な機会ですよね。しかもそれを、一般の方に発表できるわけです。管理栄養士なら当然知っている栄養の知識も、必ずしもみなさんが知っているとは限らないので、そこをちゃんとわかりやすくレシピに落とし込んで伝えていけたらなと思っています。
    平成医療福祉グループのInstagramアカウントでは「HMW栄養部のかんたん健康レシピ」を掲載中! ぜひご覧ください。

    管理栄養士の普段の仕事では、なかなか考えないことかもしれませんね。

    そうなんですよ、やっぱり人に表現するってすごく大事なことですし、けっこう難しい作業なので、いい経験になるなと思っています。そこが苦手なスタッフも多いので、ぜひ前向きに取り組んでいきたいです。

    時には挫折も大事な経験
    教育にもっと力を入れていきたい

    今後のグループ栄養部の目標はいかがですか。

    もっともっと適切な栄養管理をしていきたいです。そのうえで、学術発表とか、ほかのいろんな取り組みも行っていける。もちろん調理師さんも、無理なく調理提供ができる。それをやるための組織が今整いつつあると思っています。

    栄養部が部門としてしっかり機能し始めたところと言いますか。

    みんなで動ける体制になってきたと思うので、組織をもっときちんと作っていきたいなっていうのが一番大きいところですね。

    そのためにはどういったことが必要でしょうか。

    最近しみじみ思うのは、教育の大事さですね。やっぱり、入職してすぐに期待以上の仕事ができるっていうのはなかなかないことなので。だから、入ってくれたスタッフをしっかり育てていって、その人たちが活躍できるような環境にしていきたいなと思っています。

    教育に関して行っている取り組みはありますか。

    地道に取り組んでいることとしては、関東エリアの施設では、毎月勉強会をやってます。症例発表みたいな感じで、こういうことに取り組んだとか、災害時にサバイバルフーズをこういう風に使ったっていうのを話してもらって共有しています。

    毎月どこかに集まってやられているのですか。

    いえ、テレビ会議ですね。もうちょっと広げていきたいので、僕だけではなくいろんな人に任せることも出てくるだろうなと。最近思うのは、管理栄養士っていう資格自体はただのツールでしかなくて、あとはそこから人としてどういうものを積み上げられるかだなと思います。それをちゃんと伝えなきゃいけないなって思ってます。難しいことですが。

    堤さんのような管理者のポジションも、組織の中から育てていって。

    そうですね、そうやって増やしていけたらと思います。だからみんなもっと現場をたくさん経験して、挫折も味わってほしいです。

    挫折も大事ですか。

    やっぱり一度痛い目を見ないと起き上がれないですし、ぬくぬくしてたら良くないですよ!

    それはまさに、実際ぬくぬく過ごされていた(※)ご自身が体現してますね(笑)。

    はい…(笑)。
    ※前編をぜひご覧ください。

    子どもと遊ぶの大好き!
    家では発泡酒を嗜む素敵なパパの一面

    さて、お休みの日はどう過ごしていますか。

    最近は大学院に通っていることが多いですね。あとは、1歳の子どもがいるんですが、ずっと一緒に遊んでます。子どもは本当にかわいいですよ。

    いいですね〜。ご家族でどこか出かけることはありますか。

    ショッピングモールが多いです。子どもを無料で解き放てる場所に連れていって、「行ってこい!」って(笑)。

    無料っていうところがポイントですね(笑)。ちなみに、家で料理は作りますか。

    作りますよ。もともと一人暮らしの時から自炊もしていましたし。ケーキやパン、クッキーも自分で焼いて、職場で振る舞っていました。

    以前は飲み会も多かったと話されていましたけど、普段お酒を飲むことは。

    お酒は好きですね! でも結婚したら、以前は家でも飲めていたビールとか日本酒が、発泡酒1本になり…(笑)。今はその発泡酒を飲みながら野球を見るのが楽しみです。

    では最後に、個人的な目標があれば教えてください!

    早く子どもと公園で遊びたいですね。今はまだつかまり立ちなので、そのうち一緒に引き連れて公園を走りたいです。

    いつかキャッチボールとかもできるといいですね。

    そうそう! そういうのが一番楽しみです。

  • 前編を読む

    profile

    平成医療福祉グループ 栄養部 課長 堤 亮介(つつみ りょうすけ)

    【出身】京都府京都市
    【職種】管理栄養士
    【好きな調味料】マヨネーズ
    【好きな調理器具】ホーロー鍋

    病院情報

    ケアホーム板橋

    東京都板橋区向原3丁目7-8

    2019年6月に開設。特別養護老人ホーム(ユニット型、従来型)、ショートステイ、グループホーム、ケアハウス、地域包括支援センター等の介護保険サービスを提供する高齢者施設です。