ひとプロジェクト 第60回【後編】世田谷記念病院 臨床心理士・公認心理師/岡崎美帆さん

世田谷記念病院

臨床心理士・公認心理師

岡崎 美帆 さん

Okazaki Miho

患者さんの主体を大切にしながら「個」として向き合う
1から模索した、世田谷記念病院における心理士としての働き方

世田谷記念病院で臨床心理士・公認心理師として働く岡崎美帆さんの後編です。長年働いた教育委員会を離れ、世田谷記念病院へ入職した岡崎さん。院内では前例の無い職種だったため、初めは戸惑うことも多かったと語ります。焦りや迷いを抱えていた当時、それを乗り越えるきっかけとなったのは、あるアドバイスだったそうです。また、実際のお仕事の様子や今後の希望、印象に残る患者さんとのエピソードなど、さまざまなお話を伺うことができました。後編もぜひご覧ください!

  • 「心理士とは何か」から始まった病院での仕事
    個として患者さんと向き合う

    教育委員会の現場で長年働かれた後に、世田谷記念病院へ入職されたのは、どんなきっかけがありましたか。

    当時、この世田谷記念病院に心理士を置こうという話が出て、そこでちょうど縁があった私に声をかけていただいたんです。

    岡崎さん自身、医療分野にも興味は持っていたのですか。

    もともと興味はありましたけど、具体的にどういうことがしたいとか、そういう考えはなく、漠然とした興味でしたね。ただ、教育の現場にずっといることで、自分も鈍感になってしまうところもありましたし、新しい場所で勉強したいなと思っていたタイミングで、このお話をいただきました。

    ちょうどほかの分野にも目を向け始めたタイミングでのお話だったと。グループで言うと、精神科のない病院で臨床心理士がいることは珍しいですよね。

    グループの大内病院南淡路病院には精神科がありますけど、そういったニーズとはまた別ですね。この世田谷記念病院では、グループの新しい試みをやっていこうという方針もあったと思うので、そのひとつだったのかもしれないですね。

    お仕事はどんなところからスタートされましたか。

    言ってしまえばこういった回復期の病院に心理士は基本的にはいないですから、まずは患者さんよりもスタッフのみんなが「心理士っていったいなにするの?」っていうところからのスタートでした。私もどんなことをするか手探りでしたし、ほかのスタッフからしても、どういう仕事を振っていいのか、お互いそういう状態だったと思います。最初はどうしていいのかわからなかったので、回復期の病院で心理士をしている方を探して、千葉にあった病院まで行って、研修させてもらいました。

    患者さんとはどのように関わっていったのでしょう。

    当時いた医師から「この患者さんに介入してみてください」ということで、高次脳機能障害の患者さんやうつ病の患者さん、認知症の患者さんなど、いろいろな方に介入して、カンファレンスで心理的な見立てを伝えて、連携を取れるようなら取っていって。その時期は「こういう患者さんにはこういうことができる」っていうことを探る時期だったのかなと思います。

    実際にどんなことをされるのですか。

    基本的にはお部屋に伺ってカウンセリングをするんですけど、患者さんによってアプローチは違います。ただ、最初は焦りもありましたね。

    どんなことで焦りを感じましたか。

    例えば患者さんと関わる医師、看護師、リハビリスタッフは、みんなわかりやすく自身の役割があって、やっていることが見えて、結果も数値で目に見えますよね。そのなかで、心理士のすることは目に見えないし、結果を数値化することもできない。私が介入した患者さんが元気になられた、でもそれは心理士がどういう関わりでどの部分に関与したかって、結果としては出せないじゃないですか。そこで「心理士には一体何ができるんだろう」と、最初は途方に暮れていました。

    患者さんと関わりながらも、結果が見えづらいことで悩まれていたのですね。どのように悩みを解決されたのですか。

    私のスーパーバイザーをしてくれている先生に相談しました。そこで言われたのが「医師や看護師、リハビリスタッフが明確な役割を持って治療や指導にあたるから、患者さんは入院生活では圧倒的に受け身でいる時間が多い。そのなかで、あなたぐらいは『個』として、患者さんの前に座って、患者さんが主体になって話せる場を作ってあげたらいいんじゃない。あなたの持ち味はそういうところだと思う」という言葉でした。それは今でもすごく心にとめてますね。

    素敵なアドバイスですね! 確かに入院中は「受ける」機会が多いですし、入院や治療のことで、ひょっとしたら言えていないこともあるかもしれません。

    それ以外にも、治療に直接関係ないことでも、例えば突然受傷したことで以前の生活から切り離されてしまった気持ちとか、そういうことをお聞きすることもありますね。そうした姿をほかのスタッフが見て、少しずつ声をかけてもらえるようになったのかもしれません。

    なるほど、そういったケースを重ねていくのをみなさんが目にして「じゃあこういうお仕事をお願いしよう」と。

    そう思っていてくれてたらいいなと。自分ではわからないので(笑)。とにかく「まずは私を知ってもらうことだな」と思って取り組むようになってからは少し楽になりました。

  • 患者さんだけでなく
    スタッフのメンタルケアにも携わる

    今はどういう流れで患者さんと関わっているんですか。

    医師から依頼を受けて、介入することが基本ですね。そのほかにも、スタッフから「ちょっとこの患者さんなんだけど」って相談を受けて関わることもありますし、この病院に心理士がいると知ったご家族から依頼をいただくこともあります。もちろんその際も主治医の許可を取って介入しています。

    医師に限らず、いろんな方が心理士が関わる必要性を感じられて、依頼されているんですね。

    みなさんが、心理士が必要だという視点を持って患者さんに対応されていることがとても嬉しいですね。ちょっと横道にそれるんですが、私自身が介入するだけでなく、例えば理学療法士さんが、自分がどう患者さんに関わっていいか、という相談を受けることもあって、それもすっごい嬉しくて。その職種の専門性に、心理士的な視点をプラスできたら、もっといいものになるはずだと思いますし、そうやって相談をくれることで、私もいい刺激を受けますね。

    それこそ、まさにお仕事が院内で認知されたということかもしれませんね。

    だといいですね。ある程度みんなが知ってくれていて、悪くは思っていないのかなって…びくびくしながらですけど(笑)。

    (笑)。最初にもお話がありましたけど、スタッフさんのケアにも携わるのですか。

    スタッフが笑顔で働ける職場づくりとして、私ができることをできたらと思っています。患者さんやご家族に「この病院に来て良かった」と思っていただくためには、やっぱりスタッフが元気でいないといけませんから。

    スタッフさんからの相談はどうやって受けているんですか。

    個人的に相談をもらってますね。それこそ院内を歩いてる時に声をかけてもらうこともあります。仕事をしていれば精神的に疲れることもありますから、みなさんをエンパワーしていくようなことをしたいなって、漠然と思っています。

    想いを持って働いていると、話を聞いてもらいたいということもありそうですね。

    今はコロナ禍の状況でできていないんですが、院内に限らず、グループのリハビリテーション部や看護部の役職者のメンタルケア研修にも呼んでいただいています。本当に、みんなに元気であってほしいと思いますね。

    例えば、患者さんに対する時とスタッフさんに対する時とで、同じ話を伺うという行為の姿勢にどういった違いがあるのですか。

    まず、患者さんは入院期間が決まっていますし、リハビリを受けて元気になって自宅に帰っていただくという大きな目的があるわけです。なので、人生の問題を解決するというよりは、入院生活のなかで、リハビリの阻害要因となる心配事や悩みがあった時、私が関わって元気になってもらいながら、またリハビリに取り組んでいただけるようにつなげることが、役割となります。

    期間がある程度決まったなかで、リハビリにしっかりと取り組んでいただくためにお話を伺うと。

    かたやスタッフの方は、患者さんと違って期限はありませんので、悩みを少しでも解消してもらって、元気に働いてもらえたら、というところですね。

    ちなみにコロナ禍になって、スタッフさんの心理に与える影響はありますか。

    例えば今は職員食堂でも、感染予防のために会話を禁止していますけど、ああいうことで本当にコミュニケーションが減ったと思うんです。食堂ってそういう場だったので、私も残念に思っています。

入職当初に、大きな経験となった
ご家族とのエピソード

いろいろな患者さんと接してこられたと思うのですが、今までで印象に残っているケースはありますか。

最初の頃に印象的だったのが、突然脳疾患で倒れて入院された70代の男性の方で、お子さんたちから相談を受けました。もともとはリハビリに取り組んで在宅復帰するつもりだったのですが、介助が必要になられて。ただ、ご自宅にはもともと要介護の奥さんがいて、どちらも家族でみるのは難しいということで、お子さんたちとしては「申し訳ないけどお父さんは施設で生活してほしい」と。それをどう伝えたら納得してもらえるか、というご相談でした。

なかなか難しいシチュエーションですね。

頑固者のお父さんと、それに反発するお子さん。コミュニケーションを上手く取れないご家族だったんですね。最初はそのことを伝えるのをお願いされたんですけど、そんな大事なことは第三者が言うわけにはいかないと。それで実際、お子さんから施設のことを患者さんに伝えた時、ご本人はその場では何も言わずに、ただしかめっ面をして話を聞くだけでした。

その後はどうなったのですか。

患者さんと2人になって「どうでした?」と聞くと、「自分が築いた家庭に、なんで帰れないんだ!」と、泣いたり喚いたりされて。そういう気持ちをしばらく毎日聞いていたんです。最初はすごく愚痴を言われていたのですが、そのうちに「一家の主人である自分としては、子どもたちの困ることをするのは本意ではない」という気持ちに落ち着いていかれました。

お話を重ねていくうちに、気持ちが変わっていかれたのですね。

「だから自分が施設に行く」と。「自分が先に行って、奥さんが来るのを待つよ」と私におっしゃったんです。子どもたちがずっと介護に携わるのも大変だから、奥さんのことも自分が面倒みると。ただ、ご自分の出した結論をお子さんたちに伝える前に「自分の想いはここでたくさん聞いてもらったから、子どもたちには余計なことは言わないで、ただ施設に行くことだけ伝えるよ」と言われました。

本当はいろいろお子さんへの想いもあるけれど、それは全部削ぎ落として。

「わかった、行く」って、お子さんたちにはそれだけ伝えていました。この方にとっては、自分の本心をここで吐き出せたから、自分の望む形で大事な言葉を伝えられたのだろうなと思いました。

ご本人としては、一家の主人としての威厳を保つということが大事だったのですね。

ご本人には叱られてしまうかもしれないんですけど、後になってご家族には「お父さんが実はこういう想いを持って結論を出した」とこっそり伝えさせていただいたんですね。すると、みなさんその場で泣かれて「そういう想いでいてくれたと聞くと、あらためて父には感謝するし、施設にも交代で顔を出します」ってお話しされていました。今思い出しても胸が熱くなるんですけど…(ちょっと涙ぐむ)。それぞれの想いがありながら、ご家族の人生の岐路に関わって、少しでもいい形で着地できるようにお手伝いできたなら、お役に立てたのかもしれないなと。

それは、外から結論だけ見てもわからない部分ですね。そういった人生の大きな岐路に立たれることもあって。

すごくセンシティブな、だからといってカルテに載せる話ではないわけです。ご家族全員と、そこまでくわしく話したわけでもないんですが、少しでも納得いく形で、次のステップに進んでいただけたのではないかなと思いました。

ここで働いていくにあたっては、大きな経験だったと言えそうですね。

そうですね。拾いきれないものを拾うと言いますか。

目に見えないけど大事なところに関わるお仕事ですね。

それが別に、心理士にしかできないという仕事ではなくて、看護師さんでもソーシャルワーカーでも、いろんな方がそういう気持ちで患者さんと関わっていますし、実際に実践されている方もいると思うんです。そういうスタッフが何人かいて、こういったところもケアできる病院でありたいなと思っています。私ももっとカウンセリングマインドを共有して、どの職種でも大事だということを周知していきたいです。

今後やりたいことはありますか。

心理士は枠を決められて取り組む仕事ではありますけど、ここへ来て、その枠を緩めて取り組むことへの難しさと面白さを感じているんですね。

ここまで伺ったお話では、枠があるようでないところもありますね。

今は心理士は私1人なので、その考えや捉え方が偏っていかないように、定期的にスーパーバイザーからアドバイスを受けて、修正しながらいかなきゃいけないと、以前よりも思うようになりました。ただ一方で、心理士の枠に囚われず、柔軟に動いていたいなっていう意味では、岡崎という個として求められるものがあれば、そこに専門性を生かしていきたいし、今後どんなことがあるのか、楽しみにしています。

心理士としての枠を生かした仕事と、個としてだからこそできる仕事と、ということですね。

  • 形は変わっても
    応援し合える素敵な家族

    ではプライベートのお話を伺いたいのですが。

    最近実は名字が変わったんですね…(笑)。

    えっ…と言いますと!

    少し前に離婚をしまして、心機一転、岡崎になりました。私の今のホットな話題はこれなんです(笑)。

    まさか取材直前にそんなことがあったのですね…(笑)。

    私もまさかこんなタイミングで取材が来るとは思っていませんでしたけど、背中を押してもらったなと思ってありがたく受けさせていただきました。私としてはすごく前向きな選択ですし、家族みんなが好きな道を見つけて進んで行っていっています。誰よりもそれを応援し合えていて、とても嬉しいことなんですね。

    形は変わっても応援し合っているのは素敵なことですね。

    子どもたちもそれぞれ自分たちのやりたいことを見つけて、海洋学の研究職に就いたり、小学校の卒業アルバムに書いた「野生の動物を助けたい」という夢を実現すべく海外のフィールドに出向いたり、けっこう自慢の家族なんです(笑)。今も仲は良くて、4人でオンラインでつないで食事もしますよ。

    少し安心しました(笑)。最近はお休みはどう過ごしていますか。

    自由な使い方にはなったんですけど、コロナ禍であまり出かけられないので、近所を日がな1日歩いたり、好きなお料理をしたり、のんびりしています。

    個人的に、今後やりたいことはありますか。

    コロナ禍が落ち着いたら、旅行に行きたいですね。

    もともと旅行にはよく行かれていたんですか。

    そこまでたくさん行っていた、というわけではないんですけど。いや、それより今は、みんなと自由に会いたいですね。

    まだなかなか自由に行き来しづらいですからね。

    離れて暮らす家族もそうですし、長年お付き合いをしてる、大学や高校の友だち、最初の職場の同僚とか、そういう人たちに会えないのが寂しいです。やっぱり旅行よりも、そっちですね。

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profile

世田谷記念病院 臨床心理士・公認心理師/岡崎美帆(おかざき みほ)

【出身】神奈川県鎌倉市
【趣味】読書、散歩
【好きな食べ物】茶碗蒸し、お刺身

病院情報

東京都世田谷区野毛2丁目30-10

医療法人 平成博愛会
世田谷記念病院

内科・整形外科・リハビリテーション科急性期病院での治療を終えられた患者さんを迅速に受け入れ、入院早期からの積極的な治療とリハビリテーションにより、できるだけ早く自宅や施設に退院していただくことを目標としたPost Acute Care(急性期後の治療)を専門的に行う病院です。