ひとプロジェクト 第54回【後編】平成医療福祉グループ リハビリテーション部 副部長/裵 東海さん

リハビリテーション部

副部長

裵 東海 さん

Pei Tonhe

少年サッカーを通じて変わった、仕事のスタイル。
スタッフを育てながら、多様性を持ったリハビリテーション部を作っていきたい!

グループのリハビリテーション部で副部長を務める、裵東海(ぺいとんへ)さんの後編です。以前はスタッフに厳しく接し、声を荒げるような場面もあった裵さん。しかし、少年サッカーのコーチング経験を通じて、自身のそんなスタイルに疑問を持ったそうです。今回は、裵さんのターニングポイントについて伺いながら、現在取り組む人材育成や、印象深く残る患者さんとのエピソード、また、今後の展望も伺いました。驚くほど多彩な趣味も飛び出す後編、ぜひご覧ください!

  • 少年サッカーのコーチング経験が変えた
    部下とのコミュニケーション

    現在は、ディスカッションを重ねて落とし所を探るというスタイルで、スタッフと関わっていると伺いましたが、以前はそうではなかったのでしょうか。

    緑成会病院でリハビリテーション課の課長をやっている時は、すごい厳しい管理をしてたんですね。それこそ声を荒げるようなこともあって。

    初めの病院でご自身が受けていたような指導をしていたと。

    30代手前くらいまではそんな感じだったんです。血気盛んだったんでしょうね。

    何かそれが変わったきっかけがあったんですか。

    自分の子どもがサッカーを初めて、そのチームの指導者を始めたんです。もう7年くらいやってるのかな。コーチングのライセンスを取ろうと思って、そのための合宿に行った時に、サッカーを習いにくる世代、7〜12歳くらいの子のための教育論を聞いていたら、自分が仕事でやってたことが「ちょっと違うな」って思うようになって。

    どういうところが響いたのでしょうか。

    子どもには、賞賛のシャワーを浴びさせて、気持ち良くサッカーしてもらうことが成長につながるし、何よりサッカーを好きになってもらうことが大事、っていうことを教わっていくなかで、「自分がやりたいのってそっちだよな」って思うようになって。そこから現場で怒らなくなりましたね。

    当時の現場の人からしたら「急に変わったな」と思われたでしょうね。

    緑成会病院に昔からいる人からは「怒らなくなりましたよね」って言われますね。

    少年サッカーのコーチングを通じて、今までの教え方では、伸びるものも伸びないと気付いたと。

    何かを変えたっていうことではないんですけどね。スポーツってあんまり明確な答えがないじゃないですか。答えがないものをやっていくなかで、トップダウンで考えを落としていっても、それは違うんですよ。

    ただ「やれ」と言っても、それだけでは響かないと。

    その都度その子自身は何かをやっているわけじゃないですか。仕事でも、行動には必ず思考があるので、その行動に対して頭ごなしに否定するんじゃなくて、そこに至った理由を聞くと、それぞれにとっての正義があるんですね。それがグループと合うのかっていう作業を一人ひとりとやっていくようになりました。

    大変な仕事ではありますね。

    深く長くできるかって言うと難しいですけど、極力、自分が触れられたスタッフについては、これをやるようにしてますね。

  • 多くの人材のなかから
    埋もれた才能を掘り起こす

    裵さんの働き方もだんだん変わってきましたけど、今はどんなことに興味を持っていますか。

    自分がやりたいこととしては、人材育成に興味がありますね。言われてはないですけど、求められているのかなって思っています。

    どのように取り組んでいっているのですか。

    今グループ全体で1800人くらいリハビリスタッフがいて、関東だけでも700人くらいはいるんですね。そこで名前が出てくる人って、役職を持った人とかにある程度限られてきちゃうんですよ。そうじゃなくて、そこに埋もれているような、本来能力もあったり、考え方もスマートだったりっていう人を見つける作業をしています。外部から良い人材を取るっていうのは今の流れではあるし、それも必要なんですけど、僕個人としては、700人のスタッフからどう見つけるかっていうのがテーマとしてありますね。

    埋もれているっていうのはどういう状態なんですか。

    一生懸命がんばっているんだけど、なかなかキャリアを上がって来れないとか。実際に現場で「あのスタッフいいですよ」ってオススメされて、会って話してみたら面白い、っていうことがあるんです。大学院で面白い研究をやってるけど、意外と周囲も知らないとか。

    そういうことを全然アピールしてない人も。

    いっぱいいます。「自分は自分の仕事ができればいい」って思うスタッフもいるんですけど、そういうところを拾う作業はけっこうしています。

    そのスタッフに合った立場を作るとか、考えをピックアップしていくとか。

    「企画書になれば上にも提案できるから」って言って、作ってもらって提案していますね。

    育成が仕事の中心にあるんですね。

    あとは喫緊の課題ではないかもしれないですけど、次の世代をどう作るかっていうのは、部長ともよく話してます。もっとグループ規模も大きくなっていくなか、この10年くらいで、次の部長・副部長の人材を作っていくことが、リハビリテーション部にとって次のテーマかなと思っています。

    今のうちから、新しく役職を務められるスタッフを育てていくと。

    そうなってくると、やっぱり若いスタッフを見ていかないといけないんですよね。さらに、僕らがこの立場にいることで、上がっていけないスタッフも出てくると。コメディカル以外のポジションに付けないかっていうことも考えることもありますし、スタッフの次のステップを作っていきたいなって、思っています。

  • 患者さんと触れ合うなかで感じられる
    人生観を大切に

    裵さんのキャリアを通じて、印象深い出来事はありますか。

    患者さんのご家族が印象に残ってますね。今も病院に来られている脳性麻痺の方なんですけど、結婚されてお子さんも2人いらっしゃって。息子さんが高校生の頃から付き添いでいつもリハビリ室に来ていて、最近大学を卒業されたんですね。

    長いお付き合いなんですね。

    その息子さんが当時「将来、理学療法士になりたいんです」って言ったんです。

    お母さんのリハビリを通じて見てきた仕事を志したいと。何かアドバイスされたんですか。

    「きっと理学療法士になって現場に立つ頃には、理学療法士自体の人数も増えてるし、マスに埋もれちゃう可能性もあるよ」って話をしたんです。そこで「もし本気でやる気があるなら医学部に行ってみたら?」って伝えました。

    あえて医師を勧めたと。

    そしたら、彼は実際に医学部に進んで、今年医学部を卒業したんです。こないだそのお母さんにも病院で会って話したんですけど、それは自分の中でけっこうグッときた話ですね。もちろん、彼の学力と努力があったからこそなんですけどね。

    ほかに何か印象深かったことはありますか。

    ALSの患者さんとのことも覚えていますね。元気な時から僕が担当していて、非常に気持ちの強い女性の方でした。だんだんと呼吸もできなくなるけど、最後まで人工呼吸器は付けずにがんばりたいって言われていて。元気に生きる時間を長くしたいからということで、リハビリをがんばられていました。

    それでリハビリに力を入れられていたと。

    こっちも一緒にがんばりますよ、って言っていたんですけど、それでもやっぱり苦しくて心が折れてしまって。人工呼吸器を付けることを選ばれて、違う病院に移っていかれました。今まで目標があって一生懸命やってきたけど、苦しさからは逃れられなかった。でも自分たちがやってきたことは無意味だったかっていうと、全くそうは思わないんです。

    そこまでずっとがんばってきた患者さんが取られた選択ですからね。

    そうなんです。やっぱり患者さんから教わることって本当に多くて。みなさんそれなりの人生経験を積まれてきているわけです。そういうなかで、スタッフが簡単に「自宅復帰は難しい」「施設にしましょう」って言ってしまうことがあると。それってこちらだけで決めることではなくて、最終的に決めるのはご本人ですから。そういうところが蔑ろにされてしまうのは、良くないなと思っています。

    人生の選択ですからね。

    業界的に、リハビリ職も手技に傾倒しがちなんですが、一番大事な生き方や気持ちっていうのを置き去りにしている気が最近しますね。

    それは裵さんが経験を積んできたからこそ思うことなのか、リハビリスタッフの人数が全体的に増えたことで起きていることなんでしょうか。

    両方だと思います。若い時に、今言ったような考え方をするのは難しいかもしれないですけど、そこに人生観を落とし込む上司がいないのかもしれないですね。でも現場にいても疾患のことは学んでも、そういう気持ちのトレーニングって受けないですから。

    どう教えていいのか難しいですよね。

    うちのグループでも「絶対に見捨てない。」っていうことが理念としてはありますけど、それを考え方として教える場面って少ないなって思います。グループ規模も大きくなると、グループ自体への帰属意識が希薄になるスタッフも多くなりますし、そのためにも、スタッフの視座を上げるとか、視野を広げていくのが僕の仕事かもしれないですね。

多様性を持った
リハビリテーション部であるために

今後個人的にやりたいことはありますか。

前に部長に「2年くらい違う部署に飛ばしてください」っていうのは言った気がしますね(笑)。違う刺激が欲しいなあって。

どうしてそう思われたんですか。

本当に現場をがんばってるスタッフっているんですよ。勉強もして、患者さんのことも一生懸命考えてっていう。でも自分はもうその立場にはいないので、その人たちに負けずに何か提供できるとしたら、多様性とか、アンテナを広げてる部分だと思うので。

そういう意味で、新しいインプットが欲しかったんですね。リハビリテーション部全体としてはどうですか。

今も言ったように僕は「多様性」っていう言葉が好きなんですけど、今まで僕らって、バリバリやりたい人にしかフォーカスしてなかったんですね。でもいろんな病院行っていろんな人を見ると、独身の人もいれば、家庭を持っている人がいる、自分の世界観を持っている人もいるわけです。そういうスタッフが、最後までこのグループで働きたいって思える環境やシステムを作りたいなって思っています。

多様性を生かせる働き方ですね。

それってなんなんだろうなって言われたら、正直なんだかわからないし、いろんな問題があると思うんです、お金とか。でも、何か要望があった時に「これとこれは提案してあげられるよ」っていうことができるような組織づくりをしたいなっていうのは本当に思います。家庭環境がみんな違うなかで、働きやすい状況を作れるっていうのが目標ですね。

サッカー、畑、メダカにレザー、コンクリ手練り…
とにかく多趣味!

プライベートのお話もお聞きします。お休みの日はどんなことをされていますか。

サッカーのコーチをやってますね。でも子どもがこの3月で卒業するんですよね。周りからはコーチとして残ってほしいとは言われてますけど。

今後はどうされるんですか。

そこのコミュニティでの関係性もできているので、頻度は減るかもしれないけど、残っていこうかなとは思ってます。

せっかくできた縁ですしね。お子さんは何人いらっしゃるんですか。

3人です。サッカーをやっているのは長男で、下の2人は女の子なんですけど、今までサッカーに時間を使うことも多かったので、これからは時間の配分を考えていこうかなと。あとは自由にやらせてくれている妻に感謝してるので、妻のためにも時間を使いたいですね。

それは素敵ですね〜! サッカー以外にはどんなことをされていますか。

庭を開墾して畑をやってますね。多肉植物とかアロエ、ハーブも育ててますね。隣のおじさんに教えてもらいながらメダカも育てて。あとはバイクも乗りますし、料理もやるし、アイドルとか音楽も好きですし。レザークラフトもやりますよ。

多趣味ですね! レザークラフトはいつから始めたんですか。

緑成会病院に入って2、3年くらいの頃ですかね。作業療法士さんがやっているのを見て、端切れをもらってやり始めて。そのうちにそのスタッフを超えていって(笑)。今や手縫いでバッグも作ります。

(その日持ってたクラフトを見せてくれる)

えーすごい! もう既製品みたいですね。聞いていると、お庭とか家のこともけっこう力を入れてるんですね。

それで言うと最近はコンクリートを自分で1トン練ったんですけど、めちゃくちゃ大変でしたね(笑)。

1トン(笑)! どうしてそんなことをされたんですか。

家の倉庫が土を固めたような床だったんで、下にコンクリートを敷きたいなと思ったんです。ホームセンターで買ってきて手で練って、ワイヤーを入れて。

いろんなことに凝り性なんですね。ちなみにアイドルもお好きなんですか。

以前は後輩とも一緒に現場に行ってましたよ。若いスタッフの中にはくわしい子も多いんで、僕が行ったことないアイドルの現場に連れて行ってもらって、教えを乞うてました(笑)。「ここはこういう風にやってください!」「レスもらってください!」って、楽しかったですよ。

いい関係性ですね(笑)。

そういうのも仕事に生きるし、面白いんですよね。

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profile

平成医療福祉グループ リハビリテーション部 副部長 裵 東海(ぺい とんへ)

【出身】東京都杉並区
【職種】理学療法士
【趣味】レザークラフト、ガーデニング、DIYなど多数
【好きな食べ物】徳島ラーメンとビール(最近はプリン体ゼロ)

病院情報

東京都小平市小川西町2丁目35番1号

一般財団法人 多摩緑成会 緑成会病院

内科・循環器内科・整形外科・リハビリテーション科・脳神経外科・脳神経内科回復期リハビリテーション病棟、医療療養病棟の2つの病床機能を有し、救急、急性期医療後の患者さんを迅速に受け入れ、入院早期からの積極的な全身管理とリハビリテーションを行い、できるだけ早く自宅や施設に退院していただくことを目標としています。また、在宅療養中や施設入所中の方の状態が悪化した際にも、後方支援病院として迅速に受け入れを行います。退院後も、外来診療のほか、訪問・通所リハビリテーションや施設訪問診療などを通し、一貫した取り組みで地域の患者さんを支えてまいります。